光が爆ぜ、村全体が白い輝きに包まれた瞬間、俺、黒崎悠斗は、佐藤美咲とリナの手を握りしめていた。
黒い羅針盤の光が、刻の監視者の銀色の時計を飲み込み、クロノハウンドの黒い霧を吹き飛ばす。村の広場が震え、空が青く澄み渡る。
「やった……のか?」
俺は息を切らしながら呟く。羅針盤の光が収まり、手の中で静かに脈打っている。美咲が俺の横で、汗と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら笑う。
「黒崎くん、すごいよ! リナさんの村、守れた!」
リナは広場のベンチを見つめ、動かない。そこには、彼女の家族――若い女性と男性、幼いリナが座っている。彼らは穏やかに笑い合い、まるで時間が止まったような幸せな光景だ。
「リナ……これ、お前の過去だろ? 取り戻したぞ」
俺の声に、リナがゆっくり振り返る。青い瞳に涙が溢れ、彼女は小さく頷く。
「ありがとう、悠斗、美咲……君たちのおかげで、私の時間が、戻ってきた」
だが、静寂は一瞬だった。広場の端から、ガラスが割れるような鋭い音が響く。空に巨大な裂け目が生まれ、銀色の光が漏れ出す。監視者の最後の個体が、半壊した銀色の時計を掲げて現れる。
「鍵の持ち主……時間の改変は、秩序の終焉を招く。君たちの勝利は、すべての世界線の崩壊を意味する!」
その声は、今までのような機械的な冷たさじゃなく、どこか絶望に満ちていた。クロノハウンドはもう現れない。監視者の力が、限界に近づいている。
「崩壊? ふざけんな! 俺たちはリナの過去を救ったんだ! お前らの秩序なんかに、俺たちの時間は縛られねえ!」
俺は羅針盤を握り、叫ぶ。美咲がリナの手を握り、力強く言う。
「リナさんの家族が笑ってるこの世界を、絶対に壊させない!」
リナが短剣を構え、微笑む。
「君たち……ほんと、馬鹿で、最高だよ。私も、戦う!」
監視者が銀色の時計を振り、空の裂け目が広がる。時間が逆回転し、村が揺れ始める。だが、俺たちの羅針盤が再び光り、光の壁が村を包む。
「悠斗、美咲、共鳴を! 監視者の時計を完全に壊すんだ!」
リナの叫びに、俺たちは三人の手を重ねる。羅針盤の光が、監視者の銀色の光とぶつかり合う。空が割れ、時間がねじれる。
「イメージしろ、二人とも! リナの家族が、ずっと笑っていられる世界! 監視者のいない時間!」
俺の叫びに、美咲が目を閉じ、強く頷く。
「黒崎くん、リナさん、私、信じてる! 私たちの鍵なら、未来を変えられる!」
リナの声が重なる。
「私の失敗を、君たちが塗り替えてくれた。ありがとう……今度は、私が君たちを守る!」
羅針盤の光が爆発し、監視者の時計を粉砕する。銀色の光が散り、空の裂け目が閉じる。監視者が最後の叫びを上げる。
「秩序は……永遠に……!」
その声は光に飲み込まれ、消えた。
光が収まると、村は静けさに包まれていた。
子供たちの笑い声が再び響き、花の香りが風に乗る。リナの家族はベンチで穏やかに話している。監視者の気配も、クロノハウンドの霧も、すべて消えていた。
「終わった……のか?」
俺は羅針盤を見下ろす。針は静かに動き、まるで普通の時計のようだ。美咲が俺の腕にしがみつき、涙目で笑う。
「黒崎くん、ほんとにやったんだ! リナさんの過去、守れたよ!」
リナが広場を歩き、家族の前に立つ。幼いリナが彼女を見つめ、笑顔を見せる。
「お姉ちゃん、誰?」
その無垢な声に、リナが膝をつき、そっと幼い自分の頭を撫でる。
「ただの、通りすがりの人だよ。ずっと、幸せでいてね」
リナの涙が地面に落ち、幼いリナが不思議そうに首を傾げる。
俺と美咲は、少し離れてその光景を見る。
「なんか……よかったな」
俺は呟く。美咲が頷き、静かに言う。
「うん。リナさん、初めて笑ってる。本当の笑顔だ」
リナが戻ってきて、俺たちに微笑む。
「悠斗、美咲……君たちの鍵は、私の過去を救った。でも、鍵の力はまだ危険だ。監視者が完全に消えたわけじゃないかもしれない」
「じゃあ、どうするんだ?」
俺の問いに、リナが羅針盤を手に取る。
「この世界線を、君たちの鍵で『固定』する。私の過去を、永遠に守るために」
美咲が目を輝かせる。
「固定? それって、この村がずっと幸せでいられるってこと?」
「そう。君たちの共鳴なら、できるはず」
リナの言葉に、俺は頷く。
「よし、やってみるか。リナ、お前も一緒にだ」
三人の手が再び羅針盤に重なる。光が柔らかく広がり、村全体を包む。時間が、空間が、穏やかに固定される。幼いリナの笑い声が、風に溶けていく。
広場に夕日が差し込む中、俺たちは村の外れに立っていた。
「これで、終わりか?」
俺の問いに、リナが笑う。
「終わりじゃないよ、悠斗。君たちの時間は、まだ始まったばかりだから」
美咲がメガネを直し、照れながら言う。
「黒崎くん、リナさん、これからも一緒に、色んな時間を見に行こうね」
俺は二人を見て、ニヤリと笑う。
「まあ、悪くねえな。次はどんな世界線行くんだ?」
羅針盤が小さく光り、俺たちの新しい時間が、動き出す。