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第29話 政府からの回答

 桜先生がクラス替えスキルによって、オレのクラスに加入した翌日、教室で担任教師を待っていると、朝礼に現れたのは桜先生だった。


「あれ?なんで桜先生が?」


「それがですね――」


 桜先生は、自分がこの教室にやってきた経緯を教えてくれる。それはなかなかに驚きの話であった。


「今日からこのクラスの担任になるよう言われた?」


「そうなんです……今朝、校長先生に呼び出されたら、そう言われて……」


 教壇に立つ桜先生は、少し不安そうにしている。なぜなら、桜先生は教育実習生であり、教員免許はまだ持っていないのだ。なので、副担任に任命されることはあっても、担任になることはないはず。なのに、これである。


「やっぱり、これってあんたのスキルのせいよね?」


「たぶん……桜先生、校長はなんて?」


「教育実習が終わり次第、そのままここで働いてくれって……」


「なるほど……」


 やはり、オレのスキルは、なかなかに不気味なものだ。《クラス替え》スキルでクラスに加入した人物は、必ずオレと同じクラスに配属されるように、調整される。世の中のルールとかを全部無視する勢いで。


「でも、これで陸人くんとずっと一緒にいられるね♪」


 考え込んでいるオレをよそに、桜先生から明るい声が聞こえてきた。顔を上げて前を見る。笑顔だった。


「ん?まぁ、そうですね?」


「これからもよろしくね♪」


 ふむ?桜先生は不気味さよりも、メリットを優先したようだ。本人が気にしてないなら、このことはもういいだろう。


「それじゃあ、担任になったことだし、さっそくみんなのお手伝いをさせてもらおうかな。まずは、鈴さんの《心眼》スキルをみんなに共有できるよう、脳波デバイスの調整をしましょうか。鈴さん、協力お願いね」


「わかったわ」


「桜ちゃん、ゆあたちは?」


「2人は戦闘訓練かな。柚愛さんのスキル、使いこなせるように練習が必要そうだし」


「了解、りっくん、付き合って」


「わかった」


 了承して立ち上がる。みんなして訓練場に移動だ。

 そういえば、昨日の今日で、桜先生はゆあちゃんのことを柚愛さんと、ゆあちゃんは桜先生のことを桜ちゃんと呼ぶことにしたらしい。どういう心境の変化があったかは知らないが、仲良くなってくれてなによりだ。


「柚愛さん、訓練中、あまり陸人くんとくっつきすぎないように」


 訓練場に移動していると、後ろから声が聞こえてくる。


「そんなの約束できませーん」


「……的場柚愛、実践訓練、赤点っと」


「なにそれ!職権濫用じゃん!サイテー!」


 な、仲良くなってくれて?なによりだ……



 それからオレたちは、4人一緒に訓練する日々を過ごした。桜先生はそれはもう優秀で、3日も経たないうちに、鈴の《心眼》スキルをオレたちの視界に共有できるようにしてくれた。

 イヤーカフス型の脳波デバイスを使って、鈴が見ている敵の弱点やHPを読み取り、同じデバイスをつけたオレとゆあちゃんの眼球にその情報を投影してくれる。

 これで、オレたちは敵の弱点とHPの残量を共有することができるようになった。すごい発明だ。桜先生は「既存デバイスをカスタマイズしただけだよ」と言っていたが、オレたちには出来ないことなので、心底尊敬する。

 いつものテンションに似合わず、すごく頭の良い才女のようだ。オレも賢くなりたいものだ。なる予定はないんだけども……


 それと、桜先生の提案で、鈴の二丁拳銃が新たな装いとなった。鈴のパルクールを極めた身軽な動きと相性がいい、ということで、二丁拳銃にワイヤー銃が備わったのだ。

 この、ワイヤー銃というのがこれまた凄く、銃口が2つあるうちの一つからワイヤーを射出、それが壁などに刺さってからトリガーを引くと、身体を引っ張って高速移動できる、という品物だった。

 なので、ワイヤー銃で壁を撃つ⇒高速移動⇒上の光弾の銃口で敵を撃つ、という華麗なコンボを決めることができるようになった。鈴にしか使いこなせそうにない難しい装備ではあったが、本人は気に入ったようだ。


 こうして、しばらく訓練を続け、あの記者会見から2週間が経っただろうという頃、政府から防衛大附属高校に対して回答が届く。オレたちは、その回答を桜先生の口から聞くことになった。


「政府から届いた回答には、大きく2つのことが書かれていました。それを今からお話しします。」


「お願いします」


 午前中、登校してすぐの朝礼の時間だった。桜先生が教壇の後ろの空間に巨大なモニターを投影し、そこに政府からのメールを表示させる。


「まず一つ目、〈ダンジョン踏破者には、これまでの取り決め通り賞金を授与する〉という内容についてです」


「賞金?そんなのかかってたんだ?」


「あんた……マジでニュースとか見ないわけ?」


「うん。見ない」


「はぁ……」


 鈴は呆れ顔だ。


「うふふ♪まぁまぁ、私から説明しますね。今お話ししたように、ダンジョンには政府から正式な懸賞金がかけられています。その金額はダンジョンの難易度と、ダンジョンに囚われている人物の地位にも影響するのですが、どのダンジョンもかなり高額な金額が設定されています」


「ふむふむ」


「目白駅ダンジョンにかけられていた懸賞金は1億とんで500万円、それを支払いたいので振込先を教えてください。と記載されています」


「……い、1億?」


「ごきゅり……」


 隣のゆあちゃんが息を呑む。


「え?は?1億っていいました?あ!一応500万ですかね!それでも十分高いですけどね!」


「いえ、1億と500万円です」


「……ど、ドドド、どうすれば?そんな大金?」


「ま、ダンジョン攻略に役立てればいいんじゃない?好きに決めていいわよ。わたし、お金に興味ないし」


「か、金持ちめ……お父さんに恩返しでもしようかな……ゆ、ゆあちゃんはどう思う?」


「い、1億あれば……りっくんと夢のマイホームが……い、イチャラブ新婚生活……」


 なんかブツブツ言ってる。


「……ゆあちゃん?」


「はっ!?ううん!なんでもない!ダンジョン攻略!そう!ダンジョン攻略に役立てよ!それがいいよ!」


「使い道は後日考えるとして、どなたの口座に振り込みますか?」


「オレ、口座なんて持ってないぞ?」


「おばちゃんの口座でいいんじゃない?」


「んー、でも、お母さん、1億なんて見たら気絶しそう……」


「なら、防衛大臣のパパにしときなさいよ」


「まぁ、それが無難か。口座についてはお父さんにメールで聞いておきます」


「わかりました。わかったら私にメールしてください。手続きしますので」


「お願いします」


「それでは、もう一つの件、東京駅ダンジョンの開放についてですね」


 オレたち3人は真剣な顔になって前を向いた。こっちが本題だ。


「政府の回答としては、〈もう一つダンジョンを踏破してくれれば、東京駅ダンジョンの開放について検討する〉というものでした」


「検討する?」


「はい。そう書いてあります。私もこの部分が気になりました」


「つまり、検討はしてやるけど、約束はしないってこと?ふざけてるわね」


「ゆあも同じ意見。危険なダンジョンに挑ませようとしてるくせに、なにそれって感じ」


「その通りですね。でも、一応これは正式な政府からの回答ですので、この政府の印鑑が押されたメールを使えば、どうにでもなると思います」


「ふむふむ、それはどういう?」


「かなり強引ではありますが、もう一つダンジョンを攻略したのち、やっぱりもう一つお願い、とか言ってきたら、このメールをマスコミにばら撒きます」


「な、なるほど」


 たしかに多少強引ではあるが、世論を味方につければ政府は動かせる気もする。


「それか、もう今のうちからネットに公表すればいいんじゃないかしら?政府のこんな回答、皆さんはどう思いますかー?って」


「それも一案ではありますが、今はまだ事を荒立てる必要はないかと、まずは穏便にいきませんか?」


「桜先生がそう言うなら。オレは良いと思う。桜先生が1番頭いいんだし」


「うふふ♪ありがとうございます♪陸人くんに褒めてもらえるのが1番嬉しいです♡」


「……あー、鈴とゆあちゃんはどう思う?」


「ま、いいんじゃない?結局、もう一個ダンジョンを攻略しなきゃいけないってのが骨が折れそうだけど」


「ゆあもいいと思う。桜ちゃん、攻略するダンジョンに指定はあるの?」


「いえ、どのダンジョンでもいいそうです」


「なるほど。じゃあ、オレたちの回答は決まりました。〈近いうちにダンジョンを攻略するので、封鎖を解く準備をはじめてください〉です」


「うふふ♪すごくカッコよくて痺れる回答だと思います♪さすが私の王子様♡ウットリです♡」


「ど、どうも……」


「夢女キモい」

「ぶりっ子しばいたろか?」


 教壇に立つ女教師と隣の幼馴染が暗い笑顔で睨み合いをはじめた。怖いのでスルーしておく。


 とにかく、オレたちの次の目標は決まった。


 どこでもいいので、もう一つダンジョンを攻略し、東京駅ダンジョンを開放させる。


 そして、東京駅ダンジョンを攻略し、うみねぇちゃんと鈴の双子の妹、ベルの2人を救い出す。これがオレたちの最終目標だ。

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