スノーケルピーという名前には、雪の妖精という意味があるらしい。勝手につけられた
「さっさと
しなる
毎日、毎晩。確かめるように周囲を見渡す。ここにはほかに動物はいないようだ。ネズミ一匹、見当たらないのも妙だが、この世界の動物たちはみんな、知っているのかもしれない。ここは地獄だということ。そして地獄には、悪魔のような人間がいること。
「まったく、いい馬だと思ったが姿ばかりだったな。明日、お前をよそへ預ける。そこは私よりも厳しい
「旦那さま、まだよくなられたばかりなのですから、あまり無理をされませんよう……。大きなお声は体にも
「あぁ、わかっている。私の
「ここにお持ちしました」
「すまないね。しかし、こいつのおかげでえらい目に
そうか。ぼく、よそへやられるんだ……。
二つの足音が遠ざかっていくのを確め、傷だらけの体をそっと
もっとも、この地獄から出られるのなら、どこへ連れていかれたって構わなかった。その先が再び地獄であっても、今、この場所から逃れられるのなら、それは一筋の希望の光ですらあった。ただ、苦しかった。ここは、ぼくに孤独と恐怖を強く感じさせる。
あぁ、誰か、誰か。ここには光がない。お願いだ。助けて――。
一刻も早くここを出て自由になりたい。しかし、どれだけそう願って
誰か……! ぼくの声を聞いてくれよ……!
心の中でそう何度も叫び、だんだんと暗くなっていく窓の外を見上げるが、やはり、助けはこない。ぼくは本当にひとりぼっちだった。静けさの中で目頭が熱くなり、涙が
こんなことなら、人間の世界になんか、遊びにくるんじゃなかった……。
しかし、そう思った瞬間。不意に強い風の吹く音がした。直後、甘い花の香りが風に乗って鼻をくすぐっていく。どこからか舞い降りてきたのは――花びらだ。ピンク色の小さな花びら。ここへ来てから、もういくつもの季節を過ごしてきたが、こんなことは珍しかった。まるで、風に
風が……、言ってくれてるんだろうか。大丈夫だって、ぼくにそう言って……。
そんなふうに思ったのは、ほのかな花びらの香りのせいかもしれなかった。不思議なことに徐々に意識が遠のいて、浅い呼吸が落ち着いていく。いつもなら、
あぁ、今夜は眠れそうだ……。
ぼくは目を閉じ、願いが叶う日を夢に見る。いつか、誰の指図も受けずに、自らの意志で生きること。好きなだけ、好きな場所を自由に駆ける日が来ることを信じて――。