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第33話 体力測定で注目されて

 [国立防衛大附属高校、全校合同体力測定当日]


 今日は、朝から全校生徒が体操服に着替えて体力測定に向かう準備を整えていた。防衛大附属の体力測定は、迷宮攻略科の生徒たちを見学するのが名物となっているようで、オレたちは廊下に出たときから好奇の眼差しを向けられた。


「おい、あれが例のダンジョン踏破者の人たちだぜ」

「ほんとだ。オレもニュースで見たわ。リアルで見ると、双葉さんと的場さんってめっちゃ可愛いな」

「いやいや、それはそうだけどさ、まず言うとこそこかよー」


 なんて会話が聞こえてくる。


「ふん。わたしが可愛いのは当然だけど、遠巻きに噂されるのはなんかムカつくわね」


「なんだこいつ。自意識過剰かよ。チビのくせに」


「はぁ?それ以上ノンデリ発言したらぶっとばすわよ?」


「……」


「りっくん、ゆあたちが注目されて嫉妬しちゃったの?大丈夫だよ、ゆあはりっくんから離れないから」


「ん、んー?」


 ゆあちゃんが桜先生みたいなことを言い出した。対抗心でもあるのだろうか。……なんの?


「さっさと行くわよ。最初は握力だったわよね」


「うぃ〜」


 オレは鈴の後ろについて最初の種目に向かうことにした。


 まずやってきたのは体育館だ。握力計の列に並び順番を待つ。列は5つあり、さくさくと測定が進んでいく。待っていると、前の方から「おぉ〜」という歓声が聞こえてきた。

 前を見ると、生徒会長の椿先輩と巫女服の人、えーっと、鳴神先輩が注目を浴びているところだった。


「椿つばめさん、右51.2、左49.6。鳴神栞さん、右55.8、左55.7」


 先生が読み上げた数字がここまで聞こえてきた。女子なのにめちゃくちゃ握力が強い。椿先輩はダンジョン踏破者だからわからなくもないが、鳴神先輩までマッチョのようだ。


「やりますね。栞」


「つばめちゃんも流石だね」


 オレは自分の番がやってきたので、彼女たちの隣の握力計をとって思い切り力を入れる。


「咲守陸人くん、右、ろ、69.2!?」


 先生が驚いた声を出すもんだから周りがざわつく。


「ひ、左、66.8……」


「おい、あれって……」

「ああ、さすが、高一でダンジョンを攻略しちまうやつは違うな……」


 みんなに注目されて、すごく恥ずかしかった。椿先輩と鳴神先輩にも見られてしまう。オレは頭を下げてからそそくさとその場を退散した。


「ひゅ〜、かっくい〜」


 逃げてきたところで鈴のやつがからかってくる。


「うっせぇ、ちび」


「あんたマジでぶっ殺すわよ?」


「へいへい」


「次は長座体前屈だよ〜」


 ゆあちゃんが呼んでいるので、そちらに向かい着席する。長座体前屈の成績は、ゆあちゃんと鈴に負けてしまった。悔しい。

 次は反復横跳びだ。オレたちの周りには、常にギャラリーが群がっている。


「咲守陸人くん、反復横跳び、112回……」


「おぉ〜」


「双葉鈴さん、98回」


「おぉ〜」


 オレたちは動物園のパンダなのか……

 オレが落ち着かない顔をしていると、鈴のやつが堂々とした態度で戻ってきた。


「おまえ、なんでそんな態度でいられるんだ……」


「なにがよ?」


「緊張するじゃん。めちゃめちゃ見られているし……」


「あんた、意外と人の目気にするのね」


「意外とってなんだ、意外とって」


「2人とも、あれ見て」


 ゆあちゃんが指をさすほうをみると、椿先輩が高速で反復横跳びをしていた。


「椿つばめさん、118回」


「わぁー!すごいです!生徒会長!」

「さすがです!咲守なんかに負けないで!」


「皆さん、応援ありがとうございます」


 雑踏に讃えられる生徒会長は手を振っていた。雑踏の中に、なんか気になる声援が混じっていたがスルーしておこう。

 次に鳴神先輩が反復横跳びを披露してくれる。92回という好記録だったのだが、ギャラリーの男子たちにはそれよりも気になるものがあったようだ。


「なぁ、さっきの鳴神先輩の見たかよ?」

「当たり前だろ。見逃したやつはバカだぜ。ブルンブルンボンつってな」


「……」


「りっくん?」


 オレは何も言ってないというのに、笑顔のゆあちゃんが顔を近づけてきた。


「え?なにも見てないよ?」


「なにが〈何も見てない〉よ。あんたもおっぱいに興味あったのね」


「りっくん?」


「ないよ!別に!」


「りっくん?」


「なんだよ!さっきから!怖いよ!」


「あとでお話があります」


「……」


 ゆあちゃんに暗い笑顔で睨まれた。体力測定が終わった後が憂鬱だ。


 このあと、上体起こしと立ち幅跳びをこなし、オレたちはグラウンドへと出た。


「てかさ、仲間探しってどうすればいいんだっけ?」


「成績がいい人に声かければいいのよ」


「ふむ?今のところ、椿先輩と鳴神先輩は凄かったよな?」


「そうだけど、りっくんは生徒会長苦手なんでしょ?」


「苦手とは違うけど、どうかな〜」


 オレたちが次の競技の順番を待っていると、話を聞いていたのか、隣の男子学生が話しかけてきた。同じ高1のようだ。


「なぁなぁ、咲守たちって仲間探ししてるんだよな?」


「へ?あ、ああ、そうだよ。はじめまして?」


「もし良かったら俺たち入れてくれないか?体力測定はA判定取れると思う」

「おい!ずるいぞ!なら俺だって!ダンジョン踏破者ってすごい賞金でるんだよな!俺も入れてくれよ!」

「いやいや!私はどうかな!?サポートくらいならできると思う!」


 話を聞きつけたのか、多くの人に囲まれてしまう。みんな目を輝かせているが、オレはすごく違和感を覚える。


「ちょ!ちょっと待って!すまんけどいいかな!みんな!」


 オレは大きな声を出して、一旦みんなを落ち着かせた。静かになったので、話し出す。


「あの、前提として、〈命懸け〉なんだけど、それは大丈夫かな?」


 シーン……

 静まり返ってしまう。


「そ、そうだよな……なんかごめん……」

「軽率だったかも……」


 みんなも、ニュースくらい見ているのだろう。毎年、何人もの学生がダンジョンの犠牲になっているのを知っているはずだ。盛り上がっていたところ申し訳ないが、覚悟がない人を仲間にすることはできない。


「なんの人だかりですか?皆さん、列を乱さないように」


 オレたちを見かねてか、椿先輩がやってきて言い含めてくれた。ことなきを得る。ほっと息を吐いていると、


「あの、咲守くんたちは、仲間を探してるんですか?」


 椿先輩の横についていた鳴神先輩から話しかけられた。突然話しかけられて驚いたが、他の生徒と違って浮かれた様子は全く見受けられない。


「え?ええ、一応探してるところです……」


「そうですか……条件を伺っても?」


「じょ、条件ですか?お互いに信頼し合って、同じ目標に挑めること?とか?」


「目標というのは、記者会見で話していたことですよね?ご家族を助けたい、という」


「はい。そうです」


「わかりました。教えてくれてありがとうございます」


「いえ……」


 鳴神先輩は、丁寧にゆっくりとお辞儀をしてから椿先輩のもとに戻っていった。鳴神先輩がなにかを話し、椿先輩が難しい顔をしてからオレたちのことを見る。

 な、なんだろう?怒られそうな顔を向けられたが、特になにも言われずに顔を逸らされた。


「なんだったのかな?」


「さぁ?」


「脈ありかもね」


「なにが?」


「鳴神先輩、少なくとも、わたしたちに興味はあるみたいね」


「ふむ?」


 鈴が言うのだからそうなのだろうか?


 そのあと、50メートル走と持久走を行って、今日の体力測定は終了となった。

 オレと鈴はトップクラスの成績をおさめ、ゆあちゃんも普通の生徒よりはだいぶ良い成績を残すことができた。

 生徒会メンバーはやはりすごくて、オレと同レベル、またはそれ以上の人もいたようだ。


 こうして、一日目の体力測定が終わる。明日は、迷宮攻略科の生徒が名実ともに主役となる、特殊な体力測定が行われる予定だ。

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