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第三王子は美形の宰相から逃げられない
第三王子は美形の宰相から逃げられない
厘/りん
BLファンタジーBL
2025年06月28日
公開日
1.1万字
連載中
大国 クリスタ王国には三人の王子がいる。 第一王子カイヤは王太子。女神に『智』の加護をもらい隣国の姫と結婚。子供が生まれて将来は安泰。 第二王子ガイは『戦』の加護をもらい、騎士団団長へ。 第三王子の俺、カイルは上の兄たちには学業も体力も敵わなかった。  もう母(王妃)譲りの美貌で微笑むしかない。いつからか【微笑みの王子】と言われて老若男女問わず人気があるらしい。俺はイメージを崩さないように猫かぶりして過ごしてきた。  だがいつもしつこく絡んでくる奴がいる。美形の宰相 アレックス。 奴はそこにいるだけでキラキラとライトが当たっているようなオーラを振りまき、視線が合えば男女問わず魅了するという魔性の男。 俺の十八歳の【成人の儀】に奴が数年ぶりに帰ってきて…。  

第1話 


  優秀な兄がいると大変だ。


 俺は強国クリスタ王国の王子。第三王子のカイル。


  大国 クリスタ王国には三人の王子がいる。

第一王子カイヤは王太子。女神に『智』の加護をもらい隣国の姫と結婚。

子供が生まれて将来は安泰。

第二王子ガイは『戦』の加護をもらい、騎士団団長へ。

第三王子の俺、カイルは上の兄たちには学業も、体力も敵わなかった。


  普通なら兄たちに敵対心を持つところだが、あいにく俺は皆に可愛がられて育った。

 王位を狙うだとか、兄を引きずり落すなんていうことは考えられなかった。それでも王族なので、悪い考えを企んでいるやつらに隙を見せないように猫を被った。


  母(王妃)譲りの美貌で微笑んでいると、いつからか【微笑みの王子】と言われるようになった。

 『老若男女、街の好きな王子様ナンバーワン』になったらしい。俺はイメージを崩さないように猫かぶりして過ごしてきた。


  週末の王族顔見せがあって、バルコニーから国民へ顔見せをする時間がある。

 王族が勢ぞろいをして国民へ手を振る。

 お城の高い場所にあるバルコニーなので、危険はないが顔は見えるし声も聞こえてくる。


  「時間だ。出るぞ」

 「はい」

 一番上の兄、カイヤ王太子の呼びかけで王族はバルコニーに出た。するとドッ! と、どよめきが起こった。


 「カイヤ王太子様並びに、第二王子ガイ様、第三王子カイル様!」


  わああああああ――!

 すごい声援だ。たくさんの国民がお城まで集まってくれて、ひと目俺達に会いたいと来てくれている。


 「カイル、手を振るってやれ」

 「わかりました、カイヤ兄さま」

 ガイ兄さんに言われて俺は、にっこりと微笑んで手を振ってみせた。


 きゃあああ――――!

「カイル殿下――!」

 「カイル様――!」

 「カイル殿下ぁ――――!」

 今度は、黄色い声がたくさん聞こえてきた。ちょっと引くくらい、俺の名前が連呼されていた。


 「人気があってよろしい」

 長兄の言葉にすぐ上の兄は、うんうんと頷いていた。


  王族顔見せの時間は終了して、それぞれ自分の場所へ戻っていった。兄弟だけどそれぞれ住む場所が違う。

 俺は第三王子。王位継承権は三番目。兄たちは健康で強いから、王位はめぐって来ない。俺はガラじゃないし良かった。


  「カイル様、お疲れさまでした」

 子供の時から世話をしてくれている、じいやが労いの言葉をかけてくれた。

 「ありがとう。しばらく庭で休む。疲れた――」

 「かしこまりました」


  猫を被っている俺は、兄さま達にも猫を被り続けている。兄弟とはいえ、兄は王太子と騎士団団長。距離がある。

 じいやくらいにしか、本性を見せられない。

 「あ――、疲れた」

 そう言って俺は、王族専用の庭のベンチで横になった。こんな姿、みんなに見せられない。


  ずっと笑顔でいたから顔の筋肉が痛い。両のほっぺを引っ張って伸ばした。

 天気が良くて空が青い。ふう、と深呼吸する。


 明日は俺の十八歳の【成人の儀】がある。この国の王族は十八歳になると、女神様の加護がもらえる。


 第一王子カイヤは女神に『智』の加護をもらった。

第二王子ガイは『戦』の加護をもらい、騎士団団長になった。――俺は何の加護をもらえるのだろうか?


 大したことのない加護だったら、国のために隣国の姫をめとってさらにこの国をもっと強くするか、利益のある国の王配になるか。国の有益な貴族に下がるか……。どちらにしてもこの国にとって役に立たなければならない。

 「ふわあ……」

 朝から支度に忙しかったから疲れた……。

メイドさん達が張り切ってくれるのは嬉しい。けれど、男なんだからそれなりにしてくれればいいものの、気合いを入れてくれたから時間がかかって……。

 眠くなってきた。俺は誰も来ないことをいいことに、無防備に居眠りをしてしまった。



  『こんな所で眠ると、風邪を引きますよ』

 低い、良い声が聞こえた。兄たちの声ではない……。ふわりとあたたかいものが近づいて、頬に触れた


 「誰だ!」

 俺は誰かが近づいたのを感じて飛び起きた。王族の命を狙うものは少なくない。

 うっかり寝てしまったけれど、ここは王族専門の庭だ。遠巻きに控えている護衛もいる。怪しい者が近づけないはず……。



 「いかがなさいました? カイル様」

 俺の声が聞こえたのか、じいやが急いで来てくれた。怪しい者は見た限り、いないようだった。

 「……いや、何でもない。部屋へ戻る」

 「はい」


  のんびり寝てる場合じゃなかった。庭の出入り口で控えていたじいやと一緒に部屋へ歩いていった。

 「カイル王子様よ!」

 「まあ、素敵……!」

 声の聞こえた所にいたご令嬢へ微笑んだ。


 きゃあ!

 「微笑んで下さったわ!」

 「私にも!」

 黄色い声が聞こえた。


  お城は広く、歩いていくのは時間がかかる。特に王族の住む場所は守られているので、お城の奥にありがちだ。

 たどり着くまで、色々な貴族や臣下に会ってしまうのが面倒。

 でも微笑みを返すのは俺の仕事だ。


 「ん?」

 何だか廊下の先が騒がしい。ここはいわゆるお城の頭脳。政務室がある場所。


 向こうからキラキラしたオーラを放つものが目に入った。何だ?


 「っ!」

 下品な声が出そうだったが飲み込んだ。幼いころから訓練された猫かぶりが役に立った。


 向こうからやってきたのは視線の合った者が全員魅了されるという……。

魔性の男 宰相のアレックス・ファストだった。












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