ある日起きたら、僕は魔王になっていた。
窓から差し込む光が目に入り、背を伸ばし、大きく欠伸をする。目を擦り、辺りを見渡すと自分が見慣れない場所にいる事に気付く。
「え、 ここ何処?」
玉座から立ち上がり、壁あった鏡を覗き込む。
「私、何か人間じゃなくなってんだけど。」
そこには、人間の様な見た目をしながらも、頭と同じくらいの大きさの角と身長より長い尻尾を持った何者かがいた。
「これ、ドラゴン、なのかな?」
恐る恐る自分の頬をつまむ。
「痛い。」
ヒリヒリと痛む頬はこれが現実であることを伝えていた。
「お目覚めになられましたか。魔王様。」
少し離れた所にメガネを掛けた人 いやおそらく人ではない誰かが現れる。
「貴方は?」
只者ではない雰囲気に警戒しつつ、振り向く。
「貴方様の下僕、皆からは側近と呼ばれています。」
片膝立ちの状態になり、魔王の前に跪く。
「お力をお貸しください。魔王様。」
「成る程、そういう事でしたか。」
その後側近から話を聞いたところ、どうやら一部の魔族が暴れているせいで、人族、 どうやら魔族は人の事をそう言うらしい。 が勇者を引き連れて
ここまで聞いて気付いた事がある。ここはゲームの世界だ。昔、転生前、とでも言うのだろうか。家族がしていたゲームを少しだけやってみた事がある。それの敵役の魔王、そのデザインが今の僕にそっくりだった。たしかその最期は…
『あれ、もしかして私死ぬ?』
その事に気付いて、冷や汗がダラダラ流れる。
「魔王様?」
側近の言葉で我に返る。
「いや、大丈夫だ。ところで、私は何をすれば良いのかな。」
側近は顔を上げて言う。
「この世を、平和にしてほしいのです。」
「と、言うと?」
イマイチ魔王が世界を平和にするイメージが掴めず側近に問いかける。
「実は、先代、先先代の魔王が悪政を行ったせいで、国内の建造物がボロボロになり、民の生活はドン底、今日の食事すらない者もいるレベルです。」
正直驚いた。魔王を力を思いのまま振るう化け物と思っていた私の認識は古かったのかもしれない。
「なんとひどい。それは直ぐに取り掛からねば。」
その言葉を聞いて、側近は目を丸くする。
「どうしたのだ?そんなに目を丸くして。」
側近はハッとして、訳を話し始めた。
「いや、こんなに話が分かる方は初めてでしたので。先代とその前は『力こそ正義』と言う方でした故。」
その言葉を聞き、私は深く反省した。人を見た目で判断してはいけないとは言うが、その人の置かれている立場、名前、そんな事で私は魔族を残虐な種族と考えてしまった。目の前の
「凄いヤツがいたもんだな。しかし、そんなに大変なことになっているんですか。」
その後、側近は更にとんでもない事を言い出す。
「はい、ですが、それだけではありません。実は、今までの行動のせいで、人族が我々の元に攻めに来ると言う噂もあります。」
やっぱりそうなるんだ。いや想定していた事ではある。でも早すぎるよ、あまりにも。でもそんなもんか。結構クリアするのに時間掛かったもんなあ。
そんな事を考えていると、ドサリという音がして、目の前が真っ白になる。いや正確に言うとそうでは無い。そこにあったのは、とんでもない量の書類だった。
「あのー、何ですかこれ。」
目の前にいるであろう側近に問いかける。
「仕事です。先代とその前の。」
確かによく見たら、古い書類がちらほら見える。
「魔王ってデスクワークあるんだ。」
ゲームの魔王のイメージが音を立てて崩れる。
「そりゃ一国の主ですから。」
隣で側近も仕事を始める。仕方がない。
「さて、頑張りますか。」