「お前、あの祠を壊したのか! ――え、勝手に壊れた?」
「言い逃れようとしてもそうはいかんぞ!
――それとも本当に、目の前で勝手に……? だとすると――」
「あの祠に祀られていたのは、▢▢▢▢様。――何? 名を聞き取れない?
それならそのまま聞き流せ。
「もう一度聞く。祠は、本当に、目の前で
――よし、わかった。お前は村長の家に行け。わしは先生の所へ行く。
まだ間に合うかもしれん」
「何? 一緒に行く? 来るな」
「お前は村長の家に行って、村長の指示通りにするんだ。いいな」
「じいちゃんを、信じろ。――行け!」
◆
「どうしたんだい、慌てて。――祠が壊れた? 目の前で、勝手に――そうか。
わかった。すぐに奥の間に入るんだ」
「わしが開けるまで、戸を開けてはならんぞ」
「誰が何と言っても、絶対に、開けてはならん。――わかったな?」
◆
「困りましたねえ。あと二十年は、先じゃなかったんですっけ?」
「ああ。そうだよ先生。だが仕方ない。
うちの孫が、
「まったく、準備も不十分なまま、▢▢▢▢様と対峙する羽目になるとはね。
僕も運がいいのか悪いのか――。ま、全力を尽くしましょう」
「村の命運は、あんたにかかってるんだ。頼むよ、先生」
「――わかってますよ。僕だって、命は惜しい。
この世に未練なんて、たっぷりありますからね」
◆
ひた……ひた……ひた……ぴちゃん。
「ねえ、開けとくれよ。喉渇いたろう。お茶持って来たよ」
「何心配してるんだい? あたしだよ。
いい子だから、開けとくれよ。手が塞がっててね」
びちゃ……
「ほら。お饅頭もあるよ」
「――頑固な子だねえ。大丈夫だって言ってるじゃないか」
ふう……………
ひた……ひた……ひた……………
◆
「わしだ。村長だ。開けてくれ。ちょっと手が塞がっててな」
「大丈夫だ。ほら、わしが来たら開けてもいいと――
何? 村長だったら自分で開けろ?」
ぴちゃん。
「手が塞がってるから開けろと言ってるんだ」
「ここはわしの家だぞ! わしの言うことが聞けんのなら、出て行け!」
「さあ、出て行け! ここを、
びちゃ……びちゃびちゃびちゃびちゃ………
◆
「――しぶといな。そんなに――が――――――が、ががが、がががあがががああがあががががががっがああああああああああががががああ」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
◆
◆
◆
「はい、お疲れさん。もう出て来て大丈夫だよ。うん?
ちゃんとわしが開けただろう?
大丈夫。ほら、じいちゃんも迎えに来てるよ」
「ああ、よかったなあ。これで、なんとか一年はもつ。よかった……」
「ん? わしの声で開けろと言われたって?
おばさんの声もした? そうか。
うん。開けなかったんだろう?
えらいよ。よく頑張った。怖かったろう」
「▢▢▢▢様は、祠にお戻りいただいた。もう、近付いちゃいかんよ」
◆
「――まあ、僕の力では一年が限界ですね。一年経ったら、掛け直さないと」
「それまでに、あの子は村の外に出した方がいいだろうか……」
「そうですねえ。できるだけ
「あの子の叔母が、東京にいるんだが――」
「預けられるなら、それが一番です。
また、何かの拍子に
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◆
「久し振りね、元気にしてた? うん。私んとこで一緒に暮らすの。
理由は、いろいろあるけど――」
「▢▢▢▢様のことは、もう少し経ったら、教えてあげるわ。
私も村を出てる身だから、もう、
「やっぱり――ちょっとはね。怖いわよ、そりゃ」
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ひた……ひた……………ひた………
「ここに、いたの? 探しちゃった」
「ねえ、ここを、
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