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Armored Apocalypse Online ~仮想世界は現実世界を侵食する~
Armored Apocalypse Online ~仮想世界は現実世界を侵食する~
ぴすぴす
ゲームVRゲーム
2025年08月15日
公開日
1.2万字
連載中
【Armored Apocalypse Online】(アーマード・アポカリプス・オンライン) 巨大ロボットを操って、架空世界の戦場を駆け回る。 血と鉄と硝煙が入り混じる、フルダイブ型のVRゲームだ。 そのゲームにどっぷりハマっている大学生『ナカサト ユウジ』は、いつものようにログインして仲間たちと任務へ向かう。 今回の任務は『医薬品製造プラント襲撃』。 順調に進んでいく中、ユウジは一人の怪しい美少女を見かける。 けれど、特に何かが起きるわけでもなく任務は無事終了。 ログアウトして、いつもの日常へ戻っていった。 ……が、翌日。 バイトを終えて帰宅したユウジのスマホに、旅団『ベイオウルフ』の団長からメッセージが届く。 『ニュースを見ろ!』 テレビに映っていたのは、昨日ゲーム内で襲撃した『製薬プラント』を所有する製薬会社の現実世界の工場が襲撃されたというニュースだった……。 ゲームと現実が少しずつ、でも確実に混ざり始める。 それはまるで、病原菌がじわじわと身体を蝕んでいくみたいに……。 ※横組みで読むことを強く推奨します。縦はレイアウトが崩れます。 ※機種依存文字を多用するため表示されない、表示が乱れているなどありましたらコメントなどでご指摘ください。  代替文字がありそうな部分は逐次修正を致します。

第1話「void InitializeMethod( ) 1」

 機体が一歩踏み出すたび、重厚な駆動音と金属が擦れる音が響く。そのたびに、わずかな上下の振動がコックピットを揺らし、俺の身体にも伝わってくる。


 俺はその揺れを、ひとり静かに感じていた。


 ここは全長十五メートルほどの巨大ロボットの中。いや、正確には、そのロボットを疑似エミュレートしたコックピットの中だ。


 俺が今いる世界は【Armoredアーマード Apocalypseアポカリプス Onlineオンライン】。通称AAO。自分でカスタマイズしたロボットに乗り、戦場を駆け、任務をこなし、ユーザー同士でバトルを繰り広げる。フルダイブ型のロボット対戦VRゲームだ。


 プレイヤーは、国家や企業から様々な任務ミッションを受託し、それを成功させて報酬を得る。その金で、自分の機体……【AUアーマード・ユニット】を強化するためのパーツや武装を買い、さらに高難度の任務に挑んでいく。この世界では、プレイヤーは傭兵のような存在だ。


 俺もその一人として、仲間たちと共に任務を受け、功績と報酬を積み重ねる日々を送っている。


「ユウジ、今回の任務内容をもう一度確認しておくぞ」


 外を映したコックピットのディスプレイ右下に、小さく映り込んだのは黒い肌にハゲ頭の男。こいつは俺の所属旅団ブリゲートの団長、『フロスガル』だ。旅団『ベイオウルフ』の設立者で、強いリーダーシップを持つ頼れる兄貴分……って感じの人物。


「ああ、OKだ団長。カオモジも、ちゃんと聞いておけよ」


 俺がもう一人の同行者の名前を呼ぶと、今度はモニターの左下にフェイスウィンドウが表示された。そこに映っていたのは、ブラウン管みたいなCRTを頭にかぶり、ピチピチのパイロットスーツで身体のラインを強調した、女性型アバター。


 名前は『(・∀・)』。


 名前そのものがAAアスキー・アートなので、正確な呼び方は誰にもわからない。旅団の仲間たちは、みんな彼女のことを『』って呼んでいる。というのも、こいつは一言もしゃべらない。頭にかぶったモニターに表示されるAAアスキー・アートの顔文字だけで、喜怒哀楽を表現するからだ。誰も本当の名前の読み方を知らないし、声も聞いたことがない。アバターは女性型だけど、実際の性別は不明。


「(*`・ω・)ゞ」


 カオモジのモニターに、AAアスキー・アートが表示される。たぶんこれは『了解』って意味の敬礼だろう。ほんと、器用なやつだ。


「……よし。では任務内容を説明する」


 フロスガルが口を開く。


「今回の任務は、『医薬品製造プラント』への襲撃だ。まあ、いつものように敵対企業同士の抗争ってやつだな。俺たちが襲撃を請け負ってるってことは、防衛側にも同じように請け負ったプレイヤーがいるかもしれない。参加枠は最大三名。だが、難易度も報酬もそれほど高くはない。そのせいで、もしかしたら一人ソロのやつがいるかもしれないが……そうだったら話は早い。数の暴力でケチらせ! 逆に、敵側に最大三機のAUがいた場合は……」


 そこでフロスガルが一呼吸置く。俺は、さも当然のように答えを返す。


「いつもの陣形フォーメーションだな。カオモジが突撃して敵機を撹乱、俺がそれをフォローして、最後にあんたが後方から支援攻撃」

「そうだ。さすがだな、第一小隊長様」


 フロスガルが満足げに頷く。


「各機の特性を理解して運用すれば、どんな強敵にも活路は見いだせる。覚えておけ!」


 その言葉通り、各員にはそれぞれ得意な戦闘スタイルがある。自分のプレイスタイルに合った機体構成を見つけること、それが戦闘に勝つための鍵だ。


 俺の機体は『エクスレイカー Yカスタム』。中量二脚、中距離射撃タイプ。まあまあ装備が載せられる、バランス型の構成だ。基本は中距離から距離を保ちつつ、相手と撃ち合う。オーソドックスで癖のない機体だが、だからこそ扱いやすく、対応力も高い。


 そしてカオモジの機体は『⊂二二二( ^ω^)二二⊃』。……『ブーン』と読むらしい。空を飛んでるようなAAアスキー・アートの名前の通り、機体も空を舞うような構成になっている。軽量二脚、高機動近距離射撃タイプ。装甲は限界まで削ぎ落とされ、スピードと機動力に全振りした超ピーキーな機体だ。敵の弾が当たれば、まず間違いなく致命傷。だが、当たらなければいい。ヒット&アウェイを重視し、三次元的に戦場を飛び回るその姿は、美しい蝶……というより、ぶんぶんとうるさい蠅のようだ。


 そして、カオモジとは正反対の構成なのがフロスガルの『フルンティング』。英雄ベイオウルフが持っていた『役に立たない剣』の名を冠するこの機体は、重量二脚、中距離射撃タイプ。脚部は俺の機体の一・五倍はありそうなほど太く、重火器をこれでもかと積み込める。ミサイル、重ガトリング砲、支援火器の数々。その火力は圧倒的だ。前線には出ず、後方支援に徹することが多いが、彼の機体がいるかいないかで、対AUアーマード・ユニット戦の勝率はまるで違う。支援の重要さを、嫌というほど思い知らされる。


「でも団長。こんな時間にゲームしてるプレイヤーが、こんな任務受けると思うか?」


 そう、今の時刻は、現実世界で平日の朝八時。普通の生活してる人間なら、仕事や学校に向かってる時間だ。つまり今プレイしてるプレイヤーは、何らかの理由で休みの人間か、自宅警備員ニートってことになる。そういう時間を有意義に使えるプレイヤーなら、もっと高難度の任務ミッションを請け負ってるはずだ。こんな報酬も難易度も微妙な任務なんて、わざわざ受ける理由がない。


 俺? 俺は大学生で、この時間は講義がない。フロスガルは、聞いた話だと土建業の人間らしいけど、この時期は仕事がないらしい。カオモジは……現実世界リアルで何してるのか、まったくわからん。何しろ、喋らないからな。聞きようがない。


「そうだな……。まあ、用心するに越したことはない。デスペナも修理費も、馬鹿にならんからな」


 フロスガルは、その見た目に反してかなりの慎重派だ。だからこそ、旅団の団長を務められるのだろう。石橋を叩いて渡るのは結構だ。だが、叩きすぎて橋を壊してしまっては意味がない。時には勢いに任せて、楽観的に突っ込むことも必要だ、そう思う。


「まあ、なるようになるさ。……っと、そろそろ目的地か?」


 俺はディスプレイに表示された地形レーダーと周辺地図を交互に見て、標的の施設が近づいていることに気づく。遠方にも、目視で確認できる距離だ。俺たちは近くの岩陰の裏へと機体を寄せた。この距離なら見られることはないだろうが、念のための用心だ。


「目標施設を目視で確認。まだ警戒はされていないようだな。ユウジ、お前の方はどうだ?」

「こっちから見ても同じだな。AUの姿もない。どうする? 三人でまとまっても非効率だろ。三方向からバラバラに仕掛けるか?」

「ふーむ……」


 慎重派の団長としては、バラけて行動するのはリスクが大きいと考えているのだろう。まとまって動けば被害も少なく、不測の事態にも対応しやすい。でも俺としては、こんな低難度の任務はさっさと終わらせたい。だからこそ、散開しての襲撃を提案した。


「……まあ、いいだろう。ユウジは東側から、カオモジは西側に回り込め。俺が正面から仕掛ける。襲撃地点に着いたら連絡を寄こせ。タイミングを合わせるぞ」

「サー、イエッサー」

「(*`・ω・)ゞ」


 俺はすぐさま、指示された地点へ向かって機体を動かし始めた。


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