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乙女ゲームの攻略対象(暗黒微笑)――傍観者となる。
乙女ゲームの攻略対象(暗黒微笑)――傍観者となる。
猫宮乾
BL学園BL
2025年07月22日
公開日
1.7万字
連載中
ある日、お迎えの車の中で、この世界がゲームの中だと気づいてしまった主人公は、自分が当て馬と評判だった、ゲームの攻略対象の一人だと理解する。大企業の御曹司であるが、攻略対象に選ばれない場合、学園を退学させられるなど悲惨な末路が待っている――その為、ありとあらゆるフラグをへし折る努力をし、悲惨な未来を回避しようと試みる中で、他の攻略対象達と親しくなる。完結まで毎日更新です→07:00(予約済み)

第1話


 初等科のお受験の帰り道――、僕……いや、俺は赤信号で停止した”お迎えの車”内で、目を見開いた。後頭部を金槌で叩き割られるような感覚がしたのと同時に、膨大な記憶が入ってくる。そして思い出した。


 ここは――乙女ゲーム、『ローズ・クォーツ.学園の輪舞曲.』の世界だ。


 ……って、なんだこれ。

 あれか、流行りの乙女ゲ転生か!

 思わず胸中でツッコンだ後、嫌な汗が浮かんでくるのが止められなくなった。


 ツッコンデルバアイジャナイ。


 同時に俺は嫌な黒歴史も思い出すことになる。

 入り込んでくる膨大な、いや、思い出した膨大な、”前世”の記憶……前世とか……!


「お、俺……ぼ、ぼくは、あ、怪しい宗教家なんかじゃない……!」


 そう叫んで幼稚園卒園前、車内で気を失った事が、新しい黒歴史ノートに輝かしい一行を刻んだのだったりする。


 そんなわけで、俺は。

 いやどんなわけだ、整理すると……二十六歳会社員(大卒・未婚・彼女なし)が、俺だった。新卒で入社して、ちょうど新規案件が終わって。


 三月半ばの打ち上げの飲み会の帰り、までしか記憶がない。

 ごく一般的な……一般的だよな……ああ、兎に角世に言うサラリーマン家庭で育ち、友達にも恵まれ、その日まで生きて……死んだのか?


 まぁいい。

 あんまり思い出さない方がいい気がする。で、ここは。


 通称、バラ学――ローズ・クォーツ.学園の輪舞曲.の世界だ。


 なぜ分かるのか。なぜなら俺が勤めていた会社がゲーム会社で、俺は企画にいたからだ。シナリオは全部読んだ。それにやった。そして俺が即座に転生だと叫んだのは、俺がネット小説好きで、特に転生ものを読み漁る趣味を持っていたからだ。把握したのだ。このゲームは、略称にも学と入るだけあって、学園ものだ。


 由緒ただしき、良家の子息子女が通う『稑生学園』。

 ロクショウ……ゲーム内設定だと、誰もが耳にしたことがあるような名門中の名門だ。プレイヤーヒロインが高1で外部入学してくる3年前、要するにヒロインが中1になると同時に共学化された学園で、それまでは、別学だった。いや、この情報は取りおこう。


 それで、だ。


 外部から入学してきたヒロインは、学園に皇帝として君臨する『存沼雅樹(ありぬままさき) 』という俺様を筆頭に、”五星”と呼ばれる有名な五人の在校生か、生徒会長(重複)と風紀委員長、計六人の攻略対象のうちの誰かと恋に落ちる。他に隠しキャラもいるが。教員とかな……。


 五星というのは、初等部からの内部進学者のみで構成されたローズ・クォーツというソサエティとは別に、一目置かれる人々が数え上げられているのである。ローズ・クォーツは、選ばれしもののみで構成される伝統的な会だが、五星はその代の有名人……というか、基本的にはメイン攻略対象の目印だった。で、だ。


 ――ヒロインは、学園の人気者と仲良くなるので、嫉妬から周囲がいじめ開始。学園は大混乱。その上、こちらと仲良くなると、あちらが邪魔してくるという奪われ愛。そう、愛……! バッドエンド・ノーマルエンド・ハッピーエンド・トゥルーエンド・隠しエンドが存在する。基本的には恋人となる時には、入学時に渡される王冠モティーフのペンダントトップについている宝石をチェンジする。


 そして……各キャラの大体のエンディングにおいて、不幸になるのが、女子ならいじめ首謀者のライバルヒロイン。男子なら――……当て馬筆頭の、俺の転生先である『高屋敷誉(たかやしきほまれ) 』だ。


 ”当て馬王子”とは、よくいったものである。


 チョコレート色のさらっさらの髪と目をした高屋敷家の御曹司は、作り笑いの後ろに抱える闇をヒロインに気づいてもらえたことで惚れ込み、何かと他のキャラとの恋路を邪魔しに行くのである。最も落としやすく、最もウザい、腹黒笑顔キャラが、高屋敷誉なのだ。


 五星の一人で、ローズ・クォーツの顔――うわー!


 ヒロインに選ばれる以外においては、かなり不憫なのが、高屋敷誉だ。


 お家取りつぶしが最悪(倒産とかだ)。

 良くても退学して留学。


 このまま行くと、俺の末路は暗い。何せ、俺をヒロインが選ぶとは思えないし、選ばせる努力ができる気もしない。もう俺は――おとなしくするか、フラグをへし折るか、しかない。世界が整合性を保つために動かないでくれることを祈る。


「お父様」


 病院のベッドで起き上がり、俺は憔悴し切った様子の父に言った。


「僕は共学には行きたくないので、稑生には行きません」

「目を覚ましたんだね、誉ー!!!!!」

「誉!!!!!!!!!!!!!!!!」


 両親が泣きながら抱きついてきた。


「君、が、望むなら! 私が責任を持って共学化には反対する!」

「わたくしも!」

「――え?」


 共学化の話がなくなったと聞いたのは、その日のうちだった。





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