「ユウちゃん! よかったぁ、 無事だったぁぁ!」
顔をくしゃくしゃにしたミナが俺の胸に飛び込んできた。
俺はミナの髪をポンポンと優しく叩いた。
「心配かけてごめんな。でもこれで一件落着だ」
「なかなかやるでござるな、ユウト殿」
「さすが、我らが認めた男だ。ガハハハ」
みんな思い思いに俺を励ましてくれる。
木造校舎が燃える中、赤々と映るみんなの無事な姿に、少し鼻の奥がツンとなったが、恥ずかしいので黙っておくことにした。
「さ、帰ろう。早く帰ってタケル君の無事をみんなに知らせないとな」
「そうね、もう何も心配いらないって伝えてあげましょう」
俺たちは学園の入り口へ向かい、2台の電動バイクへまたがった。
後ろに座ったジュエリに声を掛ける。
「大丈夫か? ちゃんと捕まってろよ?」
「ん……」
空は少しだけ白み始め、建物や山間の輪郭をうっすらと映し出していた。
こんな廃墟だらけの風景を不思議と美しいと感じてしまう。
隣のバイクにはアリサとミナが乗り、その横をゼッドとダリオが走る。
ダリオに至ってはタケルを肩車したまま走っている。どんだけパワフルなんだ。
「……っ」
俺の腰に回したジュエリの手にぎゅっと力がこもった。
「……っ、……っ!」
どうやら泣いているようだった。
顔をうずめたまま声を押し殺している。
彼女のことだ、泣いてることも悟られたくないと思っているのだろう。
「少し明るくなってきたな、走りやすくなってきたぞぉ」
俺はどうでもいいことを言いながら、必死で彼女を慰める言葉を探していた。
しかしそれから10分経っても何も言葉が出てこなかった。
シュウウゥゥゥ……
「あれ?」
途端にバイクの調子がおかしくなった。
アクセルを捻っても思ったような推進力が出ない。
悪戦苦闘しながらあれこれと試したが、とうとうバイクはゆっくりと止まってしまった。
「どうしたの?」
ミナが横付けされたバイクから身を乗り出す。
「いや、なんか調子悪いみたいでさ、壊れたのかな」
電源ボタンを押してもうんともすんとも言わない。
「ねぇ、それって、ガス欠なんじゃないの?」
「あ、充電が切れたのか……マジかよ」
考えてみれば、今日は朝からスカイツリーまで行って、そのまま『クロイワ連合』までやってきたんだった。
距離にして80km以上走っている。
そりゃ充電がなくなってもおかしくないな。
「……ぷっ」
俺の背中越しにジュエリの笑い声が聞こえてきた。
「あっはははは! なんやねんそれ、こんないいシーンでガス欠とか、かっこ悪すぎちゃう? あはははは」
「くそぅ、俺の見せ場が台無しだな」
そう言いながら大笑いするジュエリを見て、俺は心底ほっとしていた。
「仕方がない、押して歩くか。あと1時間もすれば拠点に帰れるだろ」
「ジュエリちゃん、こっち乗って、変わろうよ」
「ええよ、ええよ、ウチもユウっちと歩くから」
アリサの提案をやんわり断ったジュエリは、バイクを引く俺の隣で歩幅を合わせた。
アリサとミナも電動バイクを降り、俺たちの後ろをゆっくりと付いてきてくれている。
結果、行きの時とは対照的に、帰りはみんなでのんびり歩いて帰ることになった。
「なんか、心配かけてごめんな。おとんのこと考えたら、感情がぐちゃぐちゃになって涙が止まらなくなってん」
「ん? なんのこと? 俺はなんにも気付いてないよ」
それを聞いたジュエリは再び噴き出した。
「ユウっちはええ男やなぁ。でも、もう大丈夫や。心の整理はついたさかい、いつものウチに戻るからな」
「ああ、これからもよろしく頼むよ。ジュエリはもう俺たちの家族だからな」
「……あ、あんま真顔でそういうこと言わんといて」
俺の服の裾を握りながらジュエリは俯いた。
そんなジュエリを見て俺は微笑ましく思った。
「さすがに疲れたな、なんて長い1日だったんだ……」
「ほんまにな~、ウチ、お腹が空いて倒れそうや」
「ジュエリは、拠点に帰ったらまず何がしたい?」
「んー、そうやな、まず腹いっぱいになるまでご飯食べたいねん。この間食べた焼うどんが最っ高やな!」
口の端を拭う手ぶりで興奮したジュエリがそう言った。
「あ、あとな、みんなの服と髪形を一新して、ジュエリコレクションを開催したいねん。ウチら女子はみんなレベル高いからな~」
「おお、そりゃ楽しみだな」
「ユウっちも参戦するんねんで? カッコエエ姿に魔改造したるわ」
そう言ってカラカラと笑った。
「ねえ、お姉ちゃん、いいの?」
「え? 何が?」
数m後方を歩いていたミナがアリサに尋ねた。
「ユウちゃん、取られちゃいそう……」
そう言ってミナはユウトとジュエリの仲睦まじい光景に目を戻した。
「いいのよ、今は彼女に譲ってあげましょう」
「ええ~、アタシはなんかやだなぁ……」
「全てはユウト次第、だからね」
アリサの大人な対応に驚きながらも、再び笑顔に戻るミナ。
「へへっ、アタシも負けてらんないね!」
「きゃっ、何よ急に、もう……」
バイクを押すアリサを後ろからハグするミナ。
その更に後方でゼッドがダリオにぽつりと言った。
「前のほうは華やかでござるな」
「ガハハ、確かに! それに比べて我らの無骨さときたら……」
ダリオはガックリと肩を落とした。
「でも、おじちゃんたちはカッコイイよ。ボクもまじゅうをたいじできるようになりたい!」
ダリオに肩車されていたタケルが口をはさんだ。
その言葉で簡単にダリオは復活した。
「そうかそうか、タケルは我らのような魔獣ハンターを目指すか!」
「よし、家に帰ったら魔獣退治のコツを伝授するでござるよ」
わははと3人の笑い声がこだました。
「あ、あとな、あとな! 先生の授業をもっと受けたいねん。もっと賢なってみんなの役に立ちたいねん!」
「そっか、セラの授業か」
「すっごいんやで? 食料のストック一瞬でカウントするやり方とか、少ない石鹸で効率よく身体を洗う方法とかな。先生は何でも知ってるんやで」
まるで自分のことのように嬉しそうに言う。
そうこうしているうちに、数百m先に拠点の姿が見えてきた。
朝日が昇り始め、山際が白く輝いている。
「この世界って、こんなに奇麗だったんだね」
ミナがポツリと言った。
これまで生きることに必死で、風景を見る余裕なんてなかったのだろう。
とりあえず目先の外敵を取り除いたことで、心に余裕が生まれたのかもしれない。
「こんな美しい世界なのに……他の生き残りってどのくらいいるんだろうね」
「どうだろうな、これからも生存者はどんどん拠点で保護するし、なんなら見つけに行くくらいしたほうがいいかもな」
「ふむ、生存者探しなら我らも手伝おうぞ」
ゼッドがニヤリと笑みを浮かべた。
俺もゼッドに笑みを返す。
この
「あ、ショウコさんがいるよ、おーいおーい!」
ミナが拠点まで数十m手前で大声を上げた。
それに気付いたショウコとサクラが鉄門まで走ってくる。
その後ろにセラとハルカの姿もあった。
「「「「ただいまー!」」」」
俺たちはいっせいに声を上げた。
今はまだ11人しかいない頼りない人類の一部だが、この世界での俺たちの人生はこれからも続く。
まだまだ
俺の能力がある限り、元の生活に戻れるまで、この世界であがいてやるさ。
そう、俺たちの最強スローライフはまだ始まったばかりだ。
◆◆◆第一部 『クロイワ連合』編 完◆◆◆