「はじめまして、総理。私は総理の秘書を務めさせていただきます、
「あ、ああ・・・・・・。よろしく頼むよ・・・・・・。浦鐘君」
これが
目の前で恭しくお辞儀をしている秘書の女性は、わざとらしさすら感じるほどに美人すぎることを除けば、現実の女性と何も変わらない。
「これから総理には、この『
・・・・・・支持率1000%ってどういうこと? 国の枠超えて指示されてるみたいなことだろうか・・・・・・?
何はともあれ、もう後に引き返すことはできない。なんとしても支持率1000%とやらを達成して、あのハゲ官房長官のヅラ疑惑を記者会見で暴露してやるのだ。
***
・・・・・・時は少しだけさかのぼる。
私、日本国第200代内閣総理大臣・
政府与党・クミン党党首として「議員食堂の無償化」を公約に掲げた私は、先の総理大臣選にて見事、全会一致で当選した。
ただし、現状の財政状況はカツカツで余裕が無く、議員食堂の無償化に際しては、新たな財源の確保が喫緊の課題として立ちはだかることになった。
そこで私は考えた。・・・・・・そうだ、消費税率を上げればいいじゃないかと。
そうと決まれば、問題は税率を現状の10%からどの程度上昇させるかだ。閣僚会議にて、羽夏官房長官は「ファーストには12%ほどにセッティングして、エコノミー状況へのインフルエンスなどをケアフリーにオブザベイションするネセシティがあるのでは?」なんて言っていたが、中途半端な増税をして「やっぱり足りませんでした」となる事態だけは避けたい。
「税は取れるときに取れるだけ取れ」。私の師匠である
「・・・・・・いや。ここは100%で行こう」
羽夏官房長官は「サニティですか!? ミニスター!?」なんて信じられない者を見るかのような目で驚いていたが、サニティもサニティ、大サニティだ。サニティが何て意味なのかは知らんが。
かくして閣僚会議にてまとめられた「消費税率100%化」法案は、先の国会審議にかけられることとなった。
始めこそ、最大野党・コリアンダー党の連中を中心に「何を考えているんだ!?」などと心無いヤジが飛び交ったが、「議員食堂無償化のためだ」と強調したら、全会一致で可決した。いつもは綺麗言ばかりぬかして我々の邪魔をしようとする野党の連中も、結局のところ、議員食堂の無償化を望んでいたというわけだ。ビバ!既得権益!
かくして、消費税率は100%へと上昇し、それで増えた税収を元手に、議員食堂の無償化は実現した。
そう・・・・・・ここまでは良かったのだ。ここまでは・・・・・・。
消費税率が100%に上昇したことで、やかましい国民たちは怒り狂い、一部報道機関の調べによると、私の支持率は統計を取り始めてからの最低数値を大きく下回る0.0000001%にまで下落した。各報道機関に対し、私の支持層のみを抽出して統計を取るよう圧力をかけてもみたが、「母数が少なすぎで非現実的です」と取り付く島も無かった。
あれよという間に私は「史上最低の総理大臣」として祭り上げられ、外に出るたび生卵やゆで卵をぶつけられるサンドバッグのような有様になってしまった。高い金を払いSPを雇ったりもしてみたが、いざ卵が飛んでくると皆たちまちドッジボールを始めてしまうため、何も意味もなかった。
それでもめげずに、次の衆議院選挙に備えて街頭演説に勢を出していたある日のこと。この日も私は愚かな国民たちによって卵まみれにされ、応援相手であるクミン党候補者からすらも、「卵が飛んでくるので二度と来ないでください」と言われ、帰ってきた。
「お話があります。総理」
・・・・・・官邸に戻ったそんな私を出迎えたのは、
***
「此度の衆院選の勝率を、私の秘書のキャッピーちゃんに計算してもらいました。ズバリ・・・・・・0%です!」
エアメガネをクイクイさせながら、宛逗選挙対策委員長がAIによる分析データが乗った画面を示してくる。
ちなみに「秘書のキャッピーちゃん」というのは、彼が生成AIソフト「キャットGPS」に勝手に付けた名前だ。
「これはシリアスなプロブレムですぞ、ミニスター」
羽夏官房長官も便乗して詰め寄ってくる。
「そうは言ってもだな……これだけ検討に検討を重ねていることをアピールしても、いっこうに支持率が上がる気配が無い。・・・・・・いったい私はどうしたら?」
記者会見の度、クミン党に伝わる奥義「検討に検討を重ねる」パフォーマンスを続けるなどしてきたが、芳しい成果は得られていない。
「キャッピーちゃんの分析によりますと、総理の政治理解度はズバリ・・・・・・0%です!」
宛逗は相変わらずエアメガネをクイクイさせている。やかましい。誰の政治理解度が0%だ。
「つまり、今ミニスターがやるべきタスクは、ポリティクスのスタディ。これですぞ」
一から政治を学び直してこいってことか・・・・・・。こいつら、黙っていれば好き放題言いやがって。次の内閣改造で絶対外してやる。
「しかしだな・・・・・・。政治の勉強と言ったって、今更どうすれば?」
怒りが有頂天に達したやかましい国民共が、私が勉強している期間なんて待ってくれるはずもないのは明白だ。
「よくぞ聞いてくれました、ミニスター。私、羽夏。スペシャルなものをプリパレイションしております!」
羽夏が得意げに手を一拍叩くと・・・・・・酸素カプセルのような謎の巨大な機械が、羽夏の秘書たちの手によって官邸へと担ぎこまれてきた。