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(③)初めての発情

 気づくと発情していた僕は、その後先生に抱かれた。


 ――先生は、ベータのはずだ。


 次に理性が戻った時、僕は漠然とそう考えた。しかし、何かがおかしい。僕は先生にうなじを噛まれる度、無性に幸福感を抱いていた。


 僕はぼんやりしながら問いかける。


「先生は……ベータだったんじゃ?」

「絶対にそんな事はしない。俺は、アルファだ。ベータだというのが、偽りだ。俺にうなじを噛まれて、体は楽になっただろう? それこそが証左だろう?」

「……っ」


 僕は己の痴態を思い出して、真っ赤になった。

 だが――……。


「子供が出来ちゃう……」

「俺の子供を孕むのは嫌か?」

「違、そうじゃないけど、大学だってあるし」

「全てを捨ててくれるんじゃなかったのか?」

「えっと……」

「冗談だ」

「そういえば俺はいつか、お前に研究者が本業だと打ち明けたな」


 僕は小さく頷いた。僕は先生の一言一句を覚えている。先生の事が大好きだから、なんだって覚えていたかったのだ。


「今は、運命の番の研究をしている」

「……運命の……」


 どこかでそんな研究が行われているというニュースを聞いた記憶を、ぼんやりと思い出す。一体どこで聞いたのだったか。そうだ、絹賀崎製薬の研究では無かっただろうか。


「涼介は俺の運命だ」



 ――その日から僕は先生の家にいた。

 僕は先生と交われる事が幸せすぎる。


 先生から愛の言葉を聞く度に、そして僕もまた告げる度に、心が満たされ、そして体も満たされ、僕は先生の事以外、何も考えられなくなっていく。


 この家には研究室があるそうで、先生はそこにこもっている事が多い。


 学校はどうしたのかと聞いたら、実にあっさりと、『涼介のそばにいるために退職した』と言われた。今後は本業の研究や、何やら家の仕事にかかりきりになりそうであるから、今兎に角、僕と一緒にいたいのだと話していた。


 先生が学校を辞めてしまったのは寂しいし、僕も長らく大学に行っていないわけであるが――僕は先生のためならば、何だって捨てられる。それが、恋なんだと思う。ずっと、先生と一緒にいたい。そして先生は、僕のそばにいてくれる。


 そんな事を考えていた時、白い扉が開いた。先生は白衣を揺らしながら歩み寄ってきて、僕の前に立った。手には体温計のような器具を持っている。


「先生、それは何?」

「――妊娠検査薬だ」

「え?」


 僕が驚いて目を丸くすると、先生が苦笑した。


 思わず僕は息を呑み、狼狽えた。冷や汗が垂れてくる。僕は失念していたのだ。先生はアルファで、僕はオメガだ。先生は、ベータでは無かったのだ。ならば、何度も中に放たれたら、発情期が来ている場合、妊娠するのは自明の理だ。


「生んでもいいんですか?」

「そちらこそ、俺の子供を孕むのは、嫌だったんだろう?」

「嫌じゃない……ただ、怖くて……」


 自分の中に新たな生命が宿るというのも実感が無く怖かったが、最初に怯えた時の僕は、紛れもなく生活が一変してしまう事を恐れていたのだ。例えば、家族にも何と言えば良いのか分からない。今となっては、ずっと先生とこの部屋にいるのかもしれないし、いたいとも思っているから構わないのだが……出産するとなれば、多分、病院に行くのだと思う。そうなれば、家族だって知るところになるだろう。


「……子供」


 発情期に交われば、八割の確率で子供が出来るという。避妊薬を用いなければ。だが、絶対に出来るというわけではない。


「これは、最先端の妊娠検査器具だ。受精後二週間程度で判断可能なんだ。今日で、ここに来てから――俺が涼介を最初に抱いてから、二週間だ。腹部に当てると測定できる」

「……」

「望まぬ妊娠であっても、俺はお前を手元に永遠に留めるための証として、子供がどうしても欲しかった」

「望んでないわけじゃないです。僕だって先生との子供なら、可愛いと思うし……先生は、一緒に育ててくれますか?」


 僕が震える声で、恐る恐る問うと、先生が虚を突かれたような顔をした後、優しい笑みを浮かべた。


「ああ。永劫一緒にいると約束する」


 それを聞いたら、胸が温かくなった。


「……子供、出来てるといいな」

「俺が嘘をついた事を、怒らないのか?」

「僕は、本当に先生が好きなんです。だから――先生がそんな風に僕の事を想っていてくれたのが嬉しいんです」


 思わずはにかみながら僕が言うと、先生が吐息に笑みをのせた。


「有難う。涼介は本当に優しいな。優しすぎて心配になるほどだ」


 僕もまた短く吹き出した。そうしながら、本当に先生はアルファだったんだなと改めて思った。


「先生は、本当にアルファなんですね」

「ああ。そうだ。俺はアルファだ。仮に子供が出来ていなくとも、俺はお前を貰う。既にうなじは噛んだ。消えないように、何度もな。消えたらまた跡をつける。絶対に涼介を離さない。一目見た時から、俺はお前の虜だったんだ」

「それは僕の方です」

「多数のオメガの生徒達に囲まれていても、涼介だけに惹きつけられた。香りにも、眼差しにも、全てに」


 そんな話をしていると、検査器具が、ピピと音を立てた。


「妊娠している」

「!」


 どこかで、妊娠していない可能性を考えていた僕は、その事実に再び硬直した。そしてすぐに、やはり家族について考えた。


「お父様達が心配していると思うんです……大丈夫かな……」


 両親は、僕の結婚に関して、とても熱心だった。アルファが相手でも、選び抜かれた相手でなければならないと、口を酸っぱくして言われたものである。


「安心して良い。実家から手を回しておいた」

「――え?」


 これまで僕は、先生の家族の話を聞いた事は一度も無い。だから首を傾げていると、先生が柔和に笑った。そして僕の手足から枷を外した。僕がそのまま座っていると、傍らのクローゼットから、先生が僕の服を持ってきた。誕生日パーティの日に着ていた品だ。


「着替えてくれ」

「はい」


 おずおずと立ち上がると、少しだけふらついた。先生はそんな僕を抱き留める。そして、僕が服を着るのを手伝ってくれた。その後、僕は再び椅子に座らせられた。すると先生が僕を覗き込んだ。


「涼介。俺と結婚してくれないか?」

「!」


 唐突な言葉だった。僕は瞠目し、短く息を呑んだ。


 嬉しい。頬が熱くなってくる。思わず僕は泣きそうになりながら、真っ赤な顔で頷いた。


「僕、僕も、先生と結婚したいです」

「有難う。必ず幸せにする」

「結婚したら、子供がもっと欲しいです。僕、兄と弟がいるんですが、弟とはそこまで親しくないけど、兄とは本当に仲が良くて。子供にも、そういう感覚を教えたいなって」

「そうか。それも良いな。幸せな家庭を築こう。猫も飼うとするか」


 先生はそう言うと、白衣のポケットからヴェルベット張りの小箱を取り出して、僕の前で開けた。中では銀色のシンプルな指輪が輝いていた。側部にダイヤが埋め込まれている。


「貰ってくれるか?」

「……はい」


 その指輪は、同じものが既に、先生の左手の薬指で輝いている。先生は指輪を手に取ると、僕の左手を持ち上げた。そしてゆっくりと薬指にはめた。


「婚約指輪だ。結婚指輪は、二人で選ぼう」

「はい!」


 嬉しくなって僕が微笑むと、先生も優しい顔で両頬を持ち上げる。


「そうと決まれば――涼介の家族に挨拶をしなければな」


 だが続いて響いたその言葉に、僕は顔を曇らせた。果たして両親は、許してくれるのだろうか? 先生は、『実家から手を回した』と言ったが、それはきっと、連絡をしておいてくれたといった意味合いだと僕は思う。杉井の家は、例えアルファの家からの連絡であっても、根本的に余程優れたステータスを持っていなければ、決して許容しないだろう。


「早い方が良い。立てるか? 挨拶に行こう」

「……はい」


 僕はゆっくりと立ち上がった。陰鬱な気持ちになる。確かに僕は家族に祝福されたいが、前途多難な気がしていた。


 その後、茶色い扉を開けて、僕は目の前にある階段を見上げた。どうやらこの部屋は、地下にあったらしい。だから窓が無かったのかと納得しながら、僕は先生に腰を支えられて上の階へと進んだ。そこには初日に見た廊下が繋がっていて、まずはリビングへと通された。そこで先生は、僕に珈琲を差し出してから、微笑した。


「少し待っていてくれ」


 そう言うと先生はリビングを出て行った。僕は久しぶりに飲む珈琲を味わいながら、先生が戻ってくるのを待った。時計を見れば、午後の一時だった。先生は、すぐに戻ってきた。


「アポを取った。涼介の家には、いつ行っても良いそうだ」

「……」


 僕は結婚の知らせも妊娠の知らせも、家族にするのが怖かった。だが、妊娠しているとなれば、そしてうなじを噛まれて既に番関係なのだと知らせれば、許してもらえるだろうかと考える。こう思うと、子供を利用するようで心苦しいが、先生が僕の胎内に新しい生命を宿してくれた事は善策であったような気がしてくる。


「すぐに出かけよう。途中で食事をしようか」

「……はい」

「暗いな。不安か?」

「両親が許してくれるかなと思うと……」

「安心しろ。俺がついている」


 そんなやりとりをしてから、僕達は外へと出た。先生の車の助手席に乗り込み、僕はシートベルトを締める。運転席にいる先生を見るのは二度目だ。整った顔立ちの先生は、本日は学院時代のようなスーツ姿である。この二週間で白衣も見慣れてしまったが、こちらの方がしっくりとくる。


 その後僕達は、近くのイタリアンのお店へと入った。蟹のクリームパスタを頼んだ僕は、他に先生が頼んだサイドメニューのピザやサラダを見る。僕はあまり外食をした事が無い。杉井家の料理人の品ばかり食べて育ったから、物珍しい。先生はバジルソースのパスタを食べている。


「涼介はどんな料理が好きだ?」

「イタリアン、美味しいと思います。家では和食が多かったです」

「そうか。俺も和食は好きで、いくつか知っている店がある。今度行こうか」

「行きたいです」


 僕は想像して楽しくなったが――杉井の家に戻ったら、もう外には出してもらえない可能性を考えた。先生と引き離されてしまうかもしれない可能性。それにずっと怯えていた。


 先生にならば、僕は何をされても構わない。だが、一緒にだけは、いて欲しい。どうしても一緒にいたい。


「涼介の好きなもの、嫌いなもの――猫以外にも、様々な事が俺は知りたいんだ」

「僕も先生の事を、もっと知りたいです」

「ああ。俺の事も知って欲しい。これからは夫婦だ。お互いを深く知ろう」


 先生は、僕達が結婚出来るという事を疑っていない様子だ。僕は、全てを捨てる覚悟をしているから、例え実家の両親に勘当されても構わないのだと、改めて考える。


 僕はお金を持っておらず、食後は先生が支払いをしてくれた。そうして再び車に乗り込み、僕達は杉井の家を目指した。家から少し離れた位置にある駐車場に車を止めてから、僕達は外に出た。先生が僕の手を握る。手を繋いで歩いていると、先生の体温と香りが無性に心地良く思えた。他のアルファ達の香りは時に目眩がするというのに、先生といるとそれが無い。代わりに強く惹きつけられる。


 そのまま歩いて、僕は自宅の玄関の前に立った。インターフォンを先生が押すと、最初は使用人が顔を出した。そして僕を見ると息を呑んだ。応接間へと僕達を通してから、慌てたように使用人が出て行く。別の使用人が紅茶を運んで来たのはそれからすぐの事で、同時に要が顔を出した。


「涼介様……ご無事でしたか」

「要、ごめんね」


 公園に置き去りにしてしまった事を思い出し、僕は思わず苦笑した。すると要が軽く首を振った。


「ご無事ならば良いのです。安心しました」


 安堵した様子の要は、そのまま何も言わずに、壁際に控えた。僕の横だ。先生の事については、何も言わない。


 そこへ乱暴な足音が響いてきて、大きな音を立てて扉が開いた。入ってきたのはお父様で、続いて彰父さんも顔を出した。彰父さんも父も、眉をつり上げている。激怒しているのがよく分かる。


 二人は、テーブルを挟んで、僕と先生の正面に座った。怯えるように使用人が、そちらにも紅茶を置いた。僕は体を硬くし、眉根を下げて二人を見た。


「涼介、何を考えているんだ」

「申し訳ありません……」


 切り出した父に対し、僕は俯いて謝罪した。すると大きな溜息が返ってきた。僕がチラリと視線をあげると、父も彰父さんも、雪野先生を睨めつけていた。父は腕を組むと、荒い語調で先生に言う。


「稲崎学院の教師だそうだな。ベータ風情が、涼介を――監禁するなど」

「違います。僕の意思です。監禁なんてされていません!」


 思わず僕が反論すると、父が今度は僕を睨んだ。


「黙っていろ。絹賀崎製薬の会長から連絡が無ければ、どんな手を使ってでも潰してやったものを。ベータの癖にわきまえるという事を知らなかったらしいな。それも名だたるこの杉井のオメガたる涼介を連れ去るなど。警察を呼ぶぞ」


 父の怒声に、先生が嘆息した。僕が先生を一瞥すると、先生もまた僕を見て、苦笑した。


「俺はベータではありません」

「何だって? 稲崎学院の教師はベータかオメガで無ければならないはずだ。身元を偽ったのか? まさか学生時代の涼介をも毒牙にかけようと狙っていたのか?」


 すると先生が、軽く首を振った。そして、ゆっくりと話し始めた。


「俺は仰る通り、学生時代から涼介君に惹かれていました。だがそれは、俺がアルファで、涼介君がオメガだからではありません。運命だからです」

「巫山戯るな! 涼介にはきちんとしたアルファが相応しい。例え絹賀崎製薬の縁者といえど、一介のアルファごときに涼介をくれてやると本気で思っているのか?」

「――祖父に連絡を頼んだのは、確かに俺です。俺自身が連絡するよりも、涼介君のお父様には関係が深いかと思いまして」


 つらつらと先生が述べた。


 僕は、最初先生が、何を口にしているのかいまいち分からなかったのだが、その瞬間、父の顔色が変わり、彰父さんが息を呑んだ。


「そ、祖父だと……? 絹賀崎製薬の会長が……祖父? だとすると、現社長のご子息か……?」

「ええ。俺は絹賀崎製薬の次期社長に決まっている、現在は研究所の所長をしている者で、本名は絹賀崎雪野と申します」

「な」


 お父様はそれを聞くと、真っ青になった。そして彰父さんをチラリと見てから、腕を組んで、目を丸くし、何度か瞬きをした。


「畦浦は母方の姓です。政府により、絹賀崎の人間は、研究のためであれば、身分や性別を偽る事が許可されています。教員資格も飛び級した大学時代に現代社会と数学の免許を取得したので、稲崎学院には合法的に就職しました――研究のためですが」


 先生の言葉に、彰父さんが呆然としたように呟く。


「次期社長で研究所……第一研究所の所長を務めておられるのですよね……確か、いくつもの特許を取り、そもそも現在市販されているオメガ用の発情期抑制剤の最新版や、アルファ用のラット抑制剤を開発した方では……」


 それを聞くと、先生が微笑しながらゆっくりと頷いた。


「ええ。若輩者ではありますが、それらの研究は俺が行い、実用化したものです」


 両親がその言葉に顔を見合わせた。


「現在は、運命の番研究を行っています。政府のオメガデータバンクと、絹賀崎製薬が保持しているアルファの研究用データを照らし合わせて、今回は、俺自身の運命の番を対象としました。本当に運命があるのか、データでだけでなく、実際にこの目で見て、観察研究をするためです」


 僕は驚いて、先生の横顔を見る。


「いくら遺伝的に解明されたとはいえ――俺と涼介君が運命の番だと、政府機関との共同研究で明らかになったとは言え、実際に顔を合わせた場合どうなのか、俺はそれが知りたくて、稲崎学院の教師として赴任しました」


 全く知らなかった事実に、僕はただ狼狽えるしかなかった。


「結果、一目見た瞬間から惹きつけられました。間違いなく、涼介君が運命の番だと、本能的に確信しました。この時点で、遺伝的な研究は正しかったと、一定の成果を得たように思います。ただ――その時から俺は、どうしても涼介君が欲しくなってしまった」


 先生は、両親の前だからなのか、丁寧に僕の名前を呼んでいる。先生に、『涼介君』と言われると、新鮮な気持ちになった。


「それでも二十歳まで待ったのは、こちらなりの誠意です。そして同意も取った」

「……」


 父は沈黙している。彰父さんはまじまじと雪野先生を見ている。


「今、涼介君のお腹には、俺の子供がいます。絹賀崎の家の全力を持って、名だたるアルファである家系という家柄、血筋、財力、その全てを注いで、何より、俺自身の愛情をもってして、涼介君を幸せにする覚悟があります。どうぞ、結婚する事をお許し下さい。涼介君を僕に下さい」


 雪野先生が真剣な顔でそう述べた。すると黙していた父が――不意に笑顔に変わった。


「そうか。そうですか。絹賀崎家の……次期社長、か。これ以上のお相手はおりませんな」

「ええ……ええ、そうですね。国一番の家柄と言っても過言では無い」


 彰父さんがそう続けてから、僕を見た。


「涼介さんも、それで良いのですか?」


 僕はその問いかけに、少しだけ驚いた。あれほど家柄を気にしていた彰父さんに、気持ちを確認されるとは思わなかったのだ。僕は右手で、左手の薬指にはまった指輪を覆うようにしてから、しっかりと頷いた。


「はい。僕は、先生が好きです」






 ――そのまま、両親の許しが出た。こうして晴れて、僕と先生は、結婚出来る事に決まった。この日も僕は、先生と共に帰る事を選んだ。結婚後には、新居を先生が建てると父に話していた。先生の車に乗り込んで、発進してすぐ、先生が吹き出すように笑った。


「良かった。結婚出来る事になったな」

「先生……先生は絹賀崎家の人だったんですか?」

「そうだ。隠していたようになってしまい、悪かったな」

「いえ……」

「俺はあまり家柄の話を出して権力を振りかざすようなまねをしたり、家柄で判断される事が好きでは無いんだ。だが、涼介を手に入れるためならば、なんだって出来る」


 運転しながら先生が微苦笑した。僕はそれを見て、嬉しい気分で俯いた。すると先生が続けた。


「運命の番だと、涼介も俺を見た瞬間に思ってくれたか?」

「兎に角惹きつけられて……最初はどうして心臓が煩くなったのか、分からなかったんです。ただ、過呼吸を起こした頃には、先生の事が好きで、一目惚れだったのかなって理解してました」


 僕が少し照れながら話すと、先生が頷いた気配がした。


「そうか。俺がベータだと偽っていた理由の一つは、性差について誤認していても、番だと認識出来るかという研究目的でもあったんだ」


 僕はいつか、運命の番研究が成功すれば良いと祈った事がある。自分自身がそれに関わる日が来るとは思っていなかったが、確かに僕は、恋を知る事が出来た。


「俺には、純粋に、運命の番が見たいという好奇心もあったんだ。利己的な理由だ。だが、会いに行って良かったと、強く思っている」

「僕も、先生に会えて嬉しいです。心が、一目会った時からずっと、先生を求めてるから」


 そんなやりとりをしながら、僕達は帰宅した。





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