「流星群を見よう。弓道場で」
電話口のクラスメイトは、真夜中とは思えないくらい軽快な口調でそう言った。
学校はお盆休みに入って、部活もない。けれど、弓道部の部長である彼は、弓道場の鍵を持っているから入れると言っていた。
彼に誘われたら断れない自分がいた。星になんて、全然興味がないのに。
すぐに迎えに行くと電話を切った彼は、本当にすぐ自転車に乗って迎えに来た。
お母さんに見つからないように、そっと階段を下りて、玄関でサンダルに足を通す。飼い犬のハルが、眠そうに瞳を瞬かせながら玄関先へとついて来たから、「まだ眠っていていいよ」とその頭を撫でた。そうすれば、ハルは、爪の音を微かに鳴らしながら、自分のベッドがあるリビングへとゆっくりと歩いて行く。
彼は、私を荷台に乗せて、学校に向かって自転車を漕ぐ。
間近で見ると実感するその広い肩に、そっと手を置いた。
「今日、ペルセウス座流星群が見れるらしい」
顔は見えないけれど、声から興奮が伝わってくる。そんなに、星が好きな人だったなんて知らなかった。
「一時間に四十個も流れるんだって、ニュースで言ってた。矢道の芝生に寝転んで見よう」
彼の言葉に想像する。それは何だかすごそうだし、あの芝生の上に寝転んでみたいとずっと思っていた私の心も、途端に跳ねた。
「なにをお願いする? 流れ星に」
「うーん、どうしようかな。安藤は?」
「俺のは秘密」
ええっ、と返せば、安藤はくすくすと笑った。
「他には、誰が来るの?」
しつこく願い事を尋ねても、きっと答えてくれないだろうから質問を変えた。
「うん?」
と、安藤が私に聞き返す。
「え、他にも。弓道部の誰かとか、誘ってないの?」
「ん、誘ってない」
え、ともう一度声に出してしまう。安藤が、ペダルを踏み込んだ。ぐんとスピードが上がる。
どうして、と言いかけて、その言葉はやっぱり飲み込んだ。
安藤の髪の隙間から覗く耳が、何だか赤いような気がしたから。なんて、安藤のせいにしたいけれど、本当は私の心臓がうるさいから。
「あっ、流れた」
ふと見上げた空。
弓から放った矢の軌道のように弧を描いて流れた光を指差す。
「うそ」
安藤が、慌てた声を上げる。
「いそげっ」
声を抑えながら笑い合った。
この時間が、もう少しだけゆっくりと進みますように。
言葉にしないで、心の中で唱える。