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第5話


「あ――あ。せっかくカイルに、魅了よけの魔石をあげたのに無駄だったか……」

 人気のなくなった教会で、まだ残っていた第二王子と第一王子が第三王子と宰相のことを話していた。


 「そうなのか? ガイ」

 カイヤ王太子は知らなかったのか、弟王子のガイに言った。

 「ああ。冷静冷血のアレックスが、カイルへの執着が強すぎるからの魔石を渡していた」


 「でも役に立たなかったな。割れてしまったらしい」

 ため息をつきながら第二王子のガイは王太子のカイヤに話した。

 「なんと! それほどまでアレックスやつの魔性が強かったのか……!」

 「ああ」


 「聖女のカイルに魔性のアレックスを伴侶に選んだのは、女神様の選択なのか……」

 兄たちは深いため息をつきながら教会を後にした。



******



 ちょっと時間をさかのぼって……。


 パリ……ン!

 「あっ! 兄さまにいただいた魔石が割れた……」

 魔のものから守ってくれる魔石が割れてしまった。せっかくガイ兄さまにいただいた魔石なのに……。

 「私が代わりのものを贈りましょう。カイル殿下の気に入ったものをいくらでも」

 フワッとアレックスは微笑んだ。その時、ブワッと笑顔が俺に刺さった。


 「い、いや? 一つで十分です」

 顔を反らして答えた。顔まで赤くなっている気がする。今までアレックスの笑顔は何とも思ってなかったのに、おかしい。

 「……なんて控えめなんだ! 今まで近寄ってきた者は、私に宝石やお金を奪おうとする者ばかりでうんざりしていた」

 苦虫を嚙み潰したような顔をした。よほどひどい目に合ってきたのだろう。その美貌じゃ無理もない。

 「俺……私は男だし、そんなに要りませんよ」

 ジャラジャラ宝飾品をつけるのは重くていやだ。ただそれだけだ。


 「カイル殿下!」

 「あっ!?」

 俺は普通の男性の身長体重だけど、アレックスは俺の脇と膝裏を持って

 おいっ!? そこはお姫様抱っこじゃないのか!


 「お姫様抱っこも良いですが、それはカイル殿下が逃げてしまうでしょう?」

 頭をアレックスの背中側に、足を前側に俺は担がれてアレックスは移動を始めた。

 「それはそうだけど! おい、下ろしてくれ!」

 足をジタバタと動かした。


 「危ないですから、おとなしくしていてください。カイル殿下」

 スルッと脚を撫でられた。

 「んっ!」

 歩きながら、俺の脚を優しく撫でている。さわさわと、きわどい所も触っていた。

 「……カイル殿下。意外と鍛えてますね」


 「あ、んっ!」

 変な声を出してしまった。

 鍛えているのは秘密だった。いざという時に兄たちの力になりたいから。末っ子なので甘やかされて育ちたくなかったからだ。

 「……そんなカイル殿下が、好きですよ」

 アレックスは俺を肩に担ぎながら、愛の告白をぶち込んできた!


 軽くはない俺の体を担ぐような、俺より鍛えているアレックスに言われたくない。

 「そうか」

 何となく……こうなる予感はしていた。アレックスは俺をあきらめなかった。

 何年も国を離れていても俺に手紙や贈り物を送ってくれていたし、帰ってくると誰よりも先に挨拶をし、笑顔を見せてくれた。


 受け入れない態度をしていた。……だって顔が良すぎるから!


 しばらくするとアレックスの自室についたようだ。器用に扉を開けて中へ俺を担ぎながら入った。

 「そろそろ苦しいぞ、アレックス」

 頭が下だったから、クラクラしてきた。

 「すみません。今、下ろしますね」

 アレックスは、俺を柔らかい場所へ丁寧に下ろしてくれた。仰向けに寝転がると、どうやらベッドの上に下ろされたようだった。


 「……アレックスは俺じゃなくて、どこかの国の姫様と結婚すれば王配になれるぞ。お前にはその器がある」

 寝転がりながら、横を向いてアレックスに言った。きれいなお姫様と美形な王配。絵になるだろう。何でこんな兄よりも劣る俺に執着するのだろう。

 「あっ!? いたっ……!」

 アレックスが俺の上にのしかかってきた。手首を掴まれてシーツに押し付けられている。力が強くて振りほどけなかった。


 「カイル殿下は……、私の想いを甘く見ている」

 真下からみたアレックスは、怖いくらい顔が整っていた。少し唇の端が上がっていて、下にいる俺の方が不利だと言っているようだ。

 身分では俺の方が上だけど、こうして組み敷かれているとそんなものは何にもならない。

 もしもアレックス以外に組み敷かれたとしたら、躊躇なく隠し持っている短剣で相手を仕留めるだろう。そのくらいアレックスには気を許してしまっている。


 「で? どうするつもりだ?」

 ニッ! とアレックスに笑って見せた。

 「カイル殿下に私がどれだけ思い焦がれているか、わかってもらいます」

 懇願するわけではなく、脅すわけでもなく、宣言したアレックス。


 俺は思わず笑った。

 「うん。知りたい」

 アレックスの瞳に笑っている俺が映っていた。一瞬、戸惑ったアレックスだったけれど、気がつけば柔らかいものが唇に触れていた。

 「ん!?」


 「……あなたが好きでした」

 アレックスの熱を受け入れている時に、怖いことを言ってきた。え、その時からずっと?

 「マジか……」

 それは逃げられないはずだ。産まれたときからなんて。


 「でも、幸せだからいっか……」

 どうやらアレックスは、俺の猫かぶりをとっくに知っていたらしい。

 これからはこいつの前で猫を被らなくていいようだ。


 アレックスの激しい執着と溺愛におぼれそうな俺だけど、これからアレックスと進んで行く未来が楽しみだ。









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