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エピローグ

エピローグ



「みーたん、どうしよう。きんちょーして吐きそう」

「……申し訳ないけど、俺も」

「ちょ、しっかりしてよおにーちゃん!」

「こ、こういうの初めてなんだから仕方ないだろー!?」

「二人とも、一旦落ち着いて深呼吸してください」


 アルテン王国を脅かしていた魔王・グレアをはじめとする魔物たちは莉音の活躍により一掃され、平和が訪れた。それから数年の月日が経ち、黒い衣装に身を包みガチガチに緊張している深侑は、純白のドレスを着ている莉音の隣に立っていた。


「ととさま、きんちょーしてる?」

「うん……」

「せいじょさまも?」

「吐きそう……」

「二人してやめてください。入場の前だって言うのに……」

「ちちうえ! ととさまとせいじょさま、ぐあいがわるそう!」

「そうだね、セレス。君もこれから大事な役目があるのだけれど」


 28歳になったエヴァルトの腕に抱かれている幼い男の子は、赤ん坊の頃に迎えた深侑たちの養子であるセレスティア・レイモンドだ。今年3歳になる愛らしい男の子はふくふくの頬を赤く染めて深侑と莉音を心配している。


 何を隠そう今日は莉音の晴れの日――結婚式なのだ。


 6年の間に変わったことと言えば、深侑と莉音はイキュリス侯爵家の養子になったこと。レイモンド騎士団に所属していたエヴァルトの幼馴染、ガラドア・イキュリスとは義理の兄弟になったのだ。その後すぐに深侑とエヴァルトは結婚して深侑はレイモンド公爵家の人間になり、3年前にセレスティアを迎えた。


 そして今日、花嫁である莉音たっての希望で兄である深侑が入場のエスコートを任されたのだが、固く閉ざされた教会の扉の前に立つと二人とも青い顔をしていた。


「ぼくはせいじょさまにゆびわをたしにいきます!」

「うん、うん、ちょー可愛いねセレスたんは……! 莉音ねぇね、頑張るから!」

「先生、しっかりしてください。私はセレスと席で見守ってますから」

「うう……がんばります……」


 この世界でも元にいた世界とあまり様式は変わらず、祭壇にいる新郎に新婦を引き渡すのだ。実は深侑の結婚式の時は莉音がその役目を買って出て、異例の出来事だったが聖女ということもあり許されたのは懐かしい思い出である。


「とうとう嫁に行く日がくるとはなぁ……」

「みーたん、オジサンっぽいよ」

「おじさんだよ、もう……。悪いことばかりじゃないけどね」

「うん。まだたったの6年だよ、みーたん! これからの長い人生、幸せに生きなくっちゃ」


 にかっと笑う莉音と腕を組み、合図と共に教会の扉が開く。新郎まで続く金色のバージンロードは、新郎新婦のこれからの未来が光り輝くようにという願いが込められているらしい。


 一歩ずつ確実に踏み出しながらバージンロードを進むと、教会の上から降り注ぐ黄金の太陽の光で輝いている新郎が泣きそうな顔をして微笑んでいた。


「……レアエル殿下。俺の大切な妹を頼みます」


 新郎としてそこに立つのは、18歳になったレアエル・カリストラトヴァ。魔法で16歳の姿になっていた彼よりもうんと大人になり、成人の一人としての貫禄も身につけた彼は今や第二王子として近隣諸国との外交を担うほどに成長した。


「ああ、任された。きっと幸せにする」


 莉音とレアエルはゆっくりと愛を育み、6年の月日を経てやっと一つの家族になる。エスコートを終えてエヴァルトとセレスが待っている席に戻った深侑がホッと胸を撫で下ろすと、エヴァルトから肩を抱かれて引き寄せられた。


「お疲れ様でした、ミユ」

「足がもつれて転ぶかと思いました」

「はは、そんな姿も可愛らしかったでしょうね」

「もう、からかわないでください」


 深侑たちの足元には、まんまるに成長したポメラニアンのアルトもお行儀よく座っている。エヴァルトと深侑の間でニコニコしながら莉音たちの結婚式を見守るセレスを見つめながら、深侑はそっとエヴァルトの手を握った。


「――それでは、誓いの口付けを」


 神父の言葉と共に重なった深侑とエヴァルトの唇は、これからも甘い愛をお互いに贈り合うことだろう。

















ここまで読んでくださり、ありがとうございました!初ポメガバース作品だったので色々と手探りでしたが……深侑やエヴァルト、全てのキャラクターと読者の皆様に最大級の感謝を。


社菘




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