『小隊名【ローズウィップ】の生存者がゼロになったため、小隊名【ナンバー99】の勝利となります』
アナウンスが流れ、無事、全員が生存した。
精神的に疲れた三人が戻ると、アッシュが呑気に、
「うん、いい感じじゃないかな? 及第点だと思うよ」
と、言い、クロウも同意した。
「今回はなかなか良かった。次回はさらに期待する」
実力が測れた、ということだろう。
『実際、どうだったの?』
専用回線でジェシカが尋ねた。
『そうだな。シャム・シェパードもまだまだ手の内を隠しているだろうが……隠しながらあれだけ動けるということは、対人特化の手練れだ。護衛もまずまずだな。正直、私を守りきるとは思わなかった』
『俺も同感だ。暗殺者から足を洗って護衛の仕事に就いたらどうだ? って思ったね』
アッシュもクロウの意見に同意する。
『ただ、暗殺者なんだよね……』
アッシュの最後のつぶやきに、三人が眉根を寄せた。
シャム・シェパードには会話が聞こえていないため、急に暗くなった三人を見てキョトンとしている。
「急にどうしたんですか?」
尋ねてきたのでリバーが答えた。
「……クロウを守り切れたからって、調子に乗るんじゃねーぞコラ」
いきなり理不尽に罵倒されたシャム・シェパードは、呆れたように眉根を寄せる。
「えぇ……? どうしてそうなるかなぁ? リバー・グリフィン君って理不尽の化身ですよね」
「うるせぇよ!」
リバーが怒鳴る。
リバーと仲良く口論をしているシャム・シェパードの姿を見て、キースはひそかにため息をついた。
三人のシャム・シェパードの評価は変わった。
クロウを守りきったからだ。
あの演習時、ジェシカはかなりやきもきしていたが、シャム・シェパードが無事に守りきったのにホッとしたし、それは二人もだった。
三人がシャム・シェパードに気を許していったのを感じたクロウはチラリとアッシュを見る。
クロウは、アッシュが『セントラルの流儀を理解させよう』として不殺を貫くのならそれで作戦を立てるつもりだ。
狙われているのがクロウならば問答無用で倒しただろうにとは思うが、自分自身が狙われていることに対しては楽しんでいる節がある。
だとすると……シャム・シェパードのブレインの制圧が必須になる。
だが、彼のブレインには防壁が張り巡らされている。しかも、なかなか高度な防壁だ。アクセスしようとした途端に察知し逆探知するように出来ている。
誰が仕掛けたかはいくらでも誤魔化せるが、仕掛けた行為自体は誤魔化せない。
一気に突破しなければ、自暴自棄の兇行に出たり心当たりを片っ端から暗殺したりするかもしれない。
クロウはレベッカ……移植した母のブレインも含めて検討し、いくつか策を立てたが、どれも安全というわけではない。
「やはり、相手の攻撃を待つしかないな」
そう独りごちる。
アッシュの方策としても、三人の反応からしても、シャム・シェパードを消すことはもう無理だろう。
一度限りだが、見逃すしかない。
さらに思考を進めると、それは自身たちのためにもなるという結論が出てきた。
「――……なるほど。退屈しのぎ、ということか」
それならば、アッシュの若干不可解な方策も理解出来る。殺さない理由づけとしても立派だ。
三人にはすでにシャム・シェパードへの仲間意識が芽生えてきている。殺されそうになったら簡単に殺すだろうが、あまりわだかまりも作りたくないし、後味も悪い結果になるのは判明している。それに、現在判明しているシャム・シェパードの実力ならば、正直こちらの敵ではない。
「――……ならば、相手が攻撃してきたときに一気にブレインを制圧し、傀儡にしてこちらに引き込むか」
クロウは自分の内部で結論を出し、そのためにどう行うのかをアッシュに話しにいった。