文化祭が終わってから二週間が過ぎ、十一下旬。 季節は秋から冬になった。
いつものように生徒会の書類を終わらせた放課後、俺は久々に紅蓮を誘い、本屋へと来ていた。
「冬夜の好きなマンガ、新作が出てる」
「あぁ、見つけてくれてありがとな .... 紅蓮」
いつものようにたわいのない会話を紅蓮としていた。
だけど……
(俺は本当にこれでいいのか? )
未だに俺は紅蓮のことが好きだということを伝えていない。
結局文化祭でも、紅蓮と一緒に回れたのはいいが、それでも紅蓮の本音を聞き出すことは出来なかった。本音を聞き出すどころか、俺は紅蓮と文化祭を回れたということに浮かれていて、聞くことすらを忘れていた。
紅蓮、お前の好きな奴は一体誰なんだ? いい加減教えてくれよ……なんて聞けたら苦労はしない。
それに一度聞いて、教えることが出来ないと言われたのにしつこく聞くことも出来なかった。俺は紅蓮の全てが知りたいと思っている。
だが、それと同時に怖いのは紅蓮に嫌われること。なにがキッカケで紅蓮が俺のことを嫌いになるかわからない。
だから俺は嫌われることを恐れ、ほんの小さなことさえ、紅蓮の表情を伺いながら聞いている。俺は好きなマンガを手にとり、レジに向かおうと紅蓮に一言声をかけた。
「じゃあ買ってくるから出口で待っててくれるか?」
「ん、わかった」
返事をした紅蓮は本屋の出口に歩き出して行った。
俺は紅蓮を待たせないようにすぐさまレジへ向おうとした。だが、レジ付近に気になる本が参列してあるのを俺は見落とさなかった。
「これは……」
そこには店長オススメと書かれた、神崎紅の新作、「俺様副会長と不器用な僕」がタイトルのラノベ小説があった。
俺はその本を見たとき、あることを思い出していた。それは夏休み最終日、紅蓮が担当編集者、久遠先生と話していたとき、次の新作では自分と好きな人の話を本にすると言っていた。
その本がこれか。俺様ってところは違うが、副会長ってところは俺と紅蓮みたいだな……そう思った。俺はマンガと一緒に神崎紅の新作も購入した。
「冬夜。少し遅かったけど、人多かったの?」
「あ、あぁ」
俺は紙袋に入った神崎紅の新作本を見られないようにすぐさまスクール鞄へと本を入れた。
あからさまに動揺している俺を紅蓮は少し不思議そうに見ていたが、深くは追求されなかったので、そのまま何気ない会話をして
「冬夜、また明日」
「ああ、また明日な、紅蓮」
俺と紅蓮は別れの挨拶をして、互いの帰路へ着いた。
家に帰宅した俺は購入したマンガを軽く読んだあと、すぐに神崎紅の新作本を読むことにした。
ページをめくるごとに俺は違和感を覚えた。何故なら、そこに書いてあるのは俺と紅蓮が中学時代に起きたことそのものだったからだ。
教師から見捨てられた問題児の不良がいて、何もかも面倒だと将来を諦め、授業をサボっていた不良を主人公である風紀委員長が更生していく物語。
「……」
俺は食事することを忘れるほどにその本に没頭していた。最後まで読まなくとも、俺と紅蓮に似ていると思った。
久遠先生と話していた時も好きな人との次は作品として書くと言っていたことを思い出していた。
ただ、もし紅蓮が俺のことを一人の男だとして好きだというならば、わからないことが一つだけある。
それは、俺が初めて紅蓮の前で神崎紅の話をしたとき、紅蓮は「これ以上、神崎紅を好きにならないでほしい」と言った。その意図はなんなんだ?
俺のことが好きなら自分が神崎紅ということを隠す必要はない。紅蓮、やっぱりお前の本音がわからない。
神崎紅の新作は俺の学校でもまた話題になるんだろうな……などと、脳裏に浮かんだ。
それから一週間後、星ヶ丘高校は、またも神崎紅の話題で持ちきりだった。だが、今回は悪い意味だった。
生徒会室前に張り出された掲示板を見て、俺は愕然とした。そこにはこう書かれていた。
「星ヶ丘高校の生徒会長である如月紅蓮は同性愛者である。そして、人気沸騰中の作家、神崎紅本人である。彼の書く小説はただの自己満足だ」
「なんだよ、これ……」
それはまぎれもなく、俺の親友(紅蓮)のことだった。