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山菜バトルと巨大幼女
山菜バトルと巨大幼女
碧美安紗奈
ゲームゲーム世界
2025年07月31日
公開日
4,594字
連載中
21世紀始め、突如世界に〝デイダラボッ娘《こ》〟という巨大な幼女たちが出現。文明社会を崩壊させると同時に、日本を異世界へと転移させた。 海には日本だけ、永遠に春と秋だけで山菜が芽吹き、謎のテロップと特殊効果が表示されるようになったその世界において、デイダラボッ娘たちは美味しい山菜を食べさせてくれた者にだけ限定的に文明を返還してくれることが判明する。 これを利用して台頭した山魔王《やまおう》率いる新政府〝山界《さんかい》〟は日本を圧制で支配。 今、それに抗うべく一人の元引きこもり高校生が現れようとしていた。彼こそは通称〝山嵐《やまあらし》〟、恐るべき山菜採取能力を秘めた少年である!

零品名 山嵐

 変わりやすい山の天候が本領を発揮した。にわかに天上はかき曇り、雷鳴が轟く。

 アイヌの民族衣装を纏ったひげもじゃの大男、弥十郎びじゅうろうが、そんな山間の道路すみに屈んでいた。


 雨は降らないも暴風は荒ぶっている。だのに彼の周囲だけは水面のごとく静寂しているのだ。

 視線はひたすら、目前のなだらかな下り斜面に広がる無数の同じ山菜に注がれている。


 先端が丸まり、そこから茎まで柔らかく小さな葉をびっしりと纏った植物。草蘇鉄くさそてつの若芽、コゴミ


 嵐の一角にありながら、それらはまるで湖面に浮かぶ水草のようにそよいでいるのだ。


 ふいに、そこにひとつの日溜まりが落ちる。天使のはしごジェイコブス・ラダーのように、暗雲を切り裂いて注いだ光柱。

 弥十郎はまなじりを決し、飛んだ。――光柱中心にある一本のコゴミ目掛けて。


「採取スキル、〝コシンプ・カムイ〟!!」

 それはアイヌの精霊コシンプの助力を得て、視界内に映る山菜から最も美味なる一品を見出だす芸当。


 バシュウ!


 もぎ取られ、握られた獲物は拳内で閃光を放つ。

 彼の巨体は前転し、やや転がって立て膝のまま背後を向く。

 斜面を見上げ、山頂と対峙したのだ。

 そこに入手したコゴミをかかげ、宣言する。


「さあ、準備は整うたぞ。お主の力量を拝見させてもらおう!」


 落雷。

 山の頂きに雷が落ちた。――否!


 落ちたのではない。山腹から昇天した光線だった。

 そいつは薙ぐように山林を駆ける。


「……ピㇼカ美しい」弥十郎はアイヌ語で驚愕した。「なんたる眼力、あれが奴のスキルか!! まさしく――」


 ――眼からビーム!


 やがて木々が動いた。

 あれは針毛の幻だ。背中に逆立てた無数の刺を纏う化け物。


 その錯覚はまもなく一人の人間となり、森から這い出て大男と対面した。


「採取スキル、〝見極目みきわめ〟」


 そいつの宣告に、弥十郎は震えていた。

 武者震いと喜びで。冷や汗をかきながらも。

 強大な相手が握ってきた、自分のもの以上のコゴミを前にして。

 彼は満足して、こう言ったのだ。


「こやつめ。紛れもなく〝山嵐やまあらし〟だ」

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