予測地点に着いた。
うわ! ホントにいたよ!
「さすが隊長!」
思わず叫んだら、ジェシカ・エメラルドさんが笑い、リバー・グリフィン君が僕の背中をバシッと叩いた。
「イタッ!」
「なんだよお前、わかってんじゃねーか!」
え。彼女を褒めたら機嫌が良くなるの? どんだけこの小隊が好きなんだろう。
というか……まさか好きなのは彼女!? それってつまり小さな女の子が好みってことで……。
僕の表情を見たリバー・グリフィン君は目を細めた。
「あァ? 何考えてやがる」
ぶるぶるぶるぶる。
「ななななななにも考えてないです」
懸命に否定した。
「お前の武器ってなんだ?」
リバー・グリフィン君が尋ねてきた。
「ぼ、僕は、コレです」
剣を取り出した。
「ふーん……。意外とフツーだな」
って、肩透かしみたいに言わないでほしい。僕、突飛なことは望んでないから。
アンノウンは、毎回違う姿をしている。
人くらいの大きさのときもあれば、家みたいに大きいときもある。
唯一、その色だけが同じ。全身が輝く銀色なんだ。
このアンノウンは比較的大きく、僕の身長の倍くらいある。
「とりあえず、お前、行っとけ」
って、リバー・グリフィン君、僕の背中を蹴った!
「うわわわわ」
よろけた僕がたたらを踏むと、アンノウンが襲ってきたので慌てて避ける。
「ちょっと、リバー!」
ジェシカ・エメラルドさんがリバー・グリフィン君を叱っているが、そんな軽い叱り方ですまさないでよ!
「実力を見せてもらわねーと、俺たちが困るだろーが」
しれっと言うリバー・グリフィン君。
「確かにそうだが、下手をするとその前にアンノウンにやられて実力を見るどころじゃなくなるんじゃないか?」
キース・カールトン君が静かに指摘する。
「そんときゃ助けるさ。つーか、別にやられるだけで死にゃしねーんだからいいだろうが」
よくないよ!
必死で避ける僕。
ジェシカ・エメラルドさんはため息をつくと、僕と同じ剣……だけど滑らかに反っている細身の片刃を抜き放ち、援護してくれた。
うわぁ、綺麗だなぁ。
気を引くためなのか、浅い傷で致命傷には至らない。
キース・カールトン君も参戦してきた。彼は、両手にやや短めの刀身の剣を両方の手に持っている。
双剣って、珍しいなぁ。僕、初めて見た。この学校には多いのかな?
リバー・グリフィン君は腕を組んで見ているだけ。――君、ホントになんなの? 何様なの?
ヒーヒー言いながら避け続けていたら、リバー・グリフィン君がいらだったように怒鳴る。
「オイ、ナメてんのかコラ。お前、そんなんで防衛特科の転入試験に受かったとか抜かすのかよコラ。最下位の小隊の連中だってもうちっとマシな動きするぜ。ざけんなよ、不正受験とかかコラ?」
…………コラって言うなコラ!
なんなの彼!? 僕のコーチ気取りなの!? 隊長より威張ってない!?
「ぼ、僕、アンノウンと戦ったことなんてないんだよ! 初めてなのにそんな……」
「転入してきた、ってことはそこまでの実力がある、ってことなんだよ。文句があんなら退学して、もっかい来年入り直せよ」
リバー・グリフィン君が僕の言葉をさえぎって言った。
僕は唇を噛む。
「別のチームに行きたきゃ移りゃいいだろ。引き取り先があるならな」
リバー・グリフィン君の言葉を聞いたジェシカ・エメラルドさんが、戦いながらも僕を気がかりそうに見てきた。
――リバー・グリフィン君が言うのはもっともなことだ。転入してきた、ということは、今の彼らと同じ実力がなければいけない、ということなんだ。
そして、アッシュ・ウェスタンス教官が言っていた。このチームしか受け入れなかったと。いや正確にはこのチームからすらも受け入れてもらえていない。
……受け入れてもらうには、実力を示さないといけない。少なくとも、彼らが納得するくらいの。
ジェシカ・エメラルドさんとキース・カールトン君が同時に斬りこみ、アンノウンがそちらを向く。
いまだ! と思った僕は、アンノウンの首の辺りに剣を突き刺した。
人間だったら確実に致命傷だ。
だけど、アンノウンの急所じゃなかったらしい。アンノウンににらまれた。……だけじゃなく、襲ってきた!
殺られる! と思った瞬間。
「オラァッ!」
真後ろから声がして、リバー・グリフィン君の手から投げられた槍がアンノウンの眉間に突き刺さった。
アンノウンが硬直する。
「チーム99小隊、アンノウンを討伐しました」
機械的な音声で告げられ、アンノウンはポリゴンとなって消えていった。
……くやしいけど、リバー・グリフィン君は実力者らしい。
アンノウンの急所はアンノウンによって変わる。
だからアンノウンには専門の討伐隊がいる。人は殺せてもアンノウンを殺せるか、というとまた別の話になるのだ。
だから、アンノウンを一発で仕留めた彼は、アンノウン討伐に対してはかなりの腕前ってことだ。
振り返ったら、またすごく近くに立ってて後退りしてしまった。……この小隊の人たちって、なんでこう距離感が近いのかな?
「あ、ありがとう……」
恐る恐るお礼を言ったら、ジロッと見下ろされた後、ふい、と踵を返して行ってしまった。
リバー・グリフィン君も、眉間とこめかみに傷があった。
……彼らはVRじゃなくて生身で訓練をしているってこと?
それとも喧嘩かな。彼ならありえそう。