目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
デビルプリンセスは死なない。
デビルプリンセスは死なない。
みずほたる。
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年08月12日
公開日
5,295字
連載中
星野美苗は、普通のOL。……のはずだった。 ある日突然、死後の世界に迷い込み、死んでいないのに「死亡リスト」に名前がないと閻魔に責められる。 死神の勘違いでボーナスをもらい、なぜか「デビルプリンセス」として蘇生されてしまった! 蘇った先は、1999年の日本。 だが、そのせいで世界線が狂い、魔王と魔物たちが現代社会に侵入し始める。 生きているのに魔王級の力を持つ美苗は、デビルプリンセスとして魔物と戦いながら、元の平凡な日常に戻る方法を探すことになる。 現代日本×異世界ファンタジー×コメディが融合した、新感覚の物語が今、始まる──。

第1話

――薄く黄色い空。


目の前には川と草木が広がり、川岸には“魂”のような存在がずらりと並んでいた。彼らは順番にイカダへ乗り込み、向こう岸へ渡っていく。


(これ……漫画やアニメでよく見るやつ。まさかの死後の世界!?)


周りを見渡しても、人間の姿は私だけ。


「ほら、早く並べ」


怒った魂に促され、しぶしぶ列に加わる。三途の川――その単語が脳裏をよぎった瞬間、背筋が凍った。


(あぁ……私、死んじゃったんだ。昨日の給料、散財しておけばよかった……)


後悔に浸っているうちに順番が回ってくる。


「えっと……あなた、死亡者リストにありませんけど?」


イカダの管理人が困惑顔。


(え? 死んでないのに来ちゃった!?)


「少々お待ちください。死神に確認します」


管理人はスマホを取り出し、苛立った声で電話をかけた。


「ねぇ、生きてる人来てるんだけど? ……はぁ? ちゃんと仕事してよ!」


電話を切り、わざとらしく咳払いする。


「……失礼しました。担当の死神が間違って連れてきたようです。蘇生の手配をしますので、あちらでお待ちください。サービス券もどうぞ」


渡されたのは、手書きで〈ドリンク無料券〉と書かれた紙切れ。近くのサービスエリア風の建物へ向かう。


「いらっしゃいませ」


店員は爽やかイケメン。頭には天使の輪っか。死人確定。


「ここで待てって言われたんだけど」


「かしこまりました。こちらでどうぞ」


券を渡すと、ペットボトルが手渡された。


「三途の天然水でございます」


(ぜんっぜん飲みたくない……)


仕方なく受け取り、椅子に腰を下ろしたその瞬間――


「申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!! 私は新人死神のクロエと申します!!」


ゴスロリメイド服に大鎌を背負った少女が、床を滑り込む勢いで土下座してきた。どうやら、私を間違えて連れてきた張本人らしい。


「全く。どこの誰と私を間違えたのよ」


「……隣の家のゴキブリですぅぅぅ!!」


「そんなのと間違えるなぁぁぁ!!」


「閻魔大王様からお詫びのハンカチで許してもらえって……ささっ、どうぞ!」


いや、ハンカチで涙拭けってか。


「まぁ夢だったことにしていいから、蘇生させて。私、明日も仕事あるのよね」


「いいですけど、生き返ってどうするんです?」


「え?」


「だって、45歳独身パートタイマー。実家暮らしで親の年金なしじゃ生きてけない。貯金ゼロ、友達ゼロ、家事ゼロ。趣味は結婚相談所の往復だけ。未来、詰んでますよ?」


「……確かに。でも、いつかきっと!」


「いつかなんて来ませんよ。ほら、あきらめてこのまま死にましょう。私も始末書書かされずに済むし」


「ちなみに、死んだら天国?」


「いやー、地獄行きですね」


「生きても死んでも地獄じゃない!」


ちょうどその時、死神のスマホが鳴った。


「ちょっと失礼します」


そう言って外に出ていく。待ち時間が長くなりそうなので、私はカウンターへ。


「おすすめは?」


「プリンセスプリンでございます。お支払いは?」


「あの死神が払ってくれるかと」


「かしこまりました。ごゆっくりどうぞ」


おお、美味しそう。


テーブルに戻ってひと口。


「……ほんとに美味しいわ、これ」


その瞬間、店員がにこりと笑う。


「お気に召しましたか? そちらの《プリンセスプリン》。召し上がった方は――」


体の奥から熱がこみ上げ、背中に黒い羽の幻影が広がった。瞳が紅に染まり、魔力のようなものが全身に湧き出してくる。


「ちょっ……なにこれ!? ただのデザートじゃないの!?」


「当店に普通のデザートはございません」


そこへ戻ってきたクロエが、顔をこわばらせながら聞く。


「お待たせ致しました。プリン食べてたんですか?」


「そそ。暇だったから。あんたの支払いにしたからサインちょうだい」


「まったく食い意地が汚いですね」


クロエはしぶしぶサインをしてから、ピタリと止まり、震える声で聞く。


「ところでそのプリン、いくらですか?」


「日本円にして一兆円でございます」


「たっか!!! い、一兆円!? なんてものを注文したんですか!!!」


「おすすめされたから普通に食べただけだけど? おいしかったよ?」


「美味しいじゃないんですよ! しかも、数千年に一度しか提供されない幻のプリンセスプリン! これ食べたら古の悪魔姫に生まれ変わるんですよ!?」


腕を見ると、赤い紋章が浮かび上がっている。


「これシールじゃないの?」


「そんなノベルティ感覚で済むわけないでしょーーー!!!」


「そもそもなんでこんな危ない食べ物扱ってるのよ」


私は店員に文句を言うと、店員は笑顔でこうかえす?


「ここ何屋か知って入ってました?」


「サービスエリア。もしくは喫茶店らしきもの」


「お客様。当店は転生屋でございます。異世界行き、現世リセマラ、若返りプランなど、多数取り揃えております」


「ちなみに私をどうしようとしてたの?」


私はクロエに聞くと、


「このまま死んでくれるか、ゴキブリ転生ですね。安いから」


「受け入れるわけないでしょ!」


「そんなことより支払い方法を探さないと! 私の給料じゃとても無理です!!」


クロエは泣き崩れ、スマホを操作する。やがて画面を突きつけてきた。


【指名手配:魔王サタニアス】

【賞金:一兆円】


「……これしかない」


「ちょっと待て」


「これしかないんです! 魔王を討伐すれば、一兆円ぽーんと入る! 今なら討伐キャンペーンで景品つき!」


「通販みたいに言うな!」


「プリンを食べたのはあなた! つまり共犯! 悪魔姫の力も得たんですから、私と一緒に魔王を倒してください!」


「え、待って。明日パートあるんだけど? 運命の出会いもあるかもだし」


「運命の相手は魔王です!」


「……じゃあ賞金は?」


「返済に回します! あんたのせいで借金背負っちゃったんですから!」


「いや、そもそも私を間違えて連れてきたのが原因でしょ!」


「その件はもう謝りましたぁぁぁ!」


こうして、借金返済のため、独身パートタイマー(悪魔姫)と新人死神クロエの魔王討伐が幕を開けたのであった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?