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虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─
虚映ノ鏡は真を映さず ─神気宿す少女と、月詠む死神審問官─
あさとゆう
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年07月25日
公開日
2.3万字
連載中
【異能力 × 学園ミステリー】 教師や生徒の不可解な自殺が続く学園で、心に不穏を抱く高校生・水無瀬藍良(みなせ・あいら)。 そんな彼女の前に転校生として現れたのは、塩顔イケメンの白月千景(しらつき・ちかげ)――だがその正体は、罪を犯した死神を裁く“死神審問官”だった。 「これは、人に紛れて生きる“堕ちた死神”が仕掛けた死の連鎖だ」 元凶は“黒標対象ユエ”。人の皮を被り、学園に潜む異端の死神だった。 そんな黒標対象を見つける鍵は、藍良の寺にあるという《虚映ノ鏡(きょえいのかがみ)》。 だが、その鏡の存在が、新たな謎を呼び起こすことに──。 藍良と千景は、“黒標対象ユエ”に辿り着くことができるのか? 神の力と月の詠唱が交差するとき、 「真実」と「命」を賭けた、審判の夜が幕を開ける――。 ―登場人物— ・水無瀬藍良(みなせ・あいら) 本作の主人公。高校3年生。寺の娘で勝気な性格。 不可解な事件の渦中に巻き込まれていく。 ・白月千景(しらつき・ちかげ) 転校生として学園に現れた塩顔イケメン。 その正体は、罪を犯した死神を裁く「死神審問官」。藍良にベタ惚れ中。 ・タマオ 死神界から旅行に来た、しゃべる「神蛇」。 居心地の良さから藍良の家に棲みついた。好物は出し巻き卵。 ・ユエ “堕ちた死神”=黒標対象。ある目的のために、人間を死へと導き、魂を集めている。 ・遠藤咲(えんどう・さき) 藍良の親友。明るくしっかり者でよき理解者。 ・水無瀬慈玄(みなせ・じげん) 藍良の父。寺の住職。穏やかで人当たりの良い性格。 千景ともなぜか意気投合する。 ・藤堂翔真(とうどう・しょうま) 生徒人気の高い教員。 だがその裏では、藍良たちに不審な行動を目撃されていて…?

プロローグ

プロローグ

 月影の、星さえ黙る闇の中──。


 生ぬるい夜風がそっと肌を撫でていく。

 青年“ユエ”は、肩まで伸びた白銀の髪を揺らしながら、雑居ビルの屋上でひとりの女性の手を握っていた。二人は無言のまま、屋上の縁へとゆっくり歩を進めていく。


 ここは十階。


 縁から見下ろした先に広がるのは、せわしなく交差するネオンやヘッドライト。車のクラクションや人々のざわめきが、微かに耳に届く。


 その光景をしばらく見ていた女性は、顔をひきつらせた。肩が小さく震え、それは次第に大きくなる。ついに女性は立っていられず、その場にうずくまった。


「どうしたの?怖いの?」


 そっと問いかけるユエ。その声は、とても穏やかではあったが、氷のように静かだった。

 女性が震えながら頷くと、ユエは安心させるかのように柔らかく肩に触れ、微笑んだ。


「怖がることないよ。前を見て」


 そう促された女性は、ゆっくりと前を向いた。すると、女性の目の間に、白い翼を広げた天使が浮かんでいた。天使は白装束に身を包み、少年のようなあどけない姿で、女性に向かってふわりと微笑むと、そっと両手を差し出した。


 女性はうっとりしたような眼差しで天使を見つめた。そして、その怪しい魅力に引き寄せられるように手を伸ばす。だが、女性の手が天使の手に触れる寸前、ふっと天使が消えた。


 次の瞬間、女性の目の前を空虚な闇が覆う。女性はそのまま、恐怖を叫ぶ間もなく、屋上から底のない絶望へ、風を裂くように落ちていった。


 ──ガンッ!


 鈍く響く衝突音。

 「きゃあああ!」という叫び声が闇に反響する。

 屋上の縁に立つユエは、それを見届けたあと、満足げに微笑みながらゆっくりと両手を空にかざした。


 上空には、曇り空から微かに月の光が差し込んでいた。

 闇の中、その一点の輝きに向かって、ユエは神に祈る巫女のように囁く。


「今宵も、罪人の魂があなたの元へ還りました。願わくば、あなたが再び力を示さんことを──」

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