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星に願いを
星に願いを
葵ひかり
恋愛スクールラブ
2025年08月14日
公開日
946字
完結済
真夜中。 君は軽快な口調で言った。 「流星群を見よう、弓道場で」 三題噺 「弓道場/軌道/覗く」をテーマに書きました。 他サイトに月野志麻名義で投稿していた作品です。

星に願いを

「流星群を見よう。弓道場で」


 電話口のクラスメイトは、真夜中とは思えないくらい軽快な口調でそう言った。

 学校はお盆休みに入って、部活もない。けれど、弓道部の部長である彼は、弓道場の鍵を持っているから入れると言っていた。

 彼に誘われたら断れない自分がいた。星になんて、全然興味がないのに。

 すぐに迎えに行くと電話を切った彼は、本当にすぐ自転車に乗って迎えに来た。

 お母さんに見つからないように、そっと階段を下りて、玄関でサンダルに足を通す。飼い犬のハルが、眠そうに瞳を瞬かせながら玄関先へとついて来たから、「まだ眠っていていいよ」とその頭を撫でた。そうすれば、ハルは、爪の音を微かに鳴らしながら、自分のベッドがあるリビングへとゆっくりと歩いて行く。


 彼は、私を荷台に乗せて、学校に向かって自転車を漕ぐ。

 間近で見ると実感するその広い肩に、そっと手を置いた。


「今日、ペルセウス座流星群が見れるらしい」


 顔は見えないけれど、声から興奮が伝わってくる。そんなに、星が好きな人だったなんて知らなかった。


「一時間に四十個も流れるんだって、ニュースで言ってた。矢道の芝生に寝転んで見よう」


 彼の言葉に想像する。それは何だかすごそうだし、あの芝生の上に寝転んでみたいとずっと思っていた私の心も、途端に跳ねた。


「なにをお願いする? 流れ星に」

「うーん、どうしようかな。安藤は?」

「俺のは秘密」


 ええっ、と返せば、安藤はくすくすと笑った。


「他には、誰が来るの?」


 しつこく願い事を尋ねても、きっと答えてくれないだろうから質問を変えた。


「うん?」


 と、安藤が私に聞き返す。


「え、他にも。弓道部の誰かとか、誘ってないの?」

「ん、誘ってない」


 え、ともう一度声に出してしまう。安藤が、ペダルを踏み込んだ。ぐんとスピードが上がる。

 どうして、と言いかけて、その言葉はやっぱり飲み込んだ。

 安藤の髪の隙間から覗く耳が、何だか赤いような気がしたから。なんて、安藤のせいにしたいけれど、本当は私の心臓がうるさいから。


「あっ、流れた」


 ふと見上げた空。

 弓から放った矢の軌道のように弧を描いて流れた光を指差す。


「うそ」


 安藤が、慌てた声を上げる。


「いそげっ」


 声を抑えながら笑い合った。

 この時間が、もう少しだけゆっくりと進みますように。

 言葉にしないで、心の中で唱える。

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