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禁断の夜、私を壊した医師の誘惑
禁断の夜、私を壊した医師の誘惑
24601
恋愛現代恋愛
2025年07月17日
公開日
6.4万字
連載中
婚約者に裏切られた奈美は、偶然出会った医師・黒沢直樹と一夜を共にし、心と体が揺れ動く。 禁断の関係に溺れながらも、直樹の過去や彼の複雑な思いが次第に明らかになり、奈美はその真実に迫ることに。 情熱的で切ない関係が織り成す、愛と裏切りの物語。 人間関係の複雑さ、心の葛藤、そして欲望に引き寄せられる中で、奈美は果たして自分の心を取り戻せるのか。

第1話 錯乱した情熱

東京のホテル、室内はほのかな灯りに包まれ、情熱の余韻が空気に漂っていた。


早川奈美は全身がぐったりし、疲労と未知の快感の狭間で意識が漂っていた。激しい行為で力を使い果たした彼女は、ただ男に身を任せるだけだった。黒沢直樹が腰を沈めた瞬間、彼の背中に絡めた奈美の指が思わずぎゅっと締まり、唇の間から抑えた吐息が漏れた。


「……痛い」


その猫のようなか細い声に、直樹は動作を止め、俯いて彼女の濡れた睫毛に口づけを落とした。力加減がほんの少し優しくなる。


窓の外の雨音が弱まっていく。奈美はこれほどまでに激しい感情を味わったことがなかった。三時間に及んだ情事の終わりに疲労が波のように押し寄せるが、それでも彼女は無理に携帯を手に取り、震える指で同じ相手に三つのメッセージを送った。


『買ってきて』

『もうベッドに入ってる』

『早く』


送信を終え、ホッと一息ついた奈美は、すぐ横にいる男が光る画面を一瞥していることに全く気づかなかった。


黒沢が体を翻すと、奥深い瞳が薄暗い光の中でほのかに揺れた。口元に含み笑いを浮かべて言った。

「どうした?まだ足りないのか?」

奈美は体を硬くし、思わず両脚を閉じた。足りない?もう体がバラバラになりそうだった。布団の端をぎゅっと握りしめ、横を向いた。


灯りが浮かび上がらせるのは、完璧な横顔の輪郭。薄い唇がわずかに開かれるのを見て、奈美の脳裏に先ほどの激しい口づけの光景がよみがえり、頬が一気に熱くなった。


突然、携帯が鳴った。画面には「高橋翔太」の名前が表示されている。


少し躊躇して、奈美は応答ボタンを押した。


婚約者・高橋翔太の焦りの混じった声が受話器を突き破る。

「帰ったぞ、奈美、お前はどこにいるんだ?」

「ホテルよ」奈美の声には感情がなかった。

「ホテル?なんでホテルにいるんだよ?ベッドで待ってるって言ったじゃないか!奈美、どういうつもりだ?!」

どういうつもりだと?

数時間前、駐車場の光景が脳裏を刺す――二人の婚約の夜に、婚約者の翔太が車の中で他の女と絡んでいた。その瞬間、彼女が守っていた何かが崩れ落ちた。


披露宴場に戻ると、一本丸ごとの赤ワインを飲み干した。アルコールが理性を焼き、衝動的に見かけた男に手を引かれ、ここまで来てしまったのだ。


部屋に入るとき、彼女は躊躇した。翔太の裏切りはともかく、早川奈美には自分の線引きがあった。


しかし、目の前の男は彼女に後悔の余地すら与えなかった。


玄関で、大きな掌がしっかりと彼女の腰を捉え、覆いかぶさるような口づけで、全ての抵抗を封じた。冷たい鏡面に押し付けられ、奈美の意識は見知らぬ波間に漂い、溺れ、翻弄された。


全てがあまりにも突然で、抗えなかった。


終わった今、歪んだ報復の快楽が彼女にあの三つのメッセージを送らせたのだった。


受話器からは翔太の罵声が続いている。奈美は我に返り、疲れたような冷淡な声で言った。

「ごめんなさい、間違って送っちゃった」

「間違いだと?!誰に送ったんだ?!奈美、お前誰とホテルにいるんだ?!俺を裏切るつもりか?!許さない!聞こえてるか?!許さないぞ!」

奈美は無表情のまま電話を切った。


部屋は静寂に包まれ、先ほどの会話は明らかに黒沢直樹の耳にも入っていた。彼の胸の奥から低い笑い声が漏れた。その深い眼差しが奈美の顔に注がれる。細い目の中には、彼女には理解できない深い意味が漂っている。


奈美はその視線に居心地の悪さを覚え、まるで獲物を狙われているような錯覚を抱いた。俯いて布団をしっかり巻き、そっと立ち去ろうとした。


ベッドの端まで移動したその時、背後から男の澄み切った磁性を帯びた声が、一語一語、はっきりと響いた。

「挨拶もなく帰るつもりか?……甥の、婚、約、者」

奈美の体が凍りついた。氷の穴に落ちるようだった。


甥の婚約者だと?

この身も心も尽くして絡んだ男が……まさか高橋翔太の叔父である黒沢直樹だったのか?

背中に一気に冷や汗がにじみ、残っていた酔いは完全に覚めた。顔面は血の気が引いている。

「あ、あなた……黒沢さん?」


直樹は彼女をじっと見つめ、瞳の色が次第に濃くなる。


「俺を知らなかったのか?」


名前は知っていた。それだけだ。黒沢直樹は長年海外に在住し、黒沢家で最も謎めいた存在だった。早川奈美が持つ彼への認識は、「高橋翔太の叔父」という肩書きだけだった。


だが、彼が彼女が誰かを知っていたのなら、なぜ……


奈美は指の先が白くなるほど強く握りしめ、恥辱と怒りでいっぱいだったが、口に出せない。沈黙の後、彼女はなんとか平静を装った。


「今夜のことは……無かったことにしましょう」


黒沢はだらりとベッドのヘッドボードにもたれかかり、ゆっくりと煙草に火をつけた。煙の向こうでちらりと彼女を見ると、驚くべき言葉を放った。


「つまり、俺を寝ただけで済ませるってか?」


奈美は呆然とした。


彼の指が何気なく布団をかき分けると、胸元に鮮やかなピンクの噛み痕が灯りの下に露わになった。


「大したことじゃないが、男が噛み跡なんて残されて、外に知れたら少し損した気分になるな?」


「……」


状況は完全に制御不能だった。


「どうしたいの?」


直樹の口元に、笑っているともいえない微妙な弧が浮かんだ。その目は彼女をじっと見据えている。


「まだ足りないって言ったな?」

奈美はぼんやりと彼を見つめた。


「もう一発やろうか?」

反応する間もなく、腰が強く抱き寄せられ、彼女は再び男の支配下に置かれた。


一度火がついた情事は、離れた弓矢のようだ。奈美は再び渦に飲み込まれ、意識は極限の感覚的な衝撃の中で粉々になった。乱れた情熱の中で、彼女は報復のように彼の動く喉仏に噛みついた……。


この一夜、彼女は完全に飲み込まれ、沈み、ほとんど窒息しそうになった。脳裏に浮かんだのはただ一つの思い:この男は、危険すぎる。


終わった時、奈美は指の先さえ上げられなかった。直樹は立ち上がり、浴室に向かった。


すりガラスの向こうに、男の長身のぼやけた影が映る。水音が聞こえる。奈美は頬を熱くし、長居する勇気もなく、震える脚を必死に支え、慌てふためいて逃げ出した。


浴室のドアが開き、バスタオルを巻いた直樹が出てきた時、彼が目にしたのは、ドアの外に消えていく彼女の後ろ姿だけだった。彼はドア枠に寄りかかり、空っぽの入り口を見つめながら、口元にゆっくりと意味深な笑みを浮かべた。


一体、どうしてこうなったのか?


数時間前、彼がちょうど煙草を口にくわえた時、酒臭い女が男子トイレの前に立ちふさがった。

彼女は空のワインボトルを握りしめ、かすんだ瞳をじっと彼に向けて、開口一番に言った。


「あなたの唇……すごくキスしたくなりそう」


直樹は笑った。ライターを彼女の手のひらに押し込み、顎をわずかに上げて言った。


「味わってみるか?」


金属のケースには彼の掌の温もりが残っていた。彼女がぼんやりしていると、また低い声が耳に届いた。

「火、つけられるか?」


彼女は幽霊にでも憑かれたかのようにそれを受け取ったが、指先で出せたのはかすかな火花だけだった。


互いの息遣いが触れんばかりだ。


突然、彼が彼女の手首を強く掴み、腕を頭上に押し付けて壁に押し当てた。


「もうつけなくていい」


彼女の困惑した視線を受け止めながら、彼の大きな手が彼女のなめらかな背中を撫で、声はかすれた。


「火は、もうついた」

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