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100億で落札された俺、ポンコツ美少女に自由を買われる
100億で落札された俺、ポンコツ美少女に自由を買われる
くまたに
現代ファンタジー異能バトル
2025年07月05日
公開日
6,595字
連載中
── 最強だけどポンコツな少女に買われ、謎組織に命令される地獄めぐりな日々。 奴隷として競売にかけられた俺、《七瀬レイ》。100億円という異常な金額で謎の少女《ティナ》に落札された── 彼女は「最強美少女」を自称するくせに、実態は完全なるポンコツ。 戦闘力は規格外でも、生活能力は壊滅的。金銭感覚も皆無。 しかも、俺を買った100億円は、組織からの“独立資金”だったらしく……? 「……なんでお金もうないの?」 「あっ……やっちゃったかも」 組織に尻を叩かれながら、地獄のような任務に巻き込まれていく俺と、残念かわいい少女。 謎に満ちた能力、欠けている記憶、崩壊しかけの世界の裏側── ポンコツ最強少女と俺の、予測不能な地獄巡りが今、始まる。

第1話 奴隷オークションで100億円──俺、買われました。

「死にたくなかったらさっさと歩きやがれ!」


 薄暗く細い通路にドスの効いた声が響く。

 男は服の隙間から見える肌を刺青と消えない傷跡で埋め尽くし、煙草の臭いを漂わせて足を進めている。

 その数歩後ろ。鎖で引かれて歩くのは、高校生くらいの少年。

 薄い病院着のようなものに身を包み、そこから出た細く長い手足は傷や汚れで酷くやつれている。


 その通路を真っすぐ進んだ先にある、真っ暗に近い状態の会場にはこれから行われるを、今か今かと待ちわびる人で溢れかえっていた。


『さあさあお立ち会い!今宵は日本政府が秘密裏に創り出したクローンの最高傑作や、ヒトとネコの混合種など面白いが沢山入ってるよッ!!進行はわたくしが努めさせていただきます!』


 ステージのような、少し高い位置にスポットライトが当たり、マイクを持って現れた覆面の男に人々の関心が集まる。

 スラッとした体つきで見上げるような背丈があり、パリッとしたスーツが良く似合っている。

 そんなことには誰も目もくれず、会場内には悪巧みをしてニヤついている者、きたる勝負の時を待ち精神統一をする者、お金を持ち合わせていないが胸の弾む情報を聞きつけてやって来た者、様々な人が居る。


『メインディッシュは最後まで待てないたちでしてね──早速ですが、皆さんが待ち望んでいるクローンから始めるとしましょう!』


 その言葉で会場内に歓声の嵐が巻き起こる。

 男は会場に静寂が訪れるのを待ち、皆のお目当てのを連れてこさせる。


「これが例の……」や「気持ち悪ぃ……」と、みんな口々に声を発し、誰一人として少年を憐れむことは無かった。

 少年は絹が擦れるだけでヒリヒリと体が痛むが、つゆほどもうめき声を発さずにただただこれから行われる未来をまっすぐと見ていた。


『開始価格は5億円です。それでは始めましょう!』


 その言葉をトリガーに、至る所から声が発せられる。


「5億9000万」


「6億5000万ッ!」


「7億だ!」


 小競り合いと言うには額が大きすぎるが誰か一人が突き抜けた額を言うこともなく、時計の秒針がカチカチと時間を刻んでいく。

 恰幅がよく、いかにも旧財閥企業の跡取りで、裏金疑惑でもありそうな人達が睨み、牽制し合っている。


 そんな中、たった一人の少女の声が会場を沸かせた──


「100億円」


 老若男女分け隔てなく、少年以外の全ての視線が一点に集まる。それは進行役も同じで目を大きく見開き、静止していた。

「今の金額……マジかよ……」といううろたえる声があちこちから聞こえたかと思えば、すぐに時間の流れが遅くなったのかと錯覚する程に会場は、しん、と静まり返る。

 その光景に呆れるような視線を向けた少女は大きなため息を着き、口を開く。


「進行役さん、ちゃんと自分の仕事をまっとうしてくれないと」


 少女はまだ幼い顔つきをしながらも、凛としたたたずまいには誰もが生唾を飲むほどの華があった。

 鋭い眼光、全てを見透かしているのかと錯覚するほどの余裕そうな表情。

 その姿に進行役は怖気付いたのか、すぐさま「失礼しました」と頭を下げて謝意を示す。


『気を取り直して──よろしいですか、よろしいですか、はい落札!』


 と、続けて言うが会場は未だ静寂に包まれている。

 中には開いた口が塞がらない人もいた。

 少女は依然としてポーカーフェイスを崩さず、少年、ただ一人を見つめていた。


『さて、この勢いで続けていきましょう!次はヒトとネコの混合種です!!開始価格は──』


「おい、待てやッ!」


 会場に流れる重い空気を取り払うが如く進行役は声を上げるが、人混みの中から発せられた声に遮られてしまう。

 そこから姿を現した中年で肉付きの良い男は、吸っていた葉巻を口から吐き出してから言う。


「俺はさっきの結果に納得いかん。やり直しだ」


「笑わせないで。アンタのような時代遅れのオジサンに、100億を超えられるほどの財力があるって言うの」


 その言葉に苦虫を噛み潰したような顔で、男は背後に控えていたボディガードに耳打ちをする。

 そして勝ち誇るような笑みを浮かべると、両手を頭の高さまで上げた。


「悔しいが俺はそんな大金を持ち合わせていない――だから、力ずくで奪わせてもらう」


「力ずくで……ね?ふざけるのも大概にして。私とアナタの間にある格の違いっていうものを見せてあげるわ」


「誰が戦うだなんて言った――お前ら!金が欲しけりゃあの調子に乗ってるガキを排除しろ!」


 男は人混みに向けてそう叫ぶと、姿を消していた数名の男達がナイフを片手に少女に歩み寄って行く。

 全員の身長が、海外のバスケットボール選手のように2メートルを優に超えている。そんな男達に四方を囲まれるが、怯えている様子など少しも見せず、すました表情を浮かべている。


 重くて固い鉄の首輪と手錠、そして足枷あしかせを着けられた少年は何を考えたのか、口の端を上げてことの行く末を見守っている。


「今日は忙しいの。だからすぐに方を付けてあげる」


 少女は一歩、ゆっくりと足を踏み出す。

 その細い脚が床を踏みしめる音が、妙に大きく響いた。

 透き通るように綺麗な黒に、白色のメッシュの入った髪が風もないのに揺れる。そして──空気が、裂けた。


 一瞬にして姿が消えた。


「「「────!?」」」


 人智を超えた行動をした少女に、驚愕と動揺の声が会場に満ちる。そんな中、少年は無言のまま目を細めた。


「さ、行くよ」


 と、少年の耳元に囁かれたのは、少女が消えてすぐ後の事だった。

 どこから取り出したのか、拘束を解くための鍵を使ってようやく自由の身となった少年は、無表情のまま口角を上げて──


「面白くなってきたな」


 そう小さく呟くと、誰にも見られないまま二人の影は会場の喧騒から溶けて消えた。

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