鈴がオレたちのクラスに加わってから、オレたちは、休み時間のたびにダンジョンをどう攻略するかについて話し合った。まぁ、主にオレと鈴が話し合って、ゆあちゃんは「うんうん。へ~」と相槌を打つ担当ではあったのだが。
そうこうしていると、あっという間に放課後だ。
「じゃ、今日は帰るから。明日からもよろしく」
「おう」
「また明日ね!」
オレたちは校門前で鈴に手を振る。リムジンが出発し離れていった。
「じゃ、オレたちはいつも通り、訓練だな」
「うん!これからは2人っきりだね!」
「ん?まぁそうだね?」
ゆあちゃんが謎の発言をしてくる。それに機嫌がいいのが気になった。
「えへへ♪(小声)クラスでは3人になっちゃったけど、訓練は2人っきりだから大丈夫、大丈夫……」
なんで機嫌いいん?とは聞かない、なんだかわからんが、地雷な気がしたからだ。
そんなことよりも、鈴のクラス加入特典で得た5ポイントと好感度特典の6ポイント、合計11ポイントをどのステータスに割り振るか。オレはそのことで頭がいっぱいだった。
♢
ゆあちゃんと並んで自宅に帰ってから一旦解散する。
オレはひと足先に訓練場に行って、エニモでモニターを開き、《クラス替え》スキルを眺めていた。
―――――――――――――――――――――――――――
現在割り振れるボーナスポイントは、11ポイントです。
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と表示されている。
うーむ……どれを強化すべきか。悩ましいところだ。ここ一年で上がった現在のオレのステータスはこんな感じだ。
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氏名:咲守陸人(さきもりりくと)
年齢:14歳
性別:男
役職:学級委員
所有スキル:クラス替え
攻撃力:34 ⇒ 55(B+)
防御力:22 ⇒ 35(C)
持久力:69 ⇒ 88(A)
素早さ:35 ⇒ 42(C+)
見切り:9 ⇒ 23(D)
魔力:0(E-)
精神力:70 ⇒ 73 (A-)※割り振り不可
統率力:162 ※割り振り不可
総合評価:C ⇒ B-
―――――――――――――――――
この一年は、アメリカ人の元特殊部隊員の指導の下、地獄の訓練を積んできたので、結構、ステータスが上昇した。こうやってみると、防御力が低いように見えるが、そもそも、モンスターの攻撃は一撃もらえば即死級のものも多いので、防御力を少し上げるような付け焼き刃は意味をなさないだろう。
だとすると、やはり攻撃力か、素早さあたりを上げるのが良さそうだろうか?
ポイント割り振りの参考のために、最近戦ったときのことを思い出す。新橋駅ダンジョンでのことだ。ゆあちゃんは初陣だったから、まぁ置いといて、オレはちゃんと動けていたと思う。あれくらいの敵じゃあ相手にもならない。いまいち、どのステータスが足りないか分からなかった。
次に鈴の戦いのことを思い出す。
「鈴のやつ、すごい動きだったな……」
あいつのアクロバティックな動きを見て、正直、感動した。オレもあんな風に動けたら戦いで便利そうだ。
鈴のステータスを見ると、特に素早さが高かったし、オレも素早さを更に上げれば、あいつみたいに動けるようになる気がする。
いや、やっぱ攻撃力も重要だよな。もっと強いやつにダメージが通らないとマズいし……
ここまで考えて、こんな感じで、ステータスポイントを割り振ることに決めた。
――――――――――――――――
氏名:咲守陸人(さきもりりくと)
年齢:14歳
性別:男
役職:学級委員
所有スキル:クラス替え
攻撃力:55 ⇒ 58(B+ ⇒ B+)
防御力:35(C)
持久力:88(A)
素早さ:42 ⇒ 50(C+ ⇒ B)
見切り:23(D)
魔力:0(E-)
精神力:73 (A-)※割り振り不可
統率力:162 ※割り振り不可
総合評価:B-
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ボーナスポイントの割り振りはこちらでよろしいですか?
Yes or No
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「YESっと!」
モニターをタップするとオレの身体がほんのりと発光した。身体に力がみなぎってくる、ような気がする。
オレがジャンプしながら身体の具体を確かめていると、「おつかれ〜」と言いながら、ゆあちゃんが訓練場に入ってきた。すでに戦闘服に着替えているようで、トレーニングウェア姿だった。
「あ、おつかれ」
ピョンピョン飛び跳ねながら回答する。
「なにしてるの?」
「ステータス割り振ったから試してみようと思って」
「へー?」
「見てて」
オレは見よう見まねで、鈴の動きを真似てみた。走りながらバク宙したり、壁を蹴って回転したりバク転しながら構えてみたりする。
「おぉ〜、パチパチパチパチ」
ゆあちゃんが拍手してくれる。褒めてもらえるとなかなかに気持ちがいい。
「どうよ!」
「すごい動きだね〜」
「だろ!」
「でも、それってステータスあげる前にもできたんじゃない?」
「……え?」
指摘され、ステータス割り振り前のことを思い出す。
「……いやいや……たしかに?アトム!実践訓練!」
「かしこまりました」
オレは不安を払拭するためにアトムと訓練を始めた。
まずは、いつも通り背中の双剣を構える。アトムの方もオレと同じ双剣を持って待ち構えている。
「いくぞ」
「いつでもおこしください」
アトムの同意を聞いてから、オレはアトムに向かって思い切り双剣を投げつける。それと同時に腰から双剣を抜き、走り出すと、明らかにいつもより早く走ることができた。
投げた双剣がアトムに接触するのと同時に、オレの両腕がアトムに届く。ここまで早く接敵するとはオレ自身も思わなかった。
アトムは飛んできた双剣をはじくのが精いっぱいで、オレの攻撃を胴にもらってしまう。そのままの勢いで、アトムの後方に回り込み、一度足を止める。
「凄まじい速度でございます。陸人様」
「今日こそ勝たせてもらう!」
オレはニヤついた顔で接敵し、アトムに攻撃を加えた。弾き返されるが、すぐに高速で離れて、回り込みまた接敵する。ヒット&アウェイというやつだ。
「やっぱあのスキルすげーな!」
「その通りでございますね」
何度目かの接敵のとき話しかけると、アトムから余裕そうな回答が返ってきた。しかし、そのまま高速戦闘を続けていると、「警告、オーバーヒートまであと30秒」というアナウンスが聞こえてくる。
「およ?止めた方がいいか?」
「そうでございますね。降参です」
「おお!やった!ついにアトムに勝った!」
オレは、嬉々として攻撃をやめ、両腕を上げる。そこに、
「へぶっ!?」
アトムのやつがチョップをかましてきた。
「隙ありでございます」
「おま!?おまえ!ずるいぞ!」
「まだまだでございますね。しかし、やはり《クラス替え》スキルというのは凄まじいものです。データによりますと、この一年の陸人様の成長よりも急激に能力が上昇しているようです」
「おま!……まじか?」
「ええ、まじでございます。それは陸人様ご自身も実感されているのでは?」
「まぁ、たしかにな。よし、今日はこれくらいにしておいてやろう」
「ありがとうございます。それでは、お茶を用意しますね」
「うん。ありがと」
「すごい動きだったねぇ」
訓練を終えると、見学していたゆあちゃんが話しかけてきた。
「だろだろ!」
「でも、あれだけ強いりっくんの相手ができるなら、アトムを量産すればダンジョン攻略なんて楽チンじゃないかなぁ?あ、お茶ありがとね」
「いえいえ。柚愛様、私も陸人様と柚愛様にご助力したいのですが、戦闘能力があるロボットはダンジョンに侵入できないのです。申し訳ありません」
「あ、そっか、そうだよね」
ゆあちゃんに続き、オレもお茶を受け取って腰かける。
「それにしても、ちゃんと能力上がっててよかったぁ……ゆあちゃんが焦らせるようなこというから、ドキドキしたじゃん
「それはごめんね。でも、りっくんは、もうちょっと考えてからステータスを割り振った方がいいんじゃない?どうせ、鈴ちゃんみたいになりたい、とか適当な理由でやったでしょ?」
「……いや、そんなことは……」
「はいはい。もういいから今度はゆあの訓練ね」
「ぐぬぬ……」
なんだか、見透かされたようで悔しいので、ゆあちゃんの今日の訓練は厳しくしてやろうと決めた。そのすました顔、いつまで続けれるかなぁ!(ゲス顔)