オレたちは、いつものメンバーに桜先生を加えてリムジンに乗り込み、オレの自宅までやってきた。玄関を開けて、お母さんにひとこと挨拶だけしてから訓練場の中に入る。
「ここが、陸人くんのお家……ドキドキ……」
桜先生の様子がさっきからおかしい。お母さんに挨拶したときも異様にアピールしていたし、なによりゆあちゃんがずっとキレてるのも怖い……
「それじゃ、ゆあのスキルの話と、新メンバーの話をしましょうか。アトム、お茶」
鈴が椅子に座って足を組みながら言う。
「かしこまりました。鈴様」
アトムがお茶の準備をはじめてくれた。
「あ、桜先生、こちらにどうぞ」
「うふふ♪ありがと♪陸人くん♪」
椅子を引くと、何故か嬉しそうにされた。座った後もニコニコとオレのことを見つめ続けてくる。
「りっくん?」
「へ?」
「りっくん!ゆあには!」
「あ!はい!ゆあちゃんもどうぞ!」
キレられたので、ゆあちゃんの椅子も引いて座っていただいた。
こ、こわい……何を怒っているのだろうか……
「めんどくさいわね。ゆあ、静かにしてなさい」
「がるるる……」
とりあえず、鈴が話を進めてくれそうなので、オレも黙って座ることにした。
「それじゃ、改めて自己紹介を。わたしは双葉鈴、こっちが的場柚愛、で、せんせの王子様とかいう咲守陸人よ。よろしくね、せんせ」
「うん。こちらこそよろしくお願いします、双葉さん。私は小日向桜。これから、みんなのサポートをさせてもらいたくて、ついてきました」
「てことは、せんせはダンジョンには入らないってことよね?」
「うん。年齢的に20歳をこえたからもう入れないってのもあるけど……なにより、怖くって……ごめんなさい……」
ペコリと頭を下げられる。
「そこはいいわ。一応確認しただけよ。大学四年生ってことは22歳かしら?」
「今は21だけど、今年22になります……陸人くんは年上でも大丈夫?」
「だ、大丈夫?とは?なにがですが?」
「もう……いじわる……」
もじもじされてしまった。まじでなにが!?
「がるる……」
「で、年齢はいいとして、小日向せんせは、わたしたちに協力してくれる、サポート的なことを担当してくれる、ってことよね?具体的に何ができるのかしら?」
「私ができるのはオペレーターとして、ダンジョンのマッピングと、あとは装備の点検や開発なんかもお手伝いできると思う。私自身はダンジョンに入れないけど、サポートロボットを同行させてダンジョンの地図を作成できるのと、トラップの発見とかもできると思う」
「へぇ、それはすごいな」
「ホントに!?私!陸人くんの役に立てるかな!?」
「え?ええ……まぁ……」
「せんせ、落ち着いて。装備の開発ってのは?」
「あ、うん。えっとね。私、教師としての資格以外にプログラミングも専攻してるから、みんなの装備をカスタムしたり、新しい装備を開発したりとかも出来ると思うの。どうかな?仲間に入れてくれる?」
「んー、わたしはいいと思うけど?あんたたちは?」
「ゆあは反対!」
「オレはいいと思うけど」
「りっくん!ゆあは反対だって言ってるでしょ!反対反対!!」
「ゆあ、シッダウン。陸人の能力のこと考えるなら、仲間は多い方がいい。それはわかってるでしょ?」
「でもでも!」
「もしここで仲間を増やさなくって、陸人が死ぬことになったら、あんた、生きてけるの?」
「でもでも……」
「大丈夫、陸人はあんたのもんよ?」
ちがうが?と思うが黙っておく。
「私は現地妻でも大丈夫です♪(小声)ということにしておきましょう。うふふ……」
「やっぱりゆあはいや!」
「せんせ、ややこしくなるから黙ってて」
「はぁーい♪」
「ゆあは黙らせるとして、あんたのスキルにせんせって入れれるのかしら?」
「どうなんだろ?同い年以外は試したことないけど」
「とりあえずやってみたら?」
「そうだな。ゆあちゃん、オレは桜先生を仲間にしたいと思ってる。許してくれる?」
「うー……」
「先生が仲間になれば、また強くなれる。ステータスボーナスがかなり入るからね。でも、ゆあちゃんがどうしても嫌だって言うなら、オレはゆあちゃんの意見を尊重するよ」
「それは……ゆあが1番ってこと?」
「い、1番?」
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とりあえず、1番だって言っておきなさい
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オレがなんて答えればいいかわからずオドオドしていると、鈴がモニターに文字だけ表示して指示を出してくる。ゆあちゃんには見えないように。
「ゆ、ゆあちゃんが、1番だよ(棒)」
「な、なら……嫌だけど……我慢する……ゆあも、りっくんには強くなってもらいたいから……」
「あ、ありがとう……」
なんかよくわからん流れだが、騙しているような気がして、めっちゃ気まずい。
「話はまとまりましたか?」
「ええ、ようこそ、チームノンデリっくんへ。せんせ」
「変なチーム名やめてもろて」
「うふふ♪やっと王子様と一緒になれるんですね♪陸人くん♡」
桜先生が両手を顔の前で合わせながら、ウキウキした声色で見つめてきた。
……なんですか?その、いただきます、みたいなポーズは……
ということで、新しいメンバーに、桜先生を迎えることになった。桜先生には、オレのスキルと鈴のスキルについて説明し、まずはクラスに加入できるか試してみることにする。
「ゆあのスキルの話、ぜんぜんできないんだけど?」
「ごめんね。このあとすぐだから」
「ぷー……」
ゆあちゃんをなだめながら、《クラス替え》スキルを操作する。今選択できるのは、30席あるうちの5席、25席はグレーになって選択できない。選択できる空席は2席だ。とりあえず、鈴の隣の座席をタップして、〈新メンバー加入〉を選択してみる。
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小日向桜をクラスに加入させますか?
Yes or No
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「おお!いけそう!」
「やったわね」
オレはそのままYESを押す。すると、いつもと違うメッセージが表示された。
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小日向桜はダンジョンに入れません。指導者として加入させますか?
Yes or No
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「ほほう?つまりどういうこと?」
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20歳以上の人物は、クラスの教育担当としてクラスに加入させることが可能です。
しかし、戦闘面では役に立たないため慎重な判断をオススメします。
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「ふむふむ?鈴、どう思う?」
「どうって?あんたに友達30人もできるとは思わないから、なんも考えずに加入させればいいと思うわ」
「……つらい」
「はいはい。デメリットとしては、ほとんどのメンバーを教師にすると、ダンジョン攻略に挑めるメンバーが減る、それだけよね?」
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概ね、その理解であっています。
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「だって。ならいいんじゃない?」
「わかった」
オレは、〈小日向桜を教師としてクラスに加入させますか?〉に対してYESボタンをタップした。空席だった座席に、小日向桜という文字が表示され、名前の右上に〈担任〉という文字が入る。オレの名前の右上には〈学級委員〉と書いてあって、ゆあちゃんと鈴のところには何もないので、これは役職というやつだろう。
「加入できた?」
ゆあちゃんが肩を寄せてモニターを覗き込んでくる。
「う、うん……」
「好感度は?」
「えっと……」
「りっくん?」
見せていいものかと悩んだが、すさまじい圧を感じた。早く見せろ、ということらしい。
「えーっと……」
諦めて、桜先生の座席をタップする。
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氏名:小日向桜(こひなたさくら)
年齢:21歳
性別:女
役職:担任教師
所有スキル:無し
攻撃力:3(E-)
防御力:5(E)
持久力:7(E)
素早さ:8(E)
見切り:2(E-)
魔力:0(E-)
精神力:13(E+)
学級委員への好感度:98/100
総合評価:E
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「……98」
「98?え?そんな……見せて!」
「むぐぅ!?」
顔を思いっきり押しのけられた。
「ほ、ほんとに98もある……ほぼ100じゃない……」
わなわなしはじめるゆあちゃん。
「やぁ〜ん。恥ずかしいですぅ〜♪」
桜先生を見ると頬に手を当ててクネクネしていた。全然恥ずかしそうじゃない。むしろ嬉しそうである。
「が、学生を好きになるなんて!教師失格!」
ゆあちゃんが桜先生の前に歩いて行き威嚇する。
「教師だって1人の女性です!」
桜先生も立ち上がった。
「っ!?りっくんはゆあの幼馴染だから!」
「王子様は私を迎えにきてくれるんです!」
「また王子様とかいって!夢女きもい!」
「キモくない!自分のこと名前で呼ぶとか!ぶりっ子おつ!」
「っー!おばさん!」
「は!?はぁぁ!?なんだこのガキんちょ!ぶっころしてやりゅ!!」
「落ち着きなさい」
Bang!Bang!
「いたい!」
「キャン!?」
鈴がゴム弾を2人のお尻に撃ち込んでいた。尻を押さえて2人がうずくまる。地獄絵図だった。
「モテる男は大変ねぇ」
「……」
「なんとか言いなさいよ」
「……」
オレは何を言われているのかわからないので、思考を放棄することにした。そして、思考を放棄しているオレの目の前にメッセージが表示される。
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小日向桜の加入特典として5ポイント、好感度ボーナスとして9ポイントが付与されます。
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どうやら、ステータスポイントは無事、取得できたようだ。