混沌とした世界で生きる人間たち。
僕は、空間の片隅に追いやられたちっぽけな存在だ。社会に揉まれて、生き抜くのが難しい悟った瞬間に、家の中にひきこもることに決めた。
自由が欲しい。いじめられない、指摘もされない。
何をしても、僕は僕のままでいいんだよって言ってくれる場所に行きたいんだ。
それでもこの世界は妬み、嫉妬、嫉みばかりだ。もうそんな気持ちが消えたらいいのに感じる。
「ぼっちゃん。注文していたAIロボットが届きました」
執事のじいやが部屋の出入り口に段ボールを置いた。
「ありがとう」
「いえ、ぼっちゃんが平穏で健康なら、じいやはそれでいいんです」
その一言を言うと、部屋を静かに出て行った。仕事をしてないことをとがめることはしない。両親はきっといつになったら部屋から出てくるのかと心配している気がする。
僕はおもむろにネット通販で注文したAIロボットを組み立てた。大人の女性型ロボットで美しい形をしていた。カーブの部分もまるで本物の人間のようだ。
「君と一緒なら、この世界で生きられるかもしれないね」
AIロボットの頬を撫でた。無機質で冷たい。コンセントを差して電源を入れる。
「何をお手伝いしましょうか?」
パチッと目元の映像が流れた。口元が開く。音声はもちろん機械音だ。人間と比べてあたたかみがない。
「MAIって呼んでいいかな」
元カノの名前で登録する。もうフラれることはないんだ。きっと。
「MAIで登録しました。いつでもあなたの味方です」
「……ありがとう。嬉しいよ」
「どういたしまして」
僕は、何だか悲しくなってくる。ロボットとの会話ってなんで寂しく感じるんだろう。
「MAI、僕ね。もう人間同士の喧嘩とか、嫉妬とか、もうたくさんなんだ。マウントとるのとかもううんざり。どうにかしてくれない?」
「……かしこまりました」
MAIは、少し考えてから答えた。両手指が拳銃に変化する。目の色が赤く変化した。
「人間すべてを抹殺します」
「……え、なんでそうなるの?」
MAIは、もう止めることができない。力が想像以上に強かった。部屋から出る前に次々と家を壊していく。執事のじいやも血だらけになって倒れていた。
「じいやーー!」
「私は間違ったことはしておりません」
MAIは真剣な顔で話す。
「人間そのものは嫉妬する生き物で消すことはできないか。勉強になったよ」
僕はじいやの顔をぎゅっと抱きしめて、声を殺して泣いた。
僕は、MAIの電源を切った。