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最終話

「私じゃ釣り合わないってわかってます。それでも私は藤堂さんがどうしようもないくらい好きなんです」


「千夏……」


「藤堂さ……。んっ!?」


「俺は千夏じゃなきゃ駄目なんだ。俺にとって千夏は世界で一番愛してる恋人だ。だからこれからも俺の隣で笑っていてほしい」


「はいっ! こちらこそ喜んで」


 まわりに人がいてもキスを抵抗なく出来る藤堂さんは本気で私のことが好きなんだ。世界で一番愛してるなんて言葉を言われたら今まで悩んでいたのが馬鹿みたい。


 あまりの嬉しさに涙が止まらない私にも藤堂さんはすかさずハンカチを差し出してくれた。


 私は藤堂さんと一生添い遂げたい。六年という長い時間が経ったけれど、遅すぎることはない。今思うと会えなかった時間も私にとって必要だったのかもしれない。


 それがなかったら、こうして藤堂さんと再会して恋人になれなかったかもしれないし。


「そろそろ着くみたいだし降りる準備をしようか。ねぇ千夏」


「なんですか?」


「このあと最上階のホテルを予約してるんだ。どうかな?」


「私が藤堂さんの誘いを断るわけないじゃないですか」


「それもそうだね。行こうか千夏」


「はい!」


 これは私が決めたこと。今更揺らぐことはない。けど、最上階のホテルってことはそういうことだよね!? 


 藤堂さんのペースに流されたけど、今日も刺激的なことをするとかなんとか家を出る前に言ってた気がする。私、最大のピンチです。


◇ ◇ ◇


「千夏、脱がせていい?」


「自分で脱ぐので藤堂さんはあっちを向いててください」


「どうして?」


「そ、それは……」


 ピンチというのは今日の下着の色だ。ブラと下着をバラバラにしてしまった。こんなことになるんだったらブラと下着がセットのやつを着てくれば良かった。


 まわりからしたら、そんなことかと思われるかもしれない。でも恋する乙女は気になってしまうのだ。好きな人に嫌われるのが一番嫌だから。


 藤堂さんがこんなことで萎えるとは思っていないけれど、私にとっては最大のピンチなんだ。


「下は白なのに上はピンクだし。嫌いになったりしませんか?」


「下着は所詮飾りに過ぎない。千夏がいてこそ輝くんだから。千夏が着てるものはなんだって似合うよ」


 励まされているんだろうか。藤堂さんの発言に若干の変態要素を感じてしまった。好きな人を変態だと思う私はおかしい、よね。でも下着が飾りなら私は常にハダカでいなきゃいけないって、そう聞こえるのは気のせいだろうか。


「それにさ、どうせ下着は脱がせるから関係ないと思うよ」


「ひぇ」


「千夏。変な声を出してどうしたの?」


「藤堂さんって顔に似合わず変態なんだな~って」


「千夏限定だよ。男っていう生き物はね? 好きな人の前では狼になるんだよ」


「きゃっ!?」


「捕まえた」


「うっ」


「拒絶するなら今だよ」


「拒絶なんてしません」


 ベッドに押し倒された私は両手を拘束された。藤堂さんにはもう一つの腕が残っている。


「それは狼に食べられたいってこと?」


「狼じゃなくて、と、藤堂さんに……」


「俺にどうしてほしいの? 黙ってたらわからないから口に出してみなよ」


「……」


 これは正真正銘のケモノだ。私が恥ずかしいとかそういう気持ちは一切無視している。藤堂さんはこの状況を心から楽しんでいるんだ。


 藤堂さんは私のプライドを壊そうとしている。そもそも藤堂さんに押し倒されたときにはもう私のプライドは壊れてしまっている。


「身体も心もめちゃくちゃにしてほしい、です」


「千夏の望むままに」


「んっ……」


 私も藤堂さんをケモノだって言えない。本物のケモノは私のほう。藤堂さんに触れられたい。藤堂さんにキスをしてほしい。藤堂さんと繋がりたい。欲望ばかりが私を支配していく。


「今日は俺も手加減できそうにない」


「藤堂さ……樹さん、キて」


「千夏。この状況で名前呼びは反則。俺の理性を壊したいの?」


「壊し、たい。私はとっくに壊れ、あっ……」


「壊れてるのはお互い様だね」


「そうですね」


 私たちは抱き合った。藤堂さんのハダカはイメージ通り、筋肉がついていてお腹も割れていて。一言で表すなら「エロい身体」だ。変態なのは私だったのかもしれない。


「千夏の、全部見せて」


「私も藤堂さんのが見たいです」


「千夏は淫乱だね」


「そんなことな……んんっ」


「いやらしいセリフを言われながら触られるの、興奮した?」


「す、少しは」


「千夏は素直じゃないね」


 そういって私への愛撫を続ける藤堂さん。私が反応してる時点で藤堂さんには全てお見通し。えっちな言葉を耳元で囁かれて反応したのも、胸が一番弱いところも。


 藤堂さんになら知ってもらいたい。だから、もっと見て。私から離れないで。


「千夏、好きだよ」


「私も藤堂さんのことを愛してます」


 それから私たちは愛し合った。六年寂しかった思いを埋めるように、お互いが果てるまで何度もやった。


 私はこの日を一生忘れない。こんなにも幸せ日になるなんて。私、藤堂さんのことを好きになって良かった。


 藤堂さん、私と出会ってくれてありがとう。私のことを愛してくれてありがとう。


◇  ◇  ◇


「千夏どうだった?」


「今日の藤堂さんは激しすぎました」


 思い出すだけで顔が熱い。気持ち良かったけれど、それ以上に藤堂さんがスゴくて。それでも私とは違って余裕そうだったところは流石としか言葉が出ない。


「甘い声を出してる千夏も良かったよ」


「うっ。藤堂さんもカッコよかったです。やっぱり鍛えてたりするんですか?」


「千夏は男らしい人が好きかな? って思って筋トレ頑張ったんだ。それでも筋肉がなかなかつかなくて最初の頃は苦労したよ」


 そうだったんだ。私のために藤堂さんが筋トレをしてくれた。筋肉をつけるために努力してる姿はちょっぴり可愛いかも。


「今は少しはお腹も割れてるし触ってみる?」


「わっ、すごくかたいですね」


「千夏が望むならまたお姫様抱っこでもしてあげようか?」


「お願いします」


 これだけの筋肉があるから私を簡単に持ち上げられたと思うと納得だ。


「そうだ。千夏に渡したいものがあったんだ」


「なんですか?」


「さっきホテルの人に届けてもらったばかりのプレゼント。受け取ってくれる?」


「わぁ……!」


 そういって差し出されたのはバラの花束。しかも、かなりの本数だ。


「全部で何本あると思う?」


「えっと、100本ですか?」


 とりあえず当てずっぽうで答えてみた。


「正解。千夏は花言葉に詳しかったりする?」


「う~ん。そもそも花を貰う機会がないので調べませんね」


「それなら今度調べてみてよ」


「は、はい」


 そう言われるとすごく気になってきた。こっそり調べたら駄目かな? 100本のバラにはどんな花言葉が隠されているんだろう。


「花言葉は一旦置いて、バラは気に入ってくれた?」


「はい、すっごく気に入りました! でも今日の私は貰ってばかりですね。私も藤堂さんに何かプレゼントしたいです」


「それなら千夏がほしいな」


「え?」


「俺の人生をあげるから、千夏の人生を俺にくれない?」


「そんなのでいいならあげます。いくらでも」


「俺にとっては最高のプレゼントだよ。ありがとう千夏」


「きゃっ!?」


 突然抱きしめられた。……良かった。藤堂さんが喜んでくれて。抱きしめられた拍子にバラが宙を舞う。


 バラと藤堂さんはとても絵になる。私がバラに触れるのを想定して棘がないのを選んでくれたのも優しさを感じる。


「千夏、これからもずっと一緒だよ」


「はい。私も藤堂さんと同じ気持ちです」


「明日からも千夏に魔法をかけてあげる。俺は君の旦那様だから、ね」


「旦那、さま」


「ん。千夏からキスしてくるなんて俺は愛されてるな」


「夜はまだ始まったばかり、ですよね?」


「そうだね。千夏が望むなら今からでも魔法をかけようか」


「はい」


 女性は好きな男性に抱かれると綺麗になる。これが私にとっての魔法。私にとって藤堂さんは魔法使いであり、旦那さま。


「お互いが満足するまでたくさんシよう」


「もちろんですっ」


 もう迷わない。私は藤堂さんとこの先を歩んでいく。大きな壁にぶつかっても2人なら乗り越えられる。私たちは夫婦なんだから。


 私がバラ100本の花言葉の意味を知るのはもう少し先のお話。


完。

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