現実にはない木々が生えている林の中、プラチナブロンドの長髪を一つに結わえてる長身の少女が駆けていた。
長身の少女の傍には髪飾りをいっぱいつけたブロンズの少女がいる。
二人は辺りをキョロキョロとしており、誰かを探している様子。
「ティニア、あっち」
「エレクラ、勝手に離れないで――」
そういって金髪の少女エレクラが道から外れ、林の中へ入ってゆく。
ティニアはエレクラの行動に注意すると同時に、二人を襲う魔物が現れた。
魔物の攻撃をエレクラの描いた盾が具現化して防ぐ。
防いだ直後、盾の隙間から水のような鞭が敵を弾いて倒した。
「危ないでしょ」
「ごめん」
魔物との戦闘後、勝手な行動をとってしまったことにエレクラは反省する。
「ファイエンと合流しなきゃ」
その後、ティニアたちは魔物と戦闘しつつ、はぐれた仲間のファイエンを探す。
「いた!」
「ファイエン!」
ようやく仲間のファイエンを見つけた。
「え――」
ティニアたちが目にしたのは、淡いミルクティのような髪色の少年ファイエンが人に刃を向けている姿だった。
そのシーンでティニアたちの動きが止まり、真っ暗になる。
真っ暗になった場所へ突如万年筆が現れ、金色のインクで『To be continue』と文字が描かれた。
☆
「終わった……」
病室の一室、一人の少年が呟いた。
少年の手にはスマホがあり、液晶には真っ暗な背景に金色のインクで『To be continue』と文字が映っている。
「今回も【二百年後の勇者】のメインストーリー、面白かったなあ」
少年は先ほどまでプレイしていた【二百年後の勇者】の感想を述べる。
【二百年後の勇者】は主人公ファイエンが各国の危機を救い、仲間たちと共に魔王に挑むというアプリゲームで三か月ごとにメインストーリーが配信される。
少年は【二百年後の勇者】に夢中であり、先日配信された第二章のメインストーリーを終えたところだった。
「続きが楽しみだけど……」
少年は点滴の針が刺さった自身の腕を見て落胆する。
「次のアップデートまで、生きられるかな」
少年は重い病を抱えていた。
余命を告げられていないが、検査が多くなったり、家族の見舞いが三日に一度から毎日に変わったりしていることから、少年は長く生きられないことを察していた。
第三章の配信は約三か月後。
少年は三か月後の自分が想像できなかった。
「げほっ」
少年は激しく咳き込む。
口元を抑える手には、血が付着していた。
(ナースコールを――)
看護師を呼ぶため、主人公は傍に置いてあるボタンに手を伸ばす。
「――君!!」
ナースコールを押せなかったものの、激しく咳き込んでいたことで、近くにいた看護師に介抱される。
咳と痛みで薄れる意識の中、少年は死期を悟る。
(ああ……、もっと生きたかったなあ。病気を直して外で遊びたかった。家族と旅行に行きたかった)
少年は自分の人生を悔いていた。
病気を直して、外でサッカーやスケボーをしたり、家族と県外に旅行に行きたかった。
そして――。
(【二百年後の勇者】を最後までプレイしたかったなあ)
大好きなゲームを完結までプレイしたかったと悔やみつつ、少年は意識を失う。
ここで、少年の人生は幕を閉じた。
☆
(はっ!)
少年が次に目覚めたのは、崖の上だった。
身体は地面に倒れている。
(どうして僕が外に――)
人生の大半を病院で過ごしていた少年は、自分が外にいることに驚く。
「くっ」
少年の目の前で誰かが剣を持って、異形の怪物と戦っている。
(あれ……? 僕、この光景に見覚えがあるような……)
アニメや映画のような光景に、少年は見覚えがあった。
怪物と戦う、長身で細身ながらも筋肉がついている男性の後姿。
サラサラとしたミルクティのような髪色をなびかせ、火を纏った剣で戦う人物。
「ファイエン!?」
少年は【二百年後の勇者】の主人公、ファイエンの名を口にする。
「――気が付いたんだね。武器はある?」
怪物の攻撃を弾き、余裕がうまれたところで男性が少年の方へ顔を向ける。
深緑の瞳を持った王子様風な顔つき。
魔物と戦っている男はファイエン。
少年がプレイしていたゲームの主人公その人だった。
☆
目の前にファイエンがいる。
液晶越しではなく、少年と同じ空間にいる。
(えっ!? ど、どうしてファイエンがーー)
少年は動揺していた。
「えっ、あっ、な、ないです!」
少年はファイエンに武器がないことを述べる。
(あれ?)
声を発したに違和感があった。
自分の声ではない、聞き取りやすい低音が聞こえた。まるで声優のようだ。
「あいつにふっ飛ばされたとき、崖に落としちゃったのか」
(ふっ飛ばされた? 僕はファイエンと一緒に戦っていたの?)
「僕の力だけで乗り切るしかないね……」
ファイエンは少年に背を向け、戦闘に戻る。
(この身体は……、僕じゃない)
ファイエンが戦闘に戻ったことで、ここは自身がいた世界ではないこと、病弱だった自分の身体ではないと理解する。
(これが転生だとしたら、僕は誰に――)
キン、キンと剣と魔物の硬い皮膚がぶつかる音を聞きつつ、少年は自身に起こった状況について考えていた。
「くっ」
考え事をしていると、魔物の強打がファイエンに直撃し、彼が倒れた。
ファイエンの剣が少年の前に転がる。
少年は刀身に映る自身の姿を見て、転生した人物を知る。
(フリードだ)
フリードは【二百年後の勇者】の序章で登場する人物。冒険者でファイエンの友人となるキャラクター。
少年は転生したフリードの運命を知っていた。
フリードは魔物の攻撃で崖から落ち、以降、物語に登場しない。
ファイエンが火の勇者として魔物と立ち向かう覚悟を持たせるためのモブキャラ。
(転生したのに、ここで人生が終わるのはあんまりだ!)
少年は自身を奮い立たせ、フリードの身体を操る。
魔物に攻撃されたダメージなのか、全身が痛い。
(……痛くない。病気の苦しさと比べたら!)
病院で過ごしていた日々を思い出し、少年は痛みに耐え、その場から立ち上がった。
そして、ファイエンの剣を拾い、刃を魔物に向けた。
「我の外皮は固く、火を防ぐ。小僧でも攻撃が通らぬのに、貴様の攻撃で我が倒されるわけない」
魔物は立ち上がり、剣を構えたフリードを見て嘲笑う。
フリードはただの冒険者。
ファイエンのように、剣に火をまとわせて戦えない。
(……怖い)
魔物と対峙し、身体の震えが止まらない。
(――でも)
少年は深く呼吸をし、剣をぎゅっと強く握り、震えを止める。
(魔物をここで倒さなければ、僕が転生した意味がない)
少年は魔物に向けて駆ける。
身体の動きはフリードが覚えてる。
嘲笑う魔物に少年は剣を振るう。
(僕の人生を不憫に思った神様がくれた第二の人生、無駄にしてたまるか!!)
生き延びて、第二の人生を歩みたい。
そう少年が強く願うと――。
剣に火の力が宿る。
カンッ。
剣が魔物の硬い外皮とぶつかる。
少年の一撃は魔物の外皮に食い込む。
「なにっ!?」
魔物は驚愕する。
「うおおおおお」
少年は雄たけびをあげ、全力で剣を振り下ろす。
少年が生み出した火は、だんだんと勢いが強くなってゆき、魔物の片腕を切り落とした。
切り落とされた腕がドスンと音を立てて、地面に落ちる。
「なんだ……、これは」
少年を嘲笑っていた魔物の態度が一変。
「フリード! いけえええ」
ファイエンの応援を背に、少年は高く跳躍し、魔物の首を切り落した。
少年が着地すると同時に、魔物は灰となって消える。
「……やった」
少年は自分の力で魔物を倒したことに喜ぶ。
火を纏っていた剣は普通の剣に戻る。
(これでフリードとしての人生を――)
崖に落ちる運命は回避された。
「フリード」
「ファイエン、これ、ありがとう」
フリードは剣をファイエンに返す。
魔物を倒したのに、ファイエンは浮かない表情を浮かべている。
「魔物を倒したときの技、あれは火の勇者しか使えないものだ」
ファイエンは先ほどの少年の攻撃について言及する。
「どうして君が勇者の技を使えるんだい?」
運命を回避したことにより、少年、もといフリードの人生は大きく変化することとなる。