機動兵器ガーディアン。
それは人類を抹殺するために作られた、コンピューター軍団の巨大無人兵器だ。
この緊迫した戦闘、本来なら息を呑む場面のはずだった――が、出てきたのが例の謎漢字。
「あれは木幾重力へいきがーでぃあん。人るいを手末さつするために王見れたてきだ」
……いや、なんだよ「王見れたてき」って。読めねえし意味わかんねえし、こんなもんで緊張感出るかよ。
しかも声優は全力で熱演。息遣いまで完璧にキメてくるもんだから、余計に笑える。
ちなみにこの場面、ラジオドラマ版でも再現されており、効果音も演技も妙に本格的だった。
今でも動画サイトに上がっていて、「伝説のクソ演出」としてネタにされている。
――だが、この世界では、まさかのあのシーンが“完全再現”されていた!
「アレは! 機動兵器……ガーディアン。人類を、抹殺する為に現れた敵だ!!」
モブの一言セリフ。それだけなのに、妙に重く、渋く、緊迫感に満ちていた。
……これ、本当にあのクソゲーと同じ世界なのか?
俺の疑問は、ガーディアンの動きにもあった。 このガーディアン、ゲームでは細切れ戦闘ウィンドウにパーツごとに配置されたようになっていて、レーザーを撃つときは前腕のハサミを上げ、中から発射口を見せてレーザーを放ってきた。
俺とウィンディアが見ている前で、ガーディアンはグググ……と重い腕を振り上げ、前腕のハサミをスライドさせ、レーザー発射口をむき出しにすると――そのまま光線を放った!
レーザーで焼き斬られたビルが真っ二つに! 幸いあれは廃墟ビルで誰もいなかったので被害は出なかったが、凄まじい威力だ。
ゲームではショボい演出に見えたレーザー攻撃が、まさかこれほどのものだったとは。
ゲームでは、ここからが地獄だった。
ガーディアン本体にはほとんど攻撃が効かず、腕や胸部のパーツに数ダメージずつ与えるだけ。
しかもレーザーを避けそこねると即死で、リトライ画面を何度も見る羽目になった理不尽ボス戦。
だが、この世界は違う。俺には自由がある――なら、やってやるさ。
「――来た! 今だ、全員、合図通りに!」
俺の声に反応して、一斉に走る住民たち。
ガーディアンの目前、あらかじめ指定されたルートに瓦礫やドラム缶を投げ込むと、ガーディアンは動きを変え、ゆっくりとその場に移動し始めた。
「レーザー、来るぞ……!」
ガーディアンの腕が持ち上がり、前腕部のハサミがガコンと展開。
内部のレーザー発射口が光を集め――
――ズビィィィィィッ!!
放たれた焼き斬りレーザーが、サトルたちの誘導したビルに命中。
ビルの中層部が切断され、ミシミシと音を立てて傾き――
そのまま、真下のガーディアンに向かって、巨大な瓦礫の雨が降り注いだ!
「今だッ! 押しつぶせぇぇええッ!!」
住民の誰かが叫ぶ声と共に、崩落したビルの上層がガーディアンを直撃。
爆煙と瓦礫の嵐の中、鈍い金属音と共に巨大兵器の姿が崩れ、地面にめり込むように倒れ込む。
ビル崩落によってガーディアンは沈黙した。 だが、その勝利の後、ウィンディアの様子がおかしいことに俺は気づいた。
「……ウィンディア、顔色が……」
「エネルギー消費が限界を超えました。……システムを、最低限にまで落とします」
そう言うと、彼女はふらりとよろけ、不時着していた宇宙船へと歩き出す。
俺が呼び止める間もなく、ウィンディアは船の内部、中央に据えられたあのカプセルへとたどり着いた。
「ここが……私の“セーフエリア”です」
そう呟きながら、ウィンディアはカプセルの中へと静かに身を沈める。
まるで眠るように、いや、記憶を保ったまま冷却装置に自らを閉じ込めるかのように。
内部で光が灯り、装置が低く唸り出す。
「……私が損傷すれば、この世界は崩壊する。だから、私は“守られなければならない”。それが、あなたたちの“世界……ストーリー”での……ルールだったのでしょう?」
カプセル越しに、ウィンディアが穏やかに微笑んだ。
彼女は、この世界が作られたものでシナリオが存在することを知っているのだろうか。
「でも、今は――少しだけ、違う気がします。だって、あなたが、ここにいてくれるから」
静かに、カプセルは閉じられた。
彼女が再び目を覚ますまで、この場所を守るのが今の俺たちの役目だ。
ガーディアンが瓦礫の下から起き上がる。
ボロボロだが、まだ生きている。さすが、クソゲー。中ボスですらこの強さって。
このままじゃまた――と思ったその瞬間、船体が低く振動し始めた。
ウィンディアが宇宙船とリンクして目を覚ましたのだ。
「ウィンディア……これは……?」
「フォトンビーム、チャージ完了です。本来の設計では、この兵器でガーディアンを排除する予定でした。それが、最終決戦の勝利条件だったのです――未完成のまま、削られたモノの一つですが」
船体前方の装甲が、ゆっくりと開いていく。
その奥にあったのは、禍々しいほどに輝く、純白の発射砲口。
「これが……幻の、必殺兵器……」
「はい。私たちが“描くはずだった結末”です」
――ズオオオオオッ!!
放たれた純白の光線が、大地を穿ち、空を焼き、
ガーディアンの胴体を真正面から貫いた。
敵が咆哮のような爆音をあげ、身をよじらせる。
その巨体が、溶け、崩れ、ついに――爆発四散した。
その光は、一切の理不尽も、未完成も、笑われた歴史すら――すべて、焼き払ったかのようだった。
フォトンビームで焼き飛ばしたガーディアンの残骸が、焦げた煙を上げながら崩れ落ちていく。
「……これが、あの“落とし穴撃破”の正体だったのか」
俺は思わず呟いた。
ああ、思い出した。この場面、ゲームだとウィンディアさえ無事なら勝利扱いで、結局「戦闘中に穴に落ちて倒したっぽい」という雑な処理で片づけられていたんだ。
文章としてはこうだ。
「がーでいあんは、単矛斗中に穴にシ各ちて、そこを一っきにエ文げきされてこわれた」
当時のプレイヤーたちは、「なんか倒したっぽいw」で笑って流していた。
でも――違った。
これは本来、シナリオライターが描こうとした“重要な分岐点”だったんだ。
あのガーディアンは、ここで完全に撃破されたあと、人類によって回収され、再起動され、有人機として再構築される。
そして――大佐が、ビッグカノンを止めるため、自らその機体ごと囮として犠牲になる――!
……それが、伝えられなかった。予算と容量の都合で。
そして、笑われた。
でも、今は違う。この世界では、その“幻の勝利”が、きちんと形になっている。
「……これが、あの人の“書きたかった本当の勝利”ってわけか」
……? え? 俺、今なに言った? あの人って、誰だよ。
今度こそ起動兵器ガーディアンは完全に沈黙。人類の勝利だ。
そのとき、ガーディアンが動かなくなったところで、ヨシュアが現れ、俺たちに頭を下げた。
「すまなかった、どうやら君たちは本当に人類の敵ではなかったようだ。大佐が言った通りだった」 「大佐?」
「大佐は、オレたち人類反乱軍の司令官だ。君たちを大佐の所に連れてきてほしいと、オレはあの人に頼まれた。ぜひ、俺についてきてくれないか」
出た、重要人物となる大佐だ。
だが、この大佐……ゲーム本編ではどこかのシナリオを削ったことが原因で、一切台詞をしゃべらず、反乱軍の一番奥で椅子に座っているだけの存在だった。
プレイヤーのあだ名は『置物大佐』。 なんでここにいるのか分からず、ゲームの最後まで一言も話さずに椅子に座っただけの眼帯の男だった。
だが、ラジオドラマを知っている人なら、この大佐が第三次世界大戦の生き残りで、コンピューターによる人類殲滅軍への反乱軍を指揮するかつての英雄だということは知っている。
実際、ラジオドラマでは彼の指示で動く事が多かったらしい。
「よく来てくれた。わたしが人類反乱軍代表、アルバート・シュタイナー大佐だ」
俺たちを出迎えてくれたのは、眼帯に鋭い目つきでベレー帽をかぶった、歴戦の戦士といった風貌の軍人だった。