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弾撃のサンドリヨン―ゲーム世界で目覚めたらアンドロイドだった―
弾撃のサンドリヨン―ゲーム世界で目覚めたらアンドロイドだった―
亮亮
ゲームゲーム世界
2025年07月25日
公開日
3.2万字
連載中
普通の大学生である主人公はある日、SNS社会の時代というのに見たことも聞いたこともないゲームに出会い、暇だったのでジャケ買いした。 そして起動した瞬間視界は暗転。目が覚める様に起き上がると、そこは現実から程遠い世界観の一室であった。 しかも体は機械でできたアンドロイド!? どんな体だよと驚くも束の間、外の世界は異世界ファンタジーや近代ファンタジー、未来ファンタジーが入り混じった混沌の世界観!! 人間からエルフやドワーフと言った亜人、アンドロイドから精霊と種族も民族もご照覧あれ!! フィールドを跋扈するモンスター。謎が謎を呼ぶダンジョン。難解なクエスト。圧倒的力で襲い来るレイドボス!! そんな世界で主人公はどうやって生きていくのか!?

第1話 サンドリヨン

「――コポッ」


 開いた口から気泡が漏れる。半重力を感じさせる浮遊感は、水泳の授業でプールに潜った水の中みたいだと感じられた。


 薄く開けた視界。見えるのは気泡と窓の様な物。それに窓向こうの光。


 ――ッギュル!


 下の方から水が流れる排水溝みたいな音が響いて来たと同時に、正解。浸っているのは水だと言わんばかりに排水、目減りしている。


 水が排水されどこからかぽちゃぽちゃと滴るだけとなったその時、不意に目の前の窓――何かが駆動。俺を包むカプセル状が開けると、外の外気が流れ込み俺の頬を撫でる。


「――ぅぁ」


 水がなくなるも微かだった重力が、外気に触れた途端に一気に襲い来る重力に。背中から感じる駆動はリクライニングシートを彷彿とさせると同時に、座った状態の俺は力なく項垂れる。


(……あれ……? なんで……俺……)


 霞む視界。ここで思い出したのはそう……大学生の俺だ。


 ぼっちだった中学や高校とは違い、大学ならばバラ色の学生ライフを送れると思っていた。だけど蓋を開けてみればゲーマーの陰キャ。コミュ力マックスの陽キャたちに到底かなうはずもなく、結果的にはぼっちと変わらない始末だ。


 実家からの仕送りとバイトで何とか生活できている状態。楽しみと言えば言わずもがなゲームだ。


 そんなモブAな俺だけど、個人店のゲーム屋にて見た事も聞いた事もないゲームを発見した。しかも最新機種のゲーム。いったいどんなゲームなのかとパッケージ裏を見たら普通のアクションゲームとしか印象を受けない。スマホで調べようとしたけどバッテリーが1パーセントだったから断念。


 棚に戻そうにも何故か、手に取ったソフトが妙に興味を引く。そして人生初の、いわゆるジャケ買いをしてしまい、家でゲームを起動した。


(……そこまでは覚えている)


 朦朧もうろうとする思考。断片的な記憶しか思い出せないこの状態で、項垂れて床の一点を見ていた視界に青い何かが見えた。


『認識ID―Z41006』


『TYPE―Deus Ex Machina』


『固有名称――サンドリヨン』


『GoodMorning! ようこそイモータルワールドへ!』


 青い文字でツラツラと映し出されるそれは、まるでゲームのシステムアナウンスみたいなメッセージ画面。床に現れたものではなく、俺の瞳に映し出されているとわかる。


「っうぅ……」


 リクライニングから起き上がろうとしたが、脚に力が入らずドサリと横転。


「っく。ぅぅ」


 両手を床について起き上がり、プルプルと震える脚で何とか立ち上がった。


 まるで生まれたての小鹿だと思いつつも、視界を追随するメッセージ画面が妙にウザいとも思った。


「……何だ……ここは……」


 当たりを見渡すと、白を基本とした広い場所だった。高い天井には幾つも光源があり、遠くにいは厳重そうな扉が見える。


「ッ!?」


 心臓が跳ねあがった。


「何だよ……これは!?」


 白色を基本色としたぴっちりな衣装。割れたシックスパックとイイ感じに張った大胸筋が妙にセクシーを感じさせるが、それ以上に驚いたのは別部分。


(腕と脚が……機械になってる……!? まるでロボットかアンドロイドみたいに!?)


 手の平と指はそのままだけど、手の甲を含む手首、肘にかけて装甲というか機械が装備。脚は太ももを機械が覆いつつも膝から先は機械の脚。足首からはもう某機動戦士みたいな足になっている。


「……顔にも」


 脚を見た拍子にピッカピカな床に反射した自分の顔を見ると、顔の輪郭を沿う様なアーマーが頭部にかけて装備されていた。しかも髪色も白色に変わっている始末。


 辛うじて顔は変わっておらず、一安心したのはしたが、こんな訳の分からない状態ならイケメンにしてくれと思った。


 お父さんお母さん。二人のイイ感じのパーツをくれたのに親不孝なのお許しください。


 そんな事を思っていると、不意に気になった。


『イモータルワールド』


 メッセージ画面に映し出されている文字。それは俺がジャケ買いしたゲームのタイトルに他ならない。


 ゲームを起動し、目覚めたら体が機械になっていた。そんな漫画やアニメ、ネットの中で無数にある展開を今一身に受けていると、本能的にわかる。


(俺……ゲームの世界に入ったのか……?)


 寝言は寝てから言え。そんな眉唾を真っ先に思ってしまうのは、すでにこの世界に毒されている以外他ならない。


 というか。


(どうせゲームの世界に入るなら熟知してるゲームの世界にしてくれよッ!?)


 何十時間、何百時間とプレイし、効率的なレベル上げや裏ルートを駆使できるほどの熟知したゲーム知識で無双!! それが出来れば万々歳だけど、ジャケ買いしただけの知識ゼロでゲームに入っては無双できやしない!!


「これが現実かぁ……」


 世知辛い。本当に世知辛い。元の世界の俺はどうなっているとか考えが過るけど、それをどこか他人事の様に思えてならない……。もうこの世界で生きていくしかないのだと自然と思考が流れる。


『チュートリアル:攻撃を覚えよう』


 俺が眠っていたカプセルが下に収納される音を聞きいていたら、視界のメッセージ画面が変化。


「チュートリアル?」


 ますますゲームみたいだと思ったのも束の間。数メートル先に光が集約。徐々に形作られると、プルプルと震えるスライムが現れた。


『この世界にはモンスターがいます。まずはスライムを倒しましょう』


「倒すって……」


「グニョ」


「あのスライムを……」


 メッセージ画面の通りに現れたスライムを倒せばいいけど、生まれてこの方喧嘩なんてした事ない俺に暴力を振るえと言われても困惑する。


 しかも相手は無害なスライム。……今のところは。


 だけども無害と思っていたのは直ぐに撤回することになった。


「グニョ!!」


「うお!?」


 突如飛び込んできたスライムを寸でのところで避けた。


 所詮はチュートリアル。軟体質で動きが遅いと思っていたのに、予想を裏切る速度で襲い掛かって来た。


「ニョ!!」


「うわ!?」


 何度も何度もしつこく飛び掛かって来るスライム。まだ慣れない機械の脚だから回避もおぼつかない。


(襲ってくるのはわかったけど! 武器は無いの武器は!!)


 襲ってくるのは仕方ない。ならばチュートリアル通りにスライムを倒そうと思うも武器が無い。


 瞬間、脳に電流走る。


(そうかッ!!)


 戦いを意識してなかっただけで、俺は始めから武器を持っていた。


「グニョ!!」


 飛び掛かって来るスライム。それを迎え撃つ様に俺は態勢を低くして構えた。


 そして。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 かち合うタイミングで拳を突き出し、激突。


 ――ッバコ!!


「ニョ!? ――」


 俺の反撃をくらったスライムは、光の粒子となって消えた。


 振り切った腕。俺の拳には水色の魔力で生成されたとげとげしいメリケンサックが纏われていた。


『攻撃を覚えよう:クリア』


『チュートリアル:技をくりだせ』


 どうやらまだチュートリアルは続く様だ。

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