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スターゲイザー 銀河継承伝説 ──クソゲーに転生したと思ったら、そこは完全版の神ゲー世界だった
スターゲイザー 銀河継承伝説 ──クソゲーに転生したと思ったら、そこは完全版の神ゲー世界だった
ゆーたん(たけのこ派)
ゲームゲーム世界
2025年07月23日
公開日
1.1万字
連載中
有名キャラデザに大物SF作家、オーケストラ音楽家に豪華声優── アニメ化企画まで進んでいた『スターゲイザー』は、本来“神ゲー”になるはずだった。 だが企画は頓挫し、制作費は十分の一に削減。完成したのは、バグまみれ・謎漢字・進行不能の“伝説のクソゲー”だった。 そのゲームを配信中、落雷で感電した俺が目覚めたのは、完全版の世界。 削られたシナリオは復活し、止まっていたボスは動き、 “誰だお前”なドット絵のヒロインは眩しいほど美しく── 理不尽だった要素が伏線として機能する、“本物の神ゲー”の世界だった。 これは、かつて夢見たゲームを、今度こそ最後まで“生き抜く”物語だ。

Stage1 星を見ていた妹

 目が覚めたとき、もうエリカはいなかった。

 病室の窓辺には、しおれた花束と風のない部屋で揺れる小さな風鈴だけが残っていた。

 何度、夢で会っただろう。目を閉じるたび、あの日の笑顔が、耳の奥に焼きついて離れない。


「ありがとう」──あれが、最後の言葉だった。

 季節は一つ巡ったというのに、俺の中の時計は止まったままだ。


 ゲーム会社に入ったのは、エリカが入院してすぐの頃だった。


「お兄ちゃんのゲームが一番面白いって言われたら、きっと元気出るよ!」


 そんな笑顔に応えたくて、命を削って働いた。

 三日徹夜で仕様変更、怒号が飛び交い、血尿を出しながらデバッグ。

 そして、プロジェクトは“未完成のまま発売中止”。


 誰も責任を取らず、ただ俺一人が心を壊した。その頃の記憶はすっぽりと消えている。

 それからの俺は、ただの抜け殻だった。引きこもり、食べては寝て、ネットを彷徨うだけの毎日。

 気がつけば春が終わり、心も季節も止まったまま。


 生きる意味なんて、とっくに──エリカが持っていった。


 ──そんなある日。


 部屋の片隅でホコリをかぶっていた段ボールを開いたとき、懐かしいカセットが出てきた。


 スターゲイザー 銀河継承伝説


 かつて妹と一緒にプレイした、ファミリードライブの伝説の“クソゲー”。

 しかし、開発スタッフは超一流だった。


 説明書のキャラデザインは今でも語り草になるほどの豪華さで、箱説付きで今でも中古ゲーム店ではレアソフトとして数万はするくらいだ。


● キャラクターデザイン:明淵あけふち美裕みひろ(いのまたあつこ)

● シナリオ:寺川てらかわ憲介けんすけ

● 音楽:伊服部いふくべ隆一りゅういち

● メカニックデザイン:スタジオきまいら(武河たけかわ正一まさかず


 さらに、深夜ラジオのオールライトジャパンのラジオドラマ化ではアニメでよく聞くような、古谷としお・堀川流星、日高レイといった豪華声優陣を起用。アニメ化企画も進行し、タイアップでのメディア展開が期待されていた。

 この作品でメインヒロインのアンドロイド、ウィンディアに抜擢されたのが新人アイドルだった笠原めぐみ。

 今では大御所声優とも呼ばれる彼女だが、デビュー作であるはずのスターゲイザーは経歴から消されている。


 ……だが、声優オーディションの後、アニメ企画が突然の頓挫。

 賠償金問題が発生し、制作費は当初予定の10分の1に。


 メインライターの寺川憲介は、脚本を削られた挙句に打ち合わせでキレて台本を壁に叩きつけ、そのまま帰ったらしい。


「あんな中途半端な構成で出すくらいなら、俺の名前は外してくれ」


 そう言って、スタッフロールから名前を削った──というのが、ファンの間で囁かれる“開発伝説”だ。

「脚本家の名前を削ってくれ」──そう言った寺川の願いは、ある意味で完璧に叶えられた。

 なにせ、そもそもスタッフロールそのものが、なかったのだから。


 納期はそのまま、内容だけが削りに削られた結果、未完成・バグだらけの「クソゲー」として世に出てしまった。


 それでも、当時の開発チームには、今では中堅ゲーム会社の社長になっているような凄腕プログラマーたちが参加しており、

その技術と情熱の“痕跡”は、作中の随所に神ゲーの片鱗として確かに残っていた。

 当時まだ駆け出しだった中野氏(現在は株式会社アクセルソフト代表)は、

下請けとして『スターゲイザー』のプログラムセクションに関わっていた若手エンジニアの一人だった。


「ROMが1メガだから“余裕でしょ”って発注側は言うんですよ。でも、アニメーション付きの戦闘エフェクト全キャラ分とか言い出して……正気かと」


 中野氏が語るその言葉の裏には、当時の旧・トライビット社の“無茶ぶり”があった。


「せっかく1メガ積んでるんだから、戦闘画面の敵キャラ全部アニメーションで動かせ!」


 容量の大半は、言われるがままに戦闘アニメに投入された。

 結果、街のグラフィックは削除、シナリオは圧縮&カット、テキストに至ってはバイナリ単位で削減され、「全シ成(全滅)」「勿良し(狼煙)」のような謎漢字圧縮が横行した。


 しかもこの“圧縮漢字”はルビも出ず、意味も分からず、当時のプレイヤーを混乱の渦に叩き込んだ。「“未完成”どころか、“未統合”。モジュール単位で未連携のままマスターに焼かれた部分もあったと思う。


「自分の作ったパーツがちゃんと動くのか、発売されるまで分からなかったんですよ(笑)」


 このゲームは戦闘アニメの演出だけは、妙に凝っていた。

 BGMのパターン切り替えタイミングだけは、職人技だった。

 背景の一部に、あり得ないほど高解像度なパーツが差し込まれていた。

 それは、**限界を超えてねじ込まれた“職人たちの足跡”**であり、後に“黒歴史の傑作”としてコアファンに語り継がれる理由にもなった。


● 「ヨシュアが二人出る」(仲間にいるのに別のヨシュアにいきなり殴られる)

● 「森に入れず詰む」(序盤からルート崩壊)

● 「ボスのウイルスゾンビが無限湧きでレベルカンスト」(決まった場所に入ると、永久に出続ける)

● 「勝手に仲間になり、勝手に去っていくオカマキャラ」(なぜ入れた)

● 「ボスを倒してもイベントが進まず、IDカードは雑魚が落とす」(逆だろ)

● 「小石、漬物石、ラー油、人形……」(何の意味もないジョークアイテムがアイテム欄を圧迫)


 グラフィックも、詐欺だった。

 ヒロインのウィンディアは──青みがかった銀髪ではなく紫一色で**“誰だお前”**なドット絵。


 いのまたあつこのデザインは……どこに?


 会話も破綻していた。


「ビッグカノンを倒した!」(いや、謎シューティングの中にそもそも出てない)

「ドクター・コーヘイじゃ。RG6486を持っていけ」(いきなり何!?)

「星の未来へ」(宇宙船で宇宙へ脱出、スタッフロールも無く白文字でENDの文字)


 さらに、説明書には「謎漢字帳」が付属していた。


「舟台(でふね)」「シ毎ぞく船台(海賊船)」など、読めそうで読めない“惜しい”表記が並び、謎漢字帳がなければまず意味がわからない。


 「狼煙=勿良し」「全滅=全シ成」あたりはまだ親切なほうで……。

 中には「石井きゅう戸斤(研究所)」、さらには「天イ昊エイ星」=天候衛星といった、暗号か呪文かと疑いたくなるような造語まで存在していた。

 文字ひとつにも、**当時の開発陣の涙ぐましい工夫(と、ちょっとした狂気)**が詰まっていたのだ。


 妹と何度ツッコんだか分からない。

 でも──バカみたいに笑った。


「意味わかんない〜クソゲーすぎる〜!」って。


 それだけで、良かったんだ。


 誰が作ったか分からないスターゲイザー完全版が、以前ネットでアップされた事があるが、これはバグも無く、シナリオライターがブチ切れて投げ捨てたという本来のシナリオを最後まで使い、グラフィックをスーパードライブクラスのドット絵にリファインしたもので、ネットユーザーには『これが本物! 野生の公式』等と言われていた。


 だが、有名になりすぎ、配信動画で版権元に見つかり、ゲームは完全に消滅、幻のゲームになってしまった。


スターゲイザーは、バグまみれ、理不尽、未完成の塊みたいな作品だったけど──それでも、楽しかった。


「……配信でもしてみるか」


 久しぶりにノートPCを起動し、キャプチャーボードを繋ぐ。

ゲーム実況なら、誰とも話さずにできる。懐かしがる人がいるかもしれない──そんな、ささやかな希望。

配信したらこの変な漢字を再現してくれる人がいたりするのもこのゲームを選んだ理由だ。


 ソフトを立ち上げ、いざプレイを始めようとした、その瞬間だった。


 ──ドォン!


 爆音。部屋が真昼のように白く染まり、俺の住むアパートに雷が直撃したと気づく間もなかった。

 コンセントから青白い火花が弾け、画面はノイズに覆われ、次の瞬間、焼けつくような激痛が全身を貫いた。


 目の前が、真っ白になる。

 ──死んだのか? 俺。


 意識が遠のく中、どこかで聞こえてきたのは──あのゲームの、タイトルBGMだった。

 ノイズ混じりの電子音。そして、誰かの声。


《……星を見る人よ……もう一度……》


 この声はエリカ……? いや、そんなはずは──

 でも、確かに聞こえた気がした。

 身体がふわりと浮かぶ。光の粒子が舞う、無重力の世界。


 見覚えのある、ゲームのOPの“転送光”。これは……夢? それとも……?

 目を開けた次の瞬間──

 砂と瓦礫に覆われた荒野に、俺は倒れていた。


 焦げついた金属の匂い、かすむ青空、遠くで鳴る警報音。

 立ち上がった俺が最初に見たものは、銀河連邦のロゴマークだった。


 そこにあったのは、半壊した宇宙船。俺はどうやら、そこに“乗っていた”らしい。

 だが、船は謎のバリアフィールドに包まれていて、外には出られない。


「ここ……『スターゲイザー』の世界……?」


 信じられない光景。でも、ロゴマークも、瓦礫の質感も、間違いなく“あのゲーム”の中のものだった。

 どうにかして外に出なければ──俺は、宇宙船の中へと足を踏み入れる。

 中は半壊していたが、奥には、奇妙なカプセルがひとつ。


 パイプで繋がれ、冷却装置の残滓がかすかに唸っている。

 それはまるで、人間を収納するために作られた装置のように見えた。


 装置の蓋が開くと中に不思議な美少女が眠っていた。


「オイ、大丈夫か?」


 俺が声をかけると、眠っていた少女が目を覚まし、ピピピピ……と謎の音が聞こえてきた。

 少女は半裸に近い薄着だった。だが、髪の部分から全体にかけて紫っぽいエネルギーフィールドが彼女を覆っている。

 紫の半透明のエネルギーフィールドの内側の少女は、青みのかかった銀髪に白い肌のアンドロイド少女だった。


「アナタは……? ワタシは、ウィンディア……」


 そうか、この子はメインヒロインのウィンディアだ。

 昔のゲームの制限だとカタカナが全部使えなかったので、ういんでいあ、になっていたっけ。


 ゲームのグラフィックでは紫の髪の毛だけど、キャラクターデザインの絵では青みのかかった銀髪の姿だった。

 紫基準ではなく、本来の設定画そのもののデザインのウィンディアが出て来るって事は……。


 ──ここは、あの“銀河の終末世界”を描いたクソゲー……いや、完全版の『スターゲイザー』の世界?


 俺は今、バグも未完成もない、本来の脚本通りに進む、**「あったかもしれない神ゲー世界」**に──

 転生したのか?


 動力源ともいえるウィンディアが宇宙船のメインカプセルから離れた事で、墜落宇宙船の周りに張られていたバリアフィールドが消え、外に出れるようになった。


 すると、目玉のような偵察ロボットが俺達に襲い掛かってきた。

 こいつは水色のシーカー、このゲーム最初の雑魚だ。


 そうか、この世界では、バリアフィールドが解除されたところでチュートリアル的にこの水色のシーカーとのバトルが始まるって事か。

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