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第28話 


鈴木邸。


「八筒。」

「ポン。」

夏末はにこやかに八筒を受け取り、自分の手牌をさっと見渡した。

ポンポン和了、テンパイ中だ。

卓の向かい側で、夢希は作り笑いを浮かべながら言った。

「まあ!石野さん、さすがに目ざといですね。私が気づく前にもうポンされちゃって。」

夏末はちらりと夢希を見上げたが、わざわざ返事する気もない。

夢希はすでに皮肉を言う準備万端で、夏末が無視しようが気にせず続けた。


彼女は突然大きなため息をつく。

「はあ〜〜〜」

わざとらしい声に、卓の三人が一斉に目をやる。

夢希が言う。

「石野さん、本当にお気の毒様。あんなに観察力があるのに、身近な小悪魔に気づかないなんて。」

夏末は表情一つ変えず、さっと夢希を一瞥するとまた手牌に集中した。

この一局で和了ればかなりの点数になる。

大事な場面で気を散らすわけにはいかない。


夢希はわざと涙をぬぐう仕草をしながら、体をくねらせて続けた。

「石野さん、私自慢じゃないけど、女は結婚したら旦那さんの操縦を覚えなきゃ。さもないと、外の小娘に取られちゃいますよ?」

夏末は一枚引き、ふと眉をひそめて夢希を見上げた。

夢希はそんな夏末の様子を見て、口元がにやりと上がる。

心の中で「やっぱり痛いところを突いたわね」とほくそ笑む。


夢希はすかさず心配そうな顔を作り、わざとらしく慰める。

「石野さん、アドバイスが必要ならいつでも言ってくださいね。私、結婚して五年たつけど、いまだに旦那さんは私にべったりで——」

夏末は首を振り、口元に微笑みを浮かべて言った。

「すみません、また和了りました。」

夢希「……?」

えっ?

夏末「ツモ、ポンポン和了。一人十六万円です。」

これで三連勝。

さすがにお金を受け取るのも少し気が引ける。


夢希は渋々財布からお金を出して夏末に渡す。

心の中では「よくもまあ平然としていられるわね、いつまで我慢できるか見ものよ」と毒づいていた。


新しい局が始まり、しばらくして——

夢希は咳払いをし、卓をぐるりと見渡して大げさに言った。

「やっと年寄りの言葉が信じられるようになりました。」

森田夫人が興味津々で聞く。「どんな言葉?」

夢希は夏末を見つめながら言う。

「恋に破れれば博打に勝つ、ってやつです。」

森田夫人と鈴木夫人は顔を見合わせ、卓の雰囲気がどんどんきな臭くなっていくのを感じた。


夢希は口元を隠して微笑む。

「さっきの絶張ツモ、石野さんの運の良さは本当にすごいですね。」

鈴木夫人は噂話に興味がなく、淡々と牌を切る。「三索。」

夏末は牌を見て、「チー。」と宣言。

森田夫人も夢希の言葉に乗って、「石野さん、今日は本当にツイてますね。」


夏末はにっこり微笑んだ。

「ええ、だから皆さんも集中して打たないと、私に全員やられちゃいますよ。」

夢希は皮肉も通じず、イライラしながら牌を切った。「七索!」

「和了!」夏末は嬉しそうに牌を倒し、「清一色、あなたの七索で和了です。」

「またしても一人十六万円です。」


鈴木夫人は夏末に目を向け、冗談めかして言う。

「石野さん、さっきは麻雀が下手だって言ってませんでした?本当は控えめだったんですね。」

夏末は照れくさそうに笑い、「そんなことありませんよ。全部佐藤さんのおかげです。」


——恋に破れれば博打に勝つ。

もし本当にこの言葉どおりなら、卓也が外で浮気すればするほど、私はますます運が良くなるってこと?

それなら毎日でも精進料理で過ごしてもいいくらい。


夢希は言葉に詰まり、お金を払った後、牌を乱暴に倒した。

「もう一局!」

こんなはずじゃない。

皮肉も効かず、得意の麻雀でも夏末に負けるなんて。

ふん。


……


一時間後。

夢希は持ってきた十六万円がほとんどなくなって、やっと我に返る。

何をしているの、私——

今日は鬱憤晴らしに来たはずなのに、いつの間にか夏末と勝負に夢中になってしまった。


一方、夏末は圧倒的な勝者に。

三人を相手に、一人勝ち。

わずか数時間で百万円以上も勝ってしまい、以前の仕事の何か月分ものボーナスに相当する。


夏末は平然を装いながら、「これくらい当然」とでも言いたげに、ゆっくりとお金をバッグにしまう。

その落ち着きが夢希をさらに苛立たせる。

皮肉も通じず、お金まで巻き上げられて、悔しさでいっぱいだ。


夢希は気持ちを切り替え、方針転換。

強気が通じないなら、今度は弱気で攻めるしかない。

鈴木夫人がトイレに立った隙に、夢希は突然夏末の手を握る。

わざとらしく慰めるように手を叩きながら言った。

「石野さん、私たち女性同士、あなたの辛さはよく分かります。無理して笑ってるけど、本当は泣いてるんじゃないかって思っちゃう。」

夏末は鳥肌が立ち、ゆっくりと顔を上げた。

まるで変なものを見る目で夢希を見返す。


夢希は夏末のまつげが震えたのを見て、核心を突いたと勘違いし、さらに続ける。

「結局、私が手を滑らせたせいで、みんなに知られちゃったわけだし……。もし社長と離婚するなら、横浜で一番の弁護士を紹介してあげる。それで許してもらえれば——」


「ぷっ——」

夏末はついに堪えきれず、吹き出してしまった。

この一笑で十年分の功徳も吹き飛んだ。

せっかく保っていた落ち着いたイメージも崩壊。


仕方ない、夢希の計算高さがあまりに露骨で、ツボに入ってしまったのだ。

どうしてこんなに分かりやすくて意地悪な人がいるんだろう。

問題が大きくなることを本気で望んでいるのが見え見え。


夏末は表情を引き締めた。

もう崩れたからには、はっきり言ってやるしかない。

夢希の手を引き抜き、ゆっくりと言った。

「佐藤さん、今日はずっと私の家庭の話ばかりしてるけど、みんなの気分を壊したくなくて黙ってただけ。もう麻雀も終わったし、そんなに私の家庭が気になるなら、ちゃんと返事します。」


夢希は呆然とし、まるで別人のような夏末に戸惑う。

夏末は静かに言う。

「返事は簡単よ。」


夢希「……?」


夏末「あなたには関係ないわ。」


夢希「何それ……」


夏末「何よ?家で暇すぎて口を動かしたくて仕方ないんじゃない?せっかく外に出てきたからって、そんなに話したい?」


夢希の顔がひきつる。「私のことを口うるさいって言いたいの?」

夏末「例え話よ。」


夢希はこんな屈辱、今まで味わったことがない。手が震え、夏末を睨みつけた。

森田夫人はオロオロして、どちらを助けていいかわからない。

本来なら親しい夢希の味方をすべきだけど、夏末の勢いに押されて何も言えない。


夢希は卓を叩きつけ、手のひらがしびれるほど強く叫んだ。

「一体何様のつもり?誰があんたにそんな口をきく許可をしたの?私の旦那でもそんなこと言わないわよ!」

「自分の旦那も抑えられないくせに、何を偉そうに!」

「そんなに自信があるなら、旦那さんを取り戻してみなさいよ!愛人を捕まえてみなさいよ!」


夏末は静かに夢希を見つめる。

その姿が哀れで、悲しくすら思えた。

一言一言から、女としての自信のなさと、男性に依存する価値観が透けて見える。


夏末がさらに言い返そうとしたとき、落ち着いた足音が近づいてきた。

玄関で、鈴木家の使用人が一人の人物を案内し、卓を指さす。

「石野様、石野さんはこちらです。」


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