機体が一歩踏み出すたび、重厚な駆動音と金属が擦れる音が響く。そのたびに、わずかな上下の振動がコックピットを揺らし、俺の身体にも伝わってくる。
俺はその揺れを、ひとり静かに感じていた。
ここは全長十五メートルほどの巨大ロボットの中。いや、正確には、そのロボットを疑似エミュレートしたコックピットの中だ。
俺が今いる世界は【
プレイヤーは、国家や企業から様々な
俺もその一人として、仲間たちと共に任務を受け、功績と報酬を積み重ねる日々を送っている。
「ユウジ、今回の任務内容をもう一度確認しておくぞ」
外を映したコックピットのディスプレイ右下に、小さく映り込んだのは黒い肌にハゲ頭の男。こいつは俺の所属
「ああ、OKだ団長。カオモジも、ちゃんと聞いておけよ」
俺がもう一人の同行者の名前を呼ぶと、今度はモニターの左下にフェイスウィンドウが表示された。そこに映っていたのは、ブラウン管みたいな
名前は『(・∀・)』。
名前そのものが
「(*`・ω・)ゞ」
カオモジのモニターに、
「……よし。では任務内容を説明する」
フロスガルが口を開く。
「今回の任務は、『医薬品製造プラント』への襲撃だ。まあ、いつものように敵対企業同士の抗争ってやつだな。俺たちが襲撃を請け負ってるってことは、防衛側にも同じように請け負ったプレイヤーがいるかもしれない。参加枠は最大三名。だが、難易度も報酬もそれほど高くはない。そのせいで、もしかしたら
そこでフロスガルが一呼吸置く。俺は、さも当然のように答えを返す。
「いつもの
「そうだ。さすがだな、第一小隊長様」
フロスガルが満足げに頷く。
「各機の特性を理解して運用すれば、どんな強敵にも活路は見いだせる。覚えておけ!」
その言葉通り、各員にはそれぞれ得意な戦闘スタイルがある。自分のプレイスタイルに合った機体構成を見つけること、それが戦闘に勝つための鍵だ。
俺の機体は『エクスレイカー Yカスタム』。中量二脚、中距離射撃タイプ。まあまあ装備が載せられる、バランス型の構成だ。基本は中距離から距離を保ちつつ、相手と撃ち合う。オーソドックスで癖のない機体だが、だからこそ扱いやすく、対応力も高い。
そしてカオモジの機体は『⊂二二二( ^ω^)二二⊃』。……『ブーン』と読むらしい。空を飛んでるような
そして、カオモジとは正反対の構成なのがフロスガルの『フルンティング』。英雄ベイオウルフが持っていた『役に立たない剣』の名を冠するこの機体は、重量二脚、中距離射撃タイプ。脚部は俺の機体の一・五倍はありそうなほど太く、重火器をこれでもかと積み込める。ミサイル、重ガトリング砲、支援火器の数々。その火力は圧倒的だ。前線には出ず、後方支援に徹することが多いが、彼の機体がいるかいないかで、対
「でも団長。こんな時間にゲームしてるプレイヤーが、こんな任務受けると思うか?」
そう、今の時刻は、現実世界で平日の朝八時。普通の生活してる人間なら、仕事や学校に向かってる時間だ。つまり今プレイしてるプレイヤーは、何らかの理由で休みの人間か、
俺? 俺は大学生で、この時間は講義がない。フロスガルは、聞いた話だと土建業の人間らしいけど、この時期は仕事がないらしい。カオモジは……
「そうだな……。まあ、用心するに越したことはない。デスペナも修理費も、馬鹿にならんからな」
フロスガルは、その見た目に反してかなりの慎重派だ。だからこそ、旅団の団長を務められるのだろう。石橋を叩いて渡るのは結構だ。だが、叩きすぎて橋を壊してしまっては意味がない。時には勢いに任せて、楽観的に突っ込むことも必要だ、そう思う。
「まあ、なるようになるさ。……っと、そろそろ目的地か?」
俺はディスプレイに表示された地形レーダーと周辺地図を交互に見て、標的の施設が近づいていることに気づく。遠方にも、目視で確認できる距離だ。俺たちは近くの岩陰の裏へと機体を寄せた。この距離なら見られることはないだろうが、念のための用心だ。
「目標施設を目視で確認。まだ警戒はされていないようだな。ユウジ、お前の方はどうだ?」
「こっちから見ても同じだな。AUの姿もない。どうする? 三人でまとまっても非効率だろ。三方向からバラバラに仕掛けるか?」
「ふーむ……」
慎重派の団長としては、バラけて行動するのはリスクが大きいと考えているのだろう。まとまって動けば被害も少なく、不測の事態にも対応しやすい。でも俺としては、こんな低難度の任務はさっさと終わらせたい。だからこそ、散開しての襲撃を提案した。
「……まあ、いいだろう。ユウジは東側から、カオモジは西側に回り込め。俺が正面から仕掛ける。襲撃地点に着いたら連絡を寄こせ。タイミングを合わせるぞ」
「サー、イエッサー」
「(*`・ω・)ゞ」
俺はすぐさま、指示された地点へ向かって機体を動かし始めた。