《主人公視点》
栞先輩の好感度がカンストした翌日、高校の訓練場に入ったら、さっそくそのことを師匠に報告した。
「師匠!昨日、栞先輩に協力してもらって、好感度カンストしたのでステータス割り振りしてもいいっすか!」
「おお、そうか。ま、割り振った後に慣らしも必要だろうし、今日やっちまうか」
「了解です!」
オレはテンション高めに《クラス替え》スキルを開いて、師匠のデバイスと画面を共有する。
「じゃあ、どれに割り振りましょうか!」
「そうだな。まずは見切り、それに素早さだろうな。んで――」
「ねぇ?栞ちゃん?昨日の今日でカンストってどうゆうことなの?ねぇねぇ?」
「ん?」
振り返ると、ゆあちゃんと桜先生が栞先輩のことを左右からニコニコ詰めまくっていた。
「えっと……」
「栞さん?言いましたよね?抜け駆けは禁止だって?」
「で、でも……2人はカンストしてるじゃないですか……私だってここまではその……イーブンなのでは……」
「うにゃー!抜け駆けも許せないけど!どうやってカンストさせたのか教えてよ!」
「それは……秘密……です……」
「なに赤くなってるんですか?そうですか。このオッパイで誘惑したんですね!」
ガシッ!桜先生が栞先輩の胸を鷲掴む。
「きゃあ!?なにするんですか!」
栞先輩のビックマウンテンがぐにゅりと押しつぶされていた。手のひらに余るボンバーだ。
ホント、なにやってるんですか……桜先生……
オレは気まずくなって顔を背ける。ステータス割り振りに集中することにしよう。
「てか、オッサンはどうやって栞の好感度が上がったのか気にならないわけ?兄弟子でしょ?」
いつの間に隣にやってきた鈴が師匠に話しかける。
「ああ?そんなん知らねーよ。あれだろ、会話して信頼を勝ち取った、とかそんなんだろ」
「は?あんた本気で言っての?マジで童貞なわけ?あんたいくつだっけ?」
「……咲守、ステータスの割り振りやるぞ。双葉、黙れ」
「はい!」
「ちっ!」
睨まれた鈴は舌打ちしてから、離れていった。
オレは、改めて自分のステータスを確認する。
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氏名:咲守陸人(さきもりりくと)
年齢:15歳
性別:男
役職:学級委員
所有スキル:クラス替え
攻撃力:70(A-)
防御力:65(B+)
持久力:101(S-)
素早さ:85(A)
見切り:56(B+)
魔力:1(E-)
精神力:88(A)
統率力:435(D)
総合評価:B+
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「こうやって見ると、この半年でスゲー上がりましたよね。特に見切りが!」
「ま、そうだな。意識してそれを鍛えたのもあるがな」
「え?そうだったんですか?」
「あたりめーだろ。俺が何も考えずに修行させてたと思ってたのか?」
「いや……」
思い出すと、ゆあちゃんと鈴には具体的にアドバイスしていたが、オレのときは、「感覚を研ぎ澄ませ」とか言いながらボコボコに殴られてたような気がする。
「んー?」
「なんだ?」
「いえ!なんでもありません!」
文句を言うとまたしごかれそうだったのでお口にチャックだ。
「……おまえの場合、肉体的は十分鍛えられていたが、戦闘の駆け引きが疎かだった。だから、それができるように鍛えてやった」
「ふむふむ」
「だが、駆け引きや、洞察力ってのは数年かけて醸成するもんだ。だから、おまえの見切りの数値は嬢ちゃんよりも低い」
「あーそういえば……」
栞先輩の見切りの数値を見ると、88だった。オレは56なので、比べると、オレの数値が低いことがよくわかる。
栞先輩の場合、小さいころからお父さんに鍛えられていたので、それによって鍛えられたのだろう。
「だが、ここでおまえのチートスキルの本領発揮ってわけだ」
「そっか!数年かけて鍛える能力だとしても、一気にあげることができる!」
「そうだな。武道家としてはムカつく気もするが、そんなこと言ってられねぇ。命をかけるのはおまえらだ。おまえらが生き残れるように鍛える責任がオレにはある」
「あざす!じゃあ、見切りに全振りしますか!」
「いや、待て。嬢ちゃんのカンストボーナスを含めると36ポイントあるんだろ?」
「はい!」
「なら、こんな感じはどうだ?」
「ふむふむ」
オレは師匠の提案通りにステータスを割り振ってみる。師匠が提案してくれたのは、こんな感じだ。
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氏名:咲守陸人(さきもりりくと)
年齢:15歳
性別:男
役職:学級委員
所有スキル:クラス替え
攻撃力:70 ⇒ 74(A- ⇒ A-)
防御力:65(B+)
持久力:101(S-)
素早さ:85 ⇒ 92(A ⇒ A+)
見切り:56 ⇒ 81(B+ ⇒ A)
魔力:1(E-)
精神力:88(A)
統率力:435(D)
総合評価:B+ ⇒ A-
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ステータスの割り振りは、見切りに25ポイント、素早さに7ポイント、攻撃力に4ポイントだった。
「おぉ〜、この心は?」
「まず、さっきも言ったが見切りってのは数年かけないと鍛えれないもんだ。おまえの場合、武術の心得が無かったからこの半年で一気に上がったが、普通の人間は、これ以上は時間がかかる。だから、ここで一気にあげる」
「ふむふむ」
「あとは、素早さについても、普通に鍛えて上がる上限間近だからな。スキルに頼らせてもらう。これ以上は歩法について教えながら、のちのち鍛えてやるよ」
「師匠が一瞬で加速する動きですよね!」
「ああ。あとは攻撃力、これは鍛えれば鍛えるほど上がっていくが、ま、4ポイントってのは感覚だな。今の攻撃力でも十分、あのクソは倒せる。ダメ押しみたいなもんだ」
「なるほど!ならこれでいきます!」
「あ?オレの言う通りでいいのか?」
隣の師匠が謎の確認をしてくる。
「なにがですか?」
「おまえのスキル、おまえの能力のことだろ?俺の言いなりでいいのかよ?」
「え?だって、師匠の言葉ですし」
「……」
師匠が目を閉じて腕を組む。
「師匠?」
「咲守」
「なんすか?」
「なんだ……おまえが、俺が鍛えた中で1番見どころあるよ」
「へ?なんすかなんすか!珍しいっすね!褒めてくれるとか!めっちゃ嬉しいっす!あれですか!一番弟子ってことでいいですか!」
「……うぜーな……ま、ダンジョンを攻略してきたら一番弟子ってことにしてやるよ」
「マジすか!じゃあ確定ですね!だって、師匠が100%勝てるように鍛えてくれたから!」
「はぁ……それはそうなんだが、絶対に油断だけはするな。おまえの選択一つで仲間が死ぬと思え」
ピリッと緊張感が走る。オレはニヤつくのをやめた。仲間が死ぬと言われ、みんなのことを見る。みんなはまだワイワイ栞先輩のことを話してるみたいだった。全員、大切な仲間だ。誰かが欠けるなんて考えられない。考えたくない。
「俺は、俺の選択のミスのせいで、6人のダチを殺した。全部、俺の責任だ」
「……」
「咲守、おまえは俺のようになるな。ならないようには鍛えてやったつもりだ。自信を持って、油断せず、冷静に敵を殺せ」
「……はい!!」
オレの大声にみんなが振り向く。「なんでもないよ」と手を振ってから、オレはステータス割り振りの決定ボタンを押した。
最後の仕上げが完了した。
オレたちはまた、攻略不可能と言われたダンジョンに挑むことになる。