「やだー! ちょっとォ! それってサイアクじゃなーいぃ?」
まりも町一丁目にあるスターバックスのカフェテラス。
一人テンションが高い青年を前に、私は笑顔を浮かべて
話に聞き入っていた。
彼の名前は松子 浩志(まつこ ひろし)。
ど派手なピンクの髪に端整な顔立ち。しかも長身。
そしてオネエ言葉。でも女装趣味じゃないし、ゲイでも
ないと本人が言っていた(ゲイというよりバイらしい)
外見も内面も人目を惹くこの人が、私の今カレ。
長い指をテーブルの上で絡ませながら楽しげに喋るカレに
胸がときめいていた。
「ちょっとぉー、サトシったら、アタシのハナシ聞いてるぅー?」
ちょっとむくれたような表情を浮かべるコウ君(『浩志』と書いて
『コーシ』と呼んで欲しいらしい)に「ちゃんと聞いてるよ。コウ君の
話してる姿に見惚れちゃってただけだから」と
にこやかに答えると、相手は頬を赤らめた。
「やだ、もう……! サトシったら男前なんだから……」
ちなみに『サトシ』とは私の名字。
『慧』と書いて『サトシ』と読むので、昔から
よく男の子に間違われていた。
今日はコウ君とデート……というよりも、仕事でミスが続いて
凹んでいる私を見かねたカレが誘ってくれたのが切欠だった。
メイクも上手く肌にのらないくらい、寝不足でボロボロで
パジャマ姿の私に、コウ君は『すっぴんも可愛いけど、
今日はお化粧した方が、アンタも外出しやすいわよね』と、
物凄くお見事な腕前のメイクを施してくれた。
しかもクローゼットから『今日のコーデはコレとコレとコレで、
ゆるふわ森ガール風でいきましょ!』と、外出着まで
見繕ってくれた。コウ君の女子力は53万くらいあるに違い無い。
それから「まずは不調の原因を聞かせて頂戴!」と
意気込むコウ君を連れてスタバに来たのだった。
ひとしきり愚痴や弱音を聞いてくれたコウ君は、最後に
憤慨しながら熱弁してくれた。
一瞬だけ『何だそのアホ上司はゴラァァ!』と男モードに
戻っていたけれど、直ぐに咳払いしてオネエに戻った。
「その上司ムカつく! アンタはドジだけど真面目が
取り得のコなんだから、そんなハゲの嫌味に負けずに、
自分のペースをキープして無理しないでやりなさいよ!」
ありがとう! 別に上司さんはハゲてないけど、
ハゲ上司に怒られてもめげずに頑張るね!
拳を握り締めると、コウ君は「そうよぉ~。アンタは元気なのが
一番輝いているンだからね。あ、でも憂い顔の
アンタも好きよ。哀しんでるアンタを見てて『好き』だなんて
失礼なハナシかもしれないけどね」とウィンクした。
「それで、もう他に心配事とか、吐き出したい事とかないの?
この際だから、全部ぶっちゃけちゃいなさいよ!
アタシは何時間でも付き合うからね!」
ありがとう、特にないよ。それよりも折角コウ君に
逢えたんだから、コウ君の話が聞きたいな と答えると、
相手は「も、もう! そんな嬉しいコト言ってくれても、
何も出ないんだからね! だ、大体、昨日の晩に
散々いちゃいちゃしたじゃない!」とツンデレになった。
コウ君かわいいよコウ君。
そんなコウ君と出逢ったのは数年前。
自他共に認める『愛が重い女』の私は、元カレから
『お前! 重いんだよ! 愛とか色々と!』とフラレて、
自暴自棄のまま通勤していた日の事だった。
確かに私はやりすぎだった。
食事に行った時は『私、働いてるから私が出すよ~』と
全部オゴり、大学生だったカレの為に掃除洗濯炊事まで
やった上に、毎日重箱弁当を作りし、
彼を起こすついでにお弁当を手渡していた。
『え。ちょ、おま、これ全部手作り……?』
『ウンちょっと早起きして頑張っちゃった』
『何時に起きたんだよ』
『朝の三時だよ』
『うげぇ!』
引いている彼の事を『照れてるんだ』と勘違いしていた
あの日の自分をグーで殴りたい。
それからも私のヘヴィーな愛は彼を悪い意味で
ノックアウトしていった。
その所為で、彼はどんどんダメ人間になっていった。
朝に起きれなくなるし、ゴハンを食べる時は自分で
お箸もお茶碗も持ってこなくなった所為で、大学の飲み会で
サークルの皆にボッコボコに怒られたらしい。
その憤りをぶつけられるようなカタチで私は彼からフラレた。
『ストーカーとかすんなよ! お前ストーカーになりそうで
ぶっちゃけ怖いし! キモいんだよ!』という捨てゼリフも貰った。
ああ、もうダメだ……ユキノブ君(※元カレ仮名)にフラレて、
人生を生きてく意味が見出せない……と、パンプスを履いた足を
フラつかせながらの通勤中、満員電車に揺られていると、
お尻を触る感触!
ひ、人が落ち込んでる時に、チカンしてくるなんて! と
思いつつも、怖くて声が出なかった。
『この人、チカンです!』と言って、もしも人違いだったら
冤罪で人生を台無しにしてしまうかもしれない……。
先日、ユキノブ君と観たドキュメンタリーで『冤罪を背負って
生き続ける男性』を思い出し、私は何も出来なかった。
そしてユキノブ君の事を思い出し、ブルーな気分のまま
無気力になっていた時だった。
チカンの人の腕を掴む手。
え? と思っていると、少し離れた位置に立っていたピンク頭の
男の人が物凄い目で睨みながら、チカンの腕を
掴んでいた。
た、助けてくれたの……? と思っていると、何故かその人は
チカンの腕を自分の胸板に持っていった。
え。な、何してるんだろう、この人……と思っていると、
ピンクさん(※仮名)は自分が着ていたカラーシャツの隙間に
チカンの腕を突っ込み、「ぬわぁあああああー!」と
野太い悲鳴を上げだした。
車内の視線が集まる中、ピンクさんは「このオッサンが!
この汚ッサンがアタ……じゃない! 俺の胸とかケツとか
色々触ってきたー! チカンだぁあああああ!」と騒ぎ出した。
チカンの人は「ちょ、ち、ちがっ! ワシは男なぞ
触っては……」とキョドっていたけれど、ピンクの人が
それを遮り、「駅長呼んでえええええええ!」と
四方八方に叫んでいた。チカンよりも迷惑だったかもしれない。
それから次の駅でチカンさんは連行されていった。
ピンクさんに『ありがとうございました』とお礼を述べると、相手は
笑顔で手を振って去って行った。
そこで一旦、ピンクさんとは別れた。
次にピンクさんと再会したのは、彼がバイトしていた
ドラッグストアの受付だった。
メンタル的な影響なのか、生理痛が重くて辛くて、
鎮痛剤を買いに行った所、沢山種類がありすぎて
どれを買ったらいいかわからなかったのだ。
スマホで検索しつつ売り場を歩き回っていると、
「何かお探し~?」と声をかけられた。
低音ボイスなのにオネエ言葉なので驚いて振り返ると、
チカンから助けてくれたピンクさんが立っていた。
名札には『松子 浩志』と書かれていた。
ピンクさんはチカンから助けた相手が私である事を
覚えていないように見えた。
『何かお探しのクスリがあるのなら、アタシが見つけてくるわよぉ?』
お、オカマさんなの……? と呆然としていると、相手は
手をひらひら振った。
『やだ、アタシ女装癖は無いのよぉ。オカマっていうより、
オネエなのかもしれないわねえ~。ジャンルの違いを
よくわかっていないけれどぉ』
と、とにかくオネエさん(仮名)、おすすめの鎮痛剤って
ありますか? と訊くと、相手は『ならコレよ! ロキソニン最強!』
と、白地に青い文字のパッケージを見せてきた。
『頭痛生理痛にバッチシ効くわよ~! ただし、あんまりにも
効きすぎるから、調剤室から薬剤師を呼ばないと
販売出来ないんだけどね~』
あれ? お店で売ってくれないんですか? と質問すると、
オネエさんは「調剤室の無い薬局では販売出来ないんだけど、
ウチは調剤室あるから大丈夫よ~! 1コでいい?
第一級医薬品は2コまで販売可能だけど?」と指を1本立てた。
じゃあ1コだけください と告げると、オネエさんは
「了解☆ ちょっとぉー! 薬剤師の
ユージ! ロキソニン1コ持ってきて頂戴ー!」と
薬局の端から端まで届くような大声で呼びつけていた。
それからオネエさんはカウンターで『色々と痛い事も
辛い事もあるでしょうけど、負けちゃダメよ! でも
痛いのも苦しいのも、ムダな事なんてないわ。
きっとアナタの役に立ってくれるからね』と言ってくれた。
失恋して、何もかもからも見放されたような気が
していたけれど、その人から2回も助けられ、私は事ある毎に
その薬局に通うようになっていた。
恋愛に依存していたから、新たな依存先を見つけただけなの
かもしれない と、箱買いしたカロリーメイトを抱えつつ
溜息をついていた。
あ、カロリーメイトを買った時は『カロリーメイトって
美味しいわよね~! アタシもフルーツ味が大好きなのよ~』と
にこやかな表情で言われたのが何だか嬉しかった。
そんな日々を過ごしていた時だった。
「はぁあ~……」
溜息をついているオネエさんを見てしまった。
店内をモップがけしてるだけなのに、商品に躓いて
転びかけたりと、明らかにおかしかった。
『どうしたんですか?』って訊きたいけど、あまり踏み込むのって
気持ち悪いかな……ストーカーみたいかも……。
オネエさんの表情は暗かった。今にも近所の『ちまき川』に
ザブザブと踏み込んでしまいそうなくらいに……。
放っておけないけど……で、でも……でもでも……。
でも……気持ち悪いのは元からじゃない! うん、私知ってる!
私がキモいのは自覚してるから! と自分を励まし、
私はオネエさんに平静を装って近づいた。
『どうかしたんですか?』
『あら、やだ。いらっしゃい』
早速会話が噛み合わなかった。
めげずに、さり気なく『元気ないですね』と問いかけると、
オネエさんは『そうかしら~……最近、ちょっと帰り道が
怖くってね……』と顔を青ざめさせながら口にした。
『夜道が怖いんですか?』
『ええ……。まあ……色々とあるのよ……』
例えば……? と訊きかけたけど、相手は
『それより、今日の広告掲載商品なんだけどね~!
カロリーメイトがお買い得なのよお~!』と話題を磨りかえられた。
踏み込みすぎたかな……と思いつつも、オネエさんの
落ち込みが心配でならなかった。
いつの間にか、オネエさんに恋していたのかもしれない。
そうしていた矢先、残業でクタクタになりながら
一人暮らしの家に戻ろうとしていた夜道での事。
『イィィィヤァアアアアァアアアアア!!!』
という男声の悲鳴を聞いた。
な、何事!? と思っていると、私の隣りをオネエさんが
『こないでー! カレーはイヤぁあああああ!』と
意味不明な事を言いながら走り去っていく。
何があったのかと振り返ると、後方からは『好き! 好きなのよ!
松子君! 私と付き合って!』と、寸胴を持って
追いかける人妻の姿があった。
どうして人妻なのかと気づいたかというと、街灯の光で
その女性の左手の薬指がキラリしたからだった。
というか、何故に寸胴……?
その異常事態を見て、私は直ぐに察した。
新入社員に『察して動け!』と言いながら
『指示のない行動はするな!』という、いわゆる『空気読め』と
命じる会社の空気に染まっていたお陰なのか、現状を
理解出来たのだ。苦行のようだった仕事も、役立つ事があった。
私は直ぐに二人を追いかけた。
少し走った先のコンビニの入り口前のゴミ箱の辺りで、
オネエさんが腰を抜かしている。
人妻がオネエさんに迫っていた。寸胴をつきつけている。
まるで寸胴が自衛隊の盾のように見えた。
『松子君! 貴方の為に手料理を作ってきたのよ! 食べて!
そして私の事も食べて!』
『イヤよ! ていうか、カレー持って迫ってこないでよ!
意味わかんないのよ! 何でカレーなのよ!』
『そういうと思って今日はシチューにしてみたの☆』
『何なのよそのマイナーチェンジ! そもそもアンタは
人妻じゃない! アタシ、ビッチは大キライなのよ!』
そうしていると、人妻が『四の五の言うお口は、Kissで
塞いであげちゃおうかしら~?』と、摺り足で近づいていた。
Kissで塞ぐって!!
あ、あわわわ! このままじゃ、オネエさんが本当に
オネエにされてしまう!
何がどうしてこうなったのか理解に苦しむ展開だったけど、
兎にも角にもオネエさんのピンチだと、私は迷わず飛び出した。
オネエさんには何度も助けられていたし……!
そしてオネエさんと人妻の間に割って入る。
途端に人妻が『何よ!? この女!』と噛み付いてきた。
こ、怖い……。修羅場馴れしていない私は怖くて
足がガクブルしていたけれど(寸胴で殴られたらどうしようとか)
顔だけはイケメンモードでいられるように、全神経を
上半身に集中させ、人妻を睨んだ(下半身はガクガク)
『やめてください! 嫌がってるじゃないですか!』
本当の事を告げると、人妻は『そんなワケないわよ!
松子君のフェイスブックに「今日カレー食べた」って
書いてたから、カレー好きなんだって察した私に
照れてるだけなのよ!」と斜め上の理論を展開してきた。
そもそも寸胴の中身ってシチューじゃなかったの? ていうか、
ひ、人妻とフェイスブックを……? とオネエさんを見ると、
『アタシは何もしてないわよ! その人妻が、アタシの
FBをサーチしたのよぉ!』と、涙目で首を振っていた。
チカンから助けてくれた時は男らしかったのに、今は
小鹿のような乙女モードなオネエさんに胸キュンした。
その萌え萌えキュンモードのまま、人妻に向き直る。
そして「帰ってください!」と告げた。
自分でも驚く程のテンションだったのは、オネエさんの泣き顔が
あまりにも色っぽくてイケメンさんだったからだと思う。
人妻に一歩踏み出し、叫んだ。
「この人は、私の(好きな)男ですから! 帰ってください!」
あ、一言抜けた。
思わず赤面するも、人妻は青ざめて『ウソよ!!!』と
見抜いてきた。
確かにウソだけど、場の空気的に言い直すわけにもいかなくて
『私の(好きな)男を執拗に追い掛け回さないでください!』
と慌てた所為で、また肝心な一言が抜けた。
……あまりにもドジすぎてオネエさんの方向を向けなかったけれど、
人妻が「松子君!?」と、絶望を浮かべたまま後ずさっていた。
振り返ると、頬を赤らめて目をハートにさせたオネエさんが居た。
「やだ……ワイルド……」
女の子に言うセリフとは思えない賞賛の言葉を貰ってしまった。
そしてオネエさんは立ち上がると、私の前に立ち、深呼吸した。
人妻に向けて怒鳴り出す。
「お前、ワケわかんねーんだよ! 俺にはカノジョが
いるんだから、とっとと帰れよ!」
男モードだった。そうしていると普通に格好良い。
で、でも『カノジョ』って……と戸惑っている間に、
展開が㌧㌧進んでゆく。
「う、ウソよ! せめて松子君はホモだと思いたかったのに!」
「俺は男も女も大好きなんだよ! でもお前だけは
好きじゃねえ!」
「そ、そんな……!」
「マジだよ! だから頼むから俺の前から消えてくれ!」
人妻は涙を煌かせて「松子君のバカァアアアア!」と
夜の帳の中に消えていった。
人妻がお帰りになった後、途端に気まずくなった。
二人でもじもじしていたから。
やがてオネエさんが口を開いた。
「ご、ごめんなさいね。みっともない所、見せちゃって……」
いえ……私もドサクサに紛れて、とんでもない事を……と
答えるも、オネエさんは「……い、いいのよ。アタシ、嬉しかったし」と
まさかの発言。
どうやらオネエさんは、通勤中によく同じ車両になる私の事を
見知っていたらしい。
オネエさんが照れながら説明した。
『いつも電車で見かけてて……。すっごく、ピンクとか花柄が
似合いそうな可愛いコだなって思ってたのよ』
ごめんなさい、私、モノトーンが好きなんです とは
言えない雰囲気だった。
(ヒラヒラの可愛い服とかは恥ずかしくて苦手)
『でもストーカーとか思われたくないから、さり気なくチカンから
守ったりしてたんだけど……』
あの行動はオネエさん的にさり気なかったんだ……。
そう思っていると、オネエさんが頬を染め、うっとりと呟いた。
『でも今日、アナタの男前な所を見て、こう……電気が
ビビビッてきたのよね。ほんわかした片思いから、
マジモードになっちゃったっていうか』
オネエさんが耳まで赤くして
『も、もしもだけど……アタシで良かったら……その、つっ、
付き合ってくれないかしら?』と、逆告白されてしまった。
勿論『喜んで!』と応えたのは言うまでもない。
そんな思い出を語りながら、オネエさんことコウ君は
キャラメルカプチーノのストローを噛みながら微笑んだ。
「も~、あの時のアンタは最高にカッコ良かったわぁあ~。
アタシの中でベストオブアンタよお~」
それは良かった~ とニコニコしていると、相手も
満面の笑みを浮かべた。
「アンタって、本当~~~に可愛いわよねえ!
いっつもニコニコしてアタシの話を聞いてくれるし、
すっごく尽くしてくれるし。この間の重箱弁当も、
超~~美味しくて、アタシ惚れ直しちゃった」
そう、ベストオブだめんずメーカーな私の重すぎる愛を
コウ君は見事なまでに受け止めて打ち返してくれたのだ。
うっかり重箱弁当を作ってしまった私に、コウ君は
『やだ、ステキ~! あぁん! どれも美味しそうで
たまんないわあ~!』と感激しつつ、『一緒に食べましょ
はい、あーんして?』とおかずを差し出してきた。
それに、ついつい『ここは私のオゴリ!』と言い出す私を
たしなめつつも、
『わかったわー。それじゃあ、甘えちゃう☆』と甘えてくれた。
でもコウ君は次のデートでは必ず私がご馳走した
お店よりも1グレードくらいアップしたお店に連れていって
『今日はアタシのオゴリ☆ いっぱい食べて幸せに
なったら、アタシの事も食・べ・て』と返してきた。
お茶代や車代は出させてくれなかった。学生のコウ君に
出費を強いるのは……と迷っていたけれど、相手は
『これでもアタシ、男なんだから甘えてくれなきゃ
スネちゃうわよ!?』とぷんぷん怒られた。
どれだけ私が甘やかしても、コウ君は堕落しないどころか
しっかりと己を保っていた。
それどころか『アタシ、いっつも愛が重いし非常識って
言われるんだけど、そんなアタシを受け止めてくれたのは、
アンタだけよお~』と、デジャヴを感じるセリフを口にしていた。
愛が重い事例といえば……。
コウ君は深夜に襲撃してくる事が多々あった。
夜中の2時とかに『来ちゃった』とインターホンを鳴らしたりする。
それでも私は『コウ君、きてくれたんだー。嬉しい!』と
飛び出していって抱きつくので、カレ的に衝撃的なまでに
嬉しかったらしい。
『ええ! 来ちゃった! 来ちゃったわよおおおお!』
『コウ君! コウ君!』
『あぁん! アンタは今夜も可愛いわぁあああん!』
傍から見たら、どう考えてもバカなバカップルだと思う。
で、
二人でいちゃいちゃいしていたら眠れなくなり、お酒を飲んで
いた時にコウ君が泣きながら『ひっく、ぐすっ……アタシ、今まで
生きてて、こんなに来訪を喜ばれた事ってないわぁああ』と
言い出したのだ。
コウ君なら何時でも大歓迎だよ と微笑むと、『好きー!
抱いて! めちゃくちゃにしてー!』と押し倒されて、ちゅっちゅ
ちゅっちゅされた。
そんなコウ君は、学生時代のお友達の家にも深夜に
襲撃したらしい。……それは世間一般的には非常識な事だよ と
教えた方が良かったかな……。
その件についてコウ君が泣きながら来訪してきた。
『今までゴメンなさぁあああああいい!』と号泣しながら
鼻セレブを大量に消費していた。うんうん、いいんだよ。好きなだけ
泣いて、すっきりしようね と見守っておく。しばらく泣き伏せて
いたコウ君が落ち着いた頃を見計らい、ホットミルクを出した。
そうしてから、コウ君の頭をナデナデした。
謝るのは私の方だよ。私はコウ君が来てくれて
嬉しかったけど、他の人は寝てたりするものね。それを
コウ君に言わなかったから、結果的にコウ君を
傷つけてしまったんだもの。ごめんね と慰めると、またカレは
大泣きした。
「あぁん! もう! ドコまでアタシのハートを盗む気よぉぉお!
このハート泥棒さんがぁあああ!」
と押し倒された。
そんな思い出をスターバックスで楽しそうに語るコウ君に
周辺の人が肩をプルプルさせて聞いていた。
ちょっと恥ずかしいけど、コウ君が幸せなら、
私はそれで大満足だよ