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DIMENSIONS ~カードゲームの看板娘たちと世界を繋ぐ旅~
DIMENSIONS ~カードゲームの看板娘たちと世界を繋ぐ旅~
白金 将
ゲームゲーム世界
2025年07月29日
公開日
1万字
連載中
「DIMENSIONS(ディメンションズ)」は、奥深い戦略性と美麗なカードイラスト、緻密な背景設定やキャラストーリーが魅力の大人気デジタルカードゲームだ。 久遠遊汰(くおん ゆうた)は、そんな「DIMENSIONS」に生活のほぼ全てをつぎ込んでいたダメ大学生である。ある日その並々ならぬ努力が実を結び、ゲームが用意していた最難関実績「究極の覇者」の第一取得者になることができた。 大喜びしていた遊汰。だが直後にディスプレイが紫色に光り、謎の引力で画面の中に吸い込まれてしまう! 転移した先は、なんと「DIMENSIONS」……のキャラたちが生きる背景世界。 そして目の前にいたのは、三角帽子を被った金髪の魔女。色々とお世話になりまくりだったアイドルカード兼切り札の『放浪の魔女 ヴィーナ』本人だった! しかし彼女は開口一番、いかにも不機嫌な様子で―― 「『最強の存在』を召喚したはずなのに、なんでこんなヤワ男が出てくるのよ! まったく腹立たしいわ! 折角だからあんた、あたしの下僕になりなさい!」 「……ええーっ!」 ゲームの看板娘である魔女ヴィーナは、とんでもない暴君だった! ……いや、彼女がそういう子だって「知識」はあったけれど! 遊汰もとい「ユウタ」に襲いかかる数々の理不尽。 現実世界に帰還する唯一の手がかりは、魔女ヴィーナが頭をぶつけた際に閃いたという設定の「次元転移魔法」だ。でも困ったことにこの世界で出会った彼女はまだその魔法を閃けていない! 「ヴィーナさん、どうか次元転移魔法の研究を進めてください!」 「嫌よ、そんな面倒くさいの!」 「本当にお願いします! なんでもしますから!」 かくしてユウタは、この世界について莫大な知識を持っていながら、ヴィーナにゴマをすり続ける哀れな下僕となった。 ところで彼女は「放浪の魔女」。自由気ままな行動や命令を機に、ユウタは他のキャラクターたちとも邂逅を果たし、あんなキャラやこんなキャラたちとも親睦を深めていく。そう、かつてヴィーナの歩んだ旅路が「DIMENSIONS」のカードストーリーを一本の軸にまとめたように。 ――これから紡がれるのは、本来のゲームでは語られることのない物語。

第1章「放浪の魔女と深緑の弓引き」

第1話「称号:魔女の下僕 ←New!!」

「はあああぁぁぁ~~~~!? 『最強の存在』を召喚したはずなのに、なんでこんなヤワ男が出てくるのよ!」


 別世界に飛ばされた男子大学生、久遠遊汰が最初に聞いたのは「推しカード」だった美少女からのド直球な罵倒と理不尽な命令だった。


「まったく腹立たしいわ! 折角だからあんた、あたしの下僕になりなさい!」

「……ええーっ!?」


 よく晴れた青空の下。

 円の形に組まれた石壇へ横たわる遊汰、もといユウタは、目の前で怒り心頭の魔女を見上げていた。


 腰まで伸びた癖のある金髪に、琥珀色のつり上がった瞳。白のシャツを大きく膨らませるグラマラスな体つき。黒の外套は適当に肩肘に引っかけられ、下半身を覆うグリーンのスカートからハミ出す太腿は白雪の如く輝いている。


 まるで絵に描いたような愛嬌を持つ魔女は、それこそ、本当に「絵に描いた」存在であるはずだった。

 なぜなら彼女は、遊汰のプレイしていたカードゲーム「DIMENSIONS」に登場したお気に入りマイ・フェイバリットカード、『放浪の魔女 ヴィーナ』と瓜二つだったのだから!


「え、えっと」

「何そんなにキョドってるの。あとあんまりジロジロ見ないで――」

「……ヴィーナさん、ですか?」

「!」


 呼びかけられた魔女はびっくりした様子で、わかりやすく目を大きく開く。


「……なんであたしの名前を知ってるの?」

「や、やっぱりそうだ! 『放浪の魔女 ヴィーナ』本人! えっ、え、じゃあ俺はつまり、ゲームの世界に――」

「なに変なこと言ってるのよ。それともあたしが知らないだけで、本当にこいつが『最強の存在』だったりするワケ!? あんた何者!? なんでここに――」

「遊汰です。久遠遊汰……! なんでって訊かれても……」

「ユウタ、ね」


 魔女ヴィーナは目を細めながらユウタの困惑顔をじいっと観察してから、木の杖――みずみずしく張った腿と同じ丈のそれを構えると青年にひと振り。


「――『アイヴィ・トラップ』!」


 たちまち、どこからともなく現れた蔦がユウタの身体に絡みついた。

 突然のことに彼は為す術無く、哀れ、一瞬でスマキにされてしまう!


「えっ、『アイヴィ・トラップ』!? 本当だ、ゲームにあったマジックカードがそのまま――って、ちがう! 離してください、ヴィーナさーん!」

「情けない声ね! その『ゲーム』とかなんとか、意味分かんないことも含めてあとでじぃ~っくり訊かせてもらうから。ま、見た感じ悪いことする度胸は無いって感じ?」

「あっ、ヴィーナさん、待って、釣り上げないで! アッ、浮いたぁぁっ!」


 いつの間にか箒を取り出していたヴィーナはそれに跨がると、ユウタの身体を縛る蔦の先端を柄に結び、両脚で地面を蹴って空へ飛び上がった!


 後から引っ張られた青年の身体は宙にぷらぷらと浮いて、箒に吊られた無様な姿で空を運ばれていく。望まぬ空中散歩に震えていたユウタは、せめてもの行幸として、箒に跨がるヴィーナの太腿とお尻を「見上げて」気を保ち続ける。


 尻が据わらない性格のヴィーナの腿は、しっかりと張ってむちむちしていた。それが箒の柄を両側からぎゅっと挟み、容赦なく締め付けているのが見える。

 ユウタは「下は見ない」と、自分自身へ何度も言い聞かせ続けた。

 高い所は怖い! だから下は見ない、下は見ない……うおお、ふっと……


「ぉぉ……」

「言っておくけど、ジロジロ見てるの分かってるから」

「ヒッ……!」

「アハハ! 図星だったの!? じゃ、家に着いたら誠意を示してもらおっか」

「ご、ごめんなさい!、どうか、お手柔らかにーっ!」


 箒に吊られた状態のまま、ユウタは男らしさのかけらもない懇願をしながら、魔女ヴィーナのいかにもな「暴君気質」をその身で実感させられていく。


 彼女の気性はユウタの頭に「ゲーム内知識」の形で備わっていたものの、実際にこんなことをされてしまっては、まるで手も足も出ないのだった……

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