二〇二五年は、ある奇妙な事件が起こったために特別な年となった。その噂が港に住む人々を興奮させ、内陸の人々の心を騒がせたのは言うまでもないことだが、船員たちは特に不安に駆られた。貿易商、船主、遠洋航海の船長、商船や小型船の船長、政府が、この事件に極めて大きな不安を抱いた。
実際、これより少し前から、何隻もの船が、海上で、《とてつもなく大きなもの》と出会していた。それは、長くて、紡錘形で、ときどき燐光を発し、鯨よりもはるかに大きい、鯨よりもはるかに速い物体だった。
この物体の出現をめぐる事柄は様々な航海日誌に記され、物体か生き物かわからない《とてつもなく大きなもの》の構造とか、動くときの信じられないような速度とか、驚くべき移動の馬力とか、生まれつき備えているらしい特別な生命力などについては、どの記録もかなり正確に一致していた。鯨だとすれば、これまで科学的に分類されていたどんな鯨をも超えるような体の大きさだった。
二◯二五年七月二十日に日本沿岸から東方五浬の海上で《とてつもなく大きなもの》に出会した星川汽船会社のドライバルク船〈ジェット・ビートル号〉屯田船長は、目の前にあるものをまだ知られていない暗礁だと思い込んだ。