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なんキョー集~なんでコイツはこんな狂った小説を書いたんだ?集~
なんキョー集~なんでコイツはこんな狂った小説を書いたんだ?集~
よるめく
現代ファンタジー異能バトル
2025年07月22日
公開日
9,112字
連載中
「常識は、捨てた。理性も、置いてきた。」 突然ウニが攻めてきたり、微積でサメに絡まれたり、団長が死んだり死んでなかったり、自分が誰だったのかわからなくなったり──全部、カオスの名のもとに起こる。 本書は、作者・よるめくがこれまで執筆してきた狂気と笑いの渦が交錯する短編小説群を一挙収録した、「どうしてこうなった?」を繰り返す読者置いてけぼり系アンソロジーである。 あなたが読む理由は一つ。 「どうしてコイツはこんな小説を書いたんだ……?」 その答えを、笑いと戦慄の中で探してみてほしい。

東京湾に突然のウニが!!~A Wild Crab Appeared!!~

 東京湾に現れた銀のウニ(水色のタコ)によって東京湾が壊滅的被害を被った!


 全長500メートル。70本の触手と猟奇的人魚じみた超音波機構を備え、さらに目玉で瓦割りを打ってくる。この恐るべき海の怪物によって漁業協同組合戦艦やクトゥルフ漁潜水艦、ルルイエ粉砕骨折マグロ魚雷などの日本領海侵犯絶滅兵器の数々は十把一絡げに打ち払われてしまった。


 このままでは日本の……否、世界の寿司はおしまいである! 世界中で寿司が食べられなくなり、暴動が起こる! 寿司を求めるテロのみならず、この機に食品業界のシェアを奪おうとする飯テロ軍団が一斉に核戦争を始めるだろう。そうなれば地球は沈没し、ラッコは死に絶え、イギリス人が脱糞死する!


 日本はなんとか停戦協定を求めたが、海産物は意に介さない。強力な5G回線を強制的に開かれた空中ヘリマスコミは鼻血を噴いて死んだ!


 この危機を救える者はただひとり! かつてひとりでリヴァイアサンを7000億体討伐した伝説の女傑……アーマード海女、美甘・ポセイドン・漁子以外にありえない!


 かくしてアーマード海女対銀のウニによる壮絶な海戦が始まったのだった……。


 アーマード海女の武装は陸海空すべてに適応する最強の登場型人型兵器。イカの如き十本腕とマグロのような速度、サメのような高性能レーダー、そしてサテライトレーザー(環境にやさしい)を装備している。


 相棒の過剰積載武装アザラシ型戦艦AMA-ZARA-Cが僚機につく。AMA-ZARA-Cはマンゴーラッシーを燃料にして動く戦艦大和6000台に匹敵する超海洋破壊戦艦だ。


 銀のウニは海の中を縦横無尽に駆け回る。水色なので海と同化し姿が見づらい。


 果敢に攻撃するアーマード海女! しかし手ごたえはない。一か八かで攻撃を仕掛けたアーマード海女だったが、それは銀のウニの触手の上で踊らされるが如き愚行。かばいに入ったAMA-ZARA-Cが破壊され、万事休すか?


 否! AMA-ZARA-Cの燃料、マンゴラッシーがあふれ出したことで銀のウニの水色のタコめいた体が露わとなった! 好機、逃すべからず!


 アーマード海女はレーザーを放って銀のウニをイカソーメンに変えていく。銀のウニは触手を切り刻まれて対応不可だ! しかし最後の足掻きでカラストンビがアーマード海女の脇腹を捉える。ゼロ距離5G回線強制開通! 漁子の脳に負担がかかる!


 現れる走馬灯……かつて海女になるためジャイアント・プラナリア注射をした父につられてやってきたカリブ海。そこで出会ったプレシオサウルスにいじめられていた一匹のカニとの出会い……プラナリ野郎の娘とバカにしてきた連中を血の海に沈め、ラム酒で漬けて相手の保護者と一献していた漁子はプレシオサウルスを魚肉ソーセージに変えた。


「ま、待ってください!」


 カニから脳内に着信だ。


「僕、寄生虫のせいでメスになってしまっていじめられてたんです……」


「ええい、うっとうしい! 私の脳に情けない顔文字を送るんじゃないよ!」


 漁子は一喝した。そして自分の父は海女になるためプラナリアを体に刺したことを告げ、母親が勢い余って嵐の海に飛び出し、帰らなかったことを話した。


「父は母親にもなろうとしてくれたんだ。そのためにプラナリアを体に注射して海女になった。あんたみたいにいじめて来た連中は、暴で叩いて半殺しにした。海女であるからには海の漢1000人組み手を潜り抜けるほどの強さが必要だ……父は体を鍛え上げ、漢度3000倍の海女になったのさ」


 そして自分はその娘として、漢度3億倍の海女になる。プレシオサウルスを裸締めで殺害し、クトゥルフを柔らと空手で叩き潰し、冒涜的フルコースを作り上げるのだ。母の分まで自分を育てると誓ってくれた父のために。


「あんたはどうなんだい。メスになったのは不本意だろうが、なっちまったもんはしょうがない。時はマグロだ、止まらねえんだ。だったらあたしら生きとし生きる者すべてがマグロだ。時速1億キロの速度で走って、すべてをぶち抜くしか道はねえんだ」


 ま、そう言って親父はカリブ海に消えたんだけどね。漁子は肩を竦めた。


「強くなりな、貧弱なカニ。誰もあんたを笑えないようにね」


 走馬灯が途切れた瞬間、海女は目覚めた。5G開戦の抵抗法はただひとつ、頭にアルミホイルを巻きつけて脳内サザエをホイル焼きにするしかない。危険を伴う賭けだが、やるのだ! 生きてこのウニを殺すのだ! 海女の名にかけて!


「この……ッ、糞女アマがああああああああッ!」


 アルミホイルに遮断されたウニの声が海に響いた。全身からミノカサゴのように毒のトゲを生やしてアーマード海女を串刺しにする。内部機構がだいぶやられた!


「海女を……甘くみるんじゃあねええええええええええええええッ!」


 漁子は叫び、最終兵器を起動した! 海女の岩都! 深海に眠るルルイエ、そこに封じられた古代ローマコロッセオを浮上させ、ウニごと海から飛び出したのだ!


 ウニの体は圧倒的Gに耐えきれず、四方八方にゲーミング血液を吹き出した。世界中の人々が虹色の雨と虹を見上げる。


 人々の網膜に焼き付いたその虹を絞り出してなお海女を殺そうとしながら、ウニは呻いた。


「強くならねば、誰も俺をタコなぐりにできないほど強く……! 二度とプラナリ野郎なんて……呼ばせねえ……!」


 アーマード海女は一瞬体を停止させ、しかし拳を振り下ろした。


「そうかい、その一心でそこまでのタマになったのかい。だから世界を滅ぼすって? 甘いんだよ、想定が!」


 アーマード海女パンチ!


「ブシュ―――ッ!?」


「海は足がつかないほど深く、空は手が届かないほど高い! 上には上がいるんだよ、プラナリ野郎!」


 アーマード海女パンチ! アーマード海女パンチ! アーマード海女パンチ! パンチ! パンチ! パンチ! パンチ! どんどん拳が加速していく!


「守るための強さを追って、あんたはカリブの海に姿を消した……だが漢度3000倍じゃ叶わねえ奴がいた! 死んだあんたは性転換した縁を使ってあのカニの体を奪い取り……怪産物になったんだ! そうだろ、あのカニ! クソ親父イイイイイイイイイイ!!!」


「ドボボボボボボボボボボボ!!」


 集中豪雨のようなラッシュがウニを打ち、コロッセオに深い亀裂を入れていく。コロッセオは大気圏を突破し、宇宙に飛び出した。


 だがアーマード海女にとって、宇宙は大体海である! 呼吸ができず、動きづらい。そして重力がないので実質地の利を得ている! そして相手は死に体だ!


 オゾン層に阻まれていないむき出しの太陽が紫外線を当て始める。ウニが干物になり出した!


「オボボボボボボボボッ! ボッ、リョウ……ボッ……!」


「うおらああああああああああああああああああああああああああッ!!!」


 アーマード海女の最後の拳がコロッセオを打ち砕いた! ウニとアーマード海女の体は宇宙に投げ出される。アーマード海女は動けなかった。DHAが尽きたのだ。そしてウニはスルメになった。


 漁子の脳に3G回線が開く。「漁子……お前は、俺が守る」と。


「バカ親父……」


 漁子は漂う愛機の中でツブ焼いた。


「あたしはあんたの娘だぞ……あんたに守られなくたって、なんとかやっていけんだよ」


 ウニの電波が遠くなる。回線が2Gに、2.9Gに、2.89Gに……弱まっていく。


 漁子は下を見た。地球は案外青かった。大部分が海なので、実質すべてが漁子の生存地であった。実際に彼女は生き延びて来た。


「けど……今回ばかりはダメかもねぇ……」


 漁子は気楽に伸びをした。さすがに宇宙にまで来ては、帰る術がない。


 AMA-ZARA-Cは砕け散り、アーマード海女は燃料切れだ。どうやって帰ればいいというのか。


 その時、アーマード海女が大きく揺れた。コックピットをシェイクされ、漁子はうっかり吐きそうになる。


「何事だい!?」


「漁子……お前は、俺、が……」


 消えかかった回線から父の声がする。アーマード海女が背中を見ると、そこには赤いカニの爪が突き刺さっていた。形からしてメスである。


「これは!? まだやるってのかい、プラナリ野郎!」


「漁……子……!」


 声は答えず、カニのハサミは切断面から味噌汁を吹き出した。ジェット噴射し、アーマード海女を地上へと押し戻していく!


「な……!」


 スルメがどんどん離れて行く。押しつぶされた宇宙戦艦のようなシルエットの中で、太陽の光に焼かれながら手を振る影があった。カニである。


 漁子は何か言おうとしたが、加速Gによって席に体を押し付けられて、何も言えなくなってしまった。


 アーマード海女が再び大気圏へ突入していく。味噌汁の勢いが増す! アーマード海女は機体表面をガンガンに焼きながら流星となった。


 やがてカニのハサミが外れ、空の彼方に飛んでいく。味噌汁をまき散らしながら消えていくそれに手を伸ばすことはできなかった。アーマード海女は限界だった。


 かくして、アーマード海女は無事着水。東京スカイツリーの5倍はある水柱を立て、太平洋に降り立った。海賊と漁師がやってきて、機体を引きずり国へ戻った。漁子は凱旋パレードに、ボロボロで出席する羽目になったのだ。


 国民栄誉賞を受賞された次の日、漁子はテキーラを飲みながら水平線の向こうを見ていた。


 陽が沈む。取り残された父とカニの成れ果てのウニ(水色のタコ)はどうなっただろうか。わからない。だがただ確かなこととして、海は未だそこにあり、未知なる脅威が潜んでいるのだ。


 漁子はテキーラ瓶を投げ捨てて、コートを大きくひるがえす。アーマード海女は潮が満ちるあたりで修理を終えるだろう。そうしたら、また次の戦いだ。


 漁子は沈む夕日を背に受け、愛機が眠る場所へと戻っていった。


            おわり

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