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「生徒会書記の宮沢です。解説を務めさせて頂きます。実況は――、あ」


 胸に手を添え、深呼吸をひとつ。マイクに向かって頭を下げた瞬間、自分の胸元に集まる視線を感じた。モニター越しの男子生徒たちが、一斉に身を乗り出している。


「エヴィリィヴァーディ、待ってたか野郎どもォォォ!」


 低い轟き声が会場を振動させる。ふんどし学ラン姿の彼が、まるで咆哮する獣のようだ。


「ウェェェェェイ!」と号令が会場にこだまする」


「実況は、とにかくウザイ、放送部部長、熱盛武雄さんです。宜しくお願いします」

「胸の鼓動が、激しく、高ぶるゼェェェ!」

「それでは、公式戦です、本日は一年生の部。選手の入場」

「西コーナァァァ、一年三組、西園寺……拓ゥゥゥ真ァァァァァァ!」


 拍手と微かなヤジが混ざり合う中、彼の凛とした横顔が照明に映えた。


「パーミッションの使い手。異名は蛇男です」

「そして……」


 観客のブーイングを背に、彼は微笑みを湛える。


「東コーナーァァァ、天堂嶺ォォォ!」


 ブーイングの嵐。


「シルディムの恥さらし!」

「トップランカーにして、歩く変態。異名はダークフェザー(笑)です」


 うん、かっこわらいらないね。


「入学初日に決める異名で、カタカナ使うとかあれ、ですよね?」

「ダサいよな、まったく」


 マイクごしにひそひそ話意味ねぇから。聞こえてるから。


「おっと、天堂さんに差し入れがきていますね」


 エキシビションフロアの中央に運び込まれた小さな箱。キーアイテムがきたな。ふん、あれさえあれば、勝利は間違いない。俺は、フタをガバッと開く。そこには──


「ボクサーパンツです」


 会場が一瞬かたまり、床の埃すら動かない。


「トランクスです」


 観客の笑い声がこだまし、マイク越しに宮沢の小声が重なる。


「ブーメランパンツです」

「何、下着コレクションしてんだよ?」


 スライディングアーマーはどうした? 

吉田に「後で持ってきてくれ」と念を押したはずなのに──姿も音もしない。

……あの一途すぎるバカ野郎に頼んだ俺もバカだ。思考回路が乱れっぱなしのアイツなら、今ごろ何かとんでもない勘違いをしてるに違いない。


 一拍置いて、宮沢が囁く。


「え? ノーパンのままでいいんですか?」


 その言葉に、俺は眉間に皺を寄せながらもドヤ顔で返す。


「はいてるから!」


 彼の満足げな表情に、観客席からは大きなどよめきが巻き起こった。


「うそだろ?」

「夢でもみてんじゃねぇか?」

「てめぇら、失礼だぞ!」


 ざわつきが収まらぬまま、熱盛の声がまた飛ぶ。


「それでは、両者にらみあってぇぇ! のこったのこったぁ!」

「それ別のスポーツ!」


「たく……さっきからギャーギャーやかましいな」


 場内のざわめきがようやく沈静化したタイミングで、背後から低い声。


「西園寺……」


 お前いたのか……。

淡く光った銀髪が、まるで夜明けの稲妻のように強い自己主張を放ち始める。


「待ちくたびれたぞ。浦島太郎の気分だ」


 白髪だった。ここんところ学校に来ていなかったけど。肌も前よりも薄くね?


「いや、まじで白いぞ。お前」

「俺は、お前に勝つために白い悪魔と契約したんだ」


 西園寺は肩をすくめて笑う。それ、カタパルトから発進しないよね? させないでよね!?


「白い悪魔? シジルにそんなもんねぇぞ?」

「フ……今に分かるさ」


 ぴん、と西園寺が指を鳴らした。


 『オープン・ザ・ワールド!』


 頬を撫でる風が一変し、歪み始める。


「今日から俺が、トップになる」


 白い閃光が宙を裂き、暗闇が光と重なっていく


「……わりぃな。譲れないんだわ。それだけは」


 唯一のアイデンティティである。もし、肩書きを失ったら立場がない。


「エンゲージ!」の掛け声とともに、高らかな音が決闘場に轟いた。


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