23時を過ぎている。
仕事も終わり、男は一人駐車場に向かった。
店から駐車場までは、歩いて5分の距離なのに、今日は嫌に長く感じていた。
遠くに愛車のシルエットが街灯に照らされて浮かび上がっている。
駐車場の右手には、街灯の光から外れた、薄暗い闇の中に墓石がおぼろ気ながら確認出来る。
駐車場の奥に墓園を囲む遊歩道。そしてまだ刈り取られていない草が、サワサワと風も無いのに揺れている。
「やだな。何で墓場の隣に 駐車場を作るんだよ。」
男は怖さを隠す様に、一人ぶつくさと文句の言いながら、愛車へと向かった。
ふと、遊歩道の草むらの中に、淡く青白い光が揺れているのが目に入った。
「あれは、なに!」
男は恐怖と少しだけの好奇心で立ち止まり、揺れる光を見詰めていた。
ひかりは、まるで貴人の足下を照らす、ちょうちんの様に、静かに ゆっくりと動き、ある場所で、静かに消えた。その間の数秒間を男は立ち止まったまま、ひかりを、呆然みていた。
ふと、我に帰った男は恐怖に駆られて、急ぎ車に乗り、エンジンを掛け、急発進で車を走らせた。
一刻も早く、この場所から離れた為に。
後日、男は 再び ここに来てみると、墓場の奥に一際大きな墓が有り、たて札がある事に気付く。
たて札には、【戦国時代に、落城した お姫様がこの地で自害され、ここで慰霊をしている事。】
男は、この駐車場を二度と使う事は無かった。