「はあああぁぁぁ~~~~!? 『最強の存在』を召喚したはずなのに、なんでこんなヤワ男が出てくるのよ!」
別世界に飛ばされた男子大学生、久遠遊汰が最初に聞いたのは「推しカード」だった美少女からのド直球な罵倒と理不尽な命令だった。
「まったく腹立たしいわ! 折角だからあんた、あたしの下僕になりなさい!」
「……ええーっ!?」
よく晴れた青空の下。
円の形に組まれた石壇へ横たわる遊汰、もといユウタは、目の前で怒り心頭の魔女を見上げていた。
腰まで伸びた癖のある金髪に、琥珀色のつり上がった瞳。白のシャツを大きく膨らませるグラマラスな体つき。黒の外套は適当に肩肘に引っかけられ、下半身を覆うグリーンのスカートからハミ出す太腿は白雪の如く輝いている。
まるで絵に描いたような愛嬌を持つ魔女は、それこそ、本当に「絵に描いた」存在であるはずだった。
なぜなら彼女は、遊汰のプレイしていたカードゲーム「DIMENSIONS」に登場した
「え、えっと」
「何そんなにキョドってるの。あとあんまりジロジロ見ないで――」
「……ヴィーナさん、ですか?」
「!」
呼びかけられた魔女はびっくりした様子で、わかりやすく目を大きく開く。
「……なんであたしの名前を知ってるの?」
「や、やっぱりそうだ! 『放浪の魔女 ヴィーナ』本人! えっ、え、じゃあ俺はつまり、ゲームの世界に――」
「なに変なこと言ってるのよ。それともあたしが知らないだけで、本当にこいつが『最強の存在』だったりするワケ!? あんた何者!? なんでここに――」
「遊汰です。久遠遊汰……! なんでって訊かれても……」
「ユウタ、ね」
魔女ヴィーナは目を細めながらユウタの困惑顔をじいっと観察してから、木の杖――みずみずしく張った腿と同じ丈のそれを構えると青年にひと振り。
「――『アイヴィ・トラップ』!」
たちまち、どこからともなく現れた蔦がユウタの身体に絡みついた。
突然のことに彼は為す術無く、哀れ、一瞬でスマキにされてしまう!
「えっ、『アイヴィ・トラップ』!? 本当だ、ゲームにあったマジックカードがそのまま――って、ちがう! 離してください、ヴィーナさーん!」
「情けない声ね! その『ゲーム』とかなんとか、意味分かんないことも含めてあとでじぃ~っくり訊かせてもらうから。ま、見た感じ悪いことする度胸は無いって感じ?」
「あっ、ヴィーナさん、待って、釣り上げないで! アッ、浮いたぁぁっ!」
いつの間にか箒を取り出していたヴィーナはそれに跨がると、ユウタの身体を縛る蔦の先端を柄に結び、両脚で地面を蹴って空へ飛び上がった!
後から引っ張られた青年の身体は宙にぷらぷらと浮いて、箒に吊られた無様な姿で空を運ばれていく。望まぬ空中散歩に震えていたユウタは、せめてもの行幸として、箒に跨がるヴィーナの太腿とお尻を「見上げて」気を保ち続ける。
尻が据わらない性格のヴィーナの腿は、しっかりと張ってむちむちしていた。それが箒の柄を両側からぎゅっと挟み、容赦なく締め付けているのが見える。
ユウタは「下は見ない」と、自分自身へ何度も言い聞かせ続けた。
高い所は怖い! だから下は見ない、下は見ない……うおお、ふっと……
「ぉぉ……」
「言っておくけど、ジロジロ見てるの分かってるから」
「ヒッ……!」
「アハハ! 図星だったの!? じゃ、家に着いたら誠意を示してもらおっか」
「ご、ごめんなさい!、どうか、お手柔らかにーっ!」
箒に吊られた状態のまま、ユウタは男らしさのかけらもない懇願をしながら、魔女ヴィーナのいかにもな「暴君気質」をその身で実感させられていく。
彼女の気性はユウタの頭に「ゲーム内知識」の形で備わっていたものの、実際にこんなことをされてしまっては、まるで手も足も出ないのだった……