星間飛行が可能となった現代。世界政府はいまだ実現せず、各国はエイリアンがもたらす【外暇】の獲得をめぐって熾烈な競争を繰り広げてていた。コスモスケールに広がる宇宙経済圏では地球上の国が発行する通貨は当然のことながら通用せず、金銀や宝石ももちろん無価値。ただ一つ、自由に使える時空を保証する【外暇】だけが交換価値を持ち、その保有が人々の生存と豊かな暮らしを担保する。
【外暇】獲得の手段は地球観光だ。もはや数世紀前に流行ったSDG’sなど歯牙にもかけられず、各国は地球の資源を湯水のごとく使って宇宙インバウンド客の誘致にいそしんでいた。日本の切り札はもちろん温泉だ。
この物語は、そんな時代の片隅で生きる、とある温泉旅館の人々の格闘の記録だ。
彼の名は
エイリアン、外星人が温泉旅館に求めるもの。それはホンモノの人間によるおもてなしだ。労働のほとんどすべてをAIロボットが代替してしまっている現代だが、外星人のおもてなしだけはロボット化するわけにはいかないのだ。【外暇】を獲得できなければ日本は滅ぶ。かくして凡百の科学者をはるかにしのぐ専門性を持ったおもてなしのプロフェッショナルが養成され、超エリートとして各地の温泉旅館に配属される。その一人が彼、或羽ケンタなのだが……。