(la, la, la, la, la!)
人生がジョークじゃないなら、どうして俺たちは笑ってるんだ?
(la, la, la, la, la, la!)
(la, la, la, la, la!)
人生がジョークじゃないなら、どうして俺たちは笑ってるんだ?
(la, la, la, la, la, la!)
(la, la, la, la, la!)
人生がジョークじゃないなら、どうして俺たちは笑ってるんだ?
(la, la, la, la, la, la!)
────
「よう、クロ。何を聴いてるんだ?」
彼が家に帰ると、部屋でクロがくつろいでいた。ベッドの上で、彼のスマートフォンを勝手に使って、音楽を聴いていた。
「別に、イヤホンを付けて聴いているわけじゃあないじゃないか。オマエにだって音は聞こえているだろ?」
「そうなんだけど、それ、洋楽じゃん。オレ、英語はちっとも分かんないから」
スマートフォンからは、激しい曲調で英語の声が聞こえていた。
「はあ。」クロは笑い声を交えたため息を短く吐いた。「MCRっていうバンドの曲だよ。昔、友人が好きだったんだ」
「ふうん」
「興味なさそうだなあ、おい。お前が尋ねたんじゃないか。」クロはそう言って、彼の名を呼んだ。「
彼は名を
「どうだ、学校にはもう慣れたか。」今度はクロが尋ねる。
「もう半年も経つんだよ」
「そうか。で、慣れたのか」
「う、うるさいなあ……」
鞄をベッドへ置く。大の字になってクロが伸びているベッドではなく、彼自身のベッドに。ぼすん、と音を立て、僅かな埃が舞った。
クロが姿勢を正して座る。
「スマホ、返そうか?」
「いや、いいよ。パソコンがある」
「そうか。しかしワガハイもスマホは要らなくなったところだ。オマエが帰ってきたからな」
クロは、米噛の隣に立って彼を見上げた。
パソコンの電源を入れる。
ものの数秒で黒かった画面は、明るく光り出した。ロック画面には、七頭身ほどの女の子の絵が表示される。
ホーム画面には、ロック画面と同じキャラクターの別のイラストがでかでかと背景になっている。しかし沢山のアプリアイコンに埋め尽くされ、絵はほとんど見えない。
迷うことなく、米噛は一番左上のアイコンをクリックした。
「Googleなんか開いて、何を調べるんだ?」クロが首をかしげる。
「剣だよ、剣」
「は? 剣?」
「そう。」米噛は、「……」もったいぶったような沈黙を挟んでから、「拾ったんだ。」と言った。
「剣を……拾った……!? げ、現代日本で?!」
「ちょっ! 声! 近所に聞こえる!」
「あ、スマン。ワガハイ、少々驚いてしまって」
「怖いんだよ、銃刀法とかあるんだよ、バレたら逮捕だよ。……まあ、そんなことクロは知らないかもだけど……」
「バカにするな。それくらいワガハイでも知っとるわ」
クロは握り拳を固め、米噛の肩をぺちんと叩いた。
「うーん……」米噛の反応は鈍い。
「法律違反が怖いのなら、見なかったことにして放っておけばよかったじゃないか。それに、今からでも、テキトーに海辺に捨ててこようぜ。
クロがからかうように言った。
それを聞いて、米噛は顔をパソコン画面から離した。前を向く。カーテンの取っ払われた窓の向こうに、海が小さく見える。日本海だ。
「そう。まさに、海で拾ったんだよなあ。剣」
「海……あそこの?」
「うん」
「ははあ。波に攫われてきたのだろう。拾った経緯をちゃんと説明すれば、オマエがお縄になることもないだろ。早くあの海に返してくるか、警察へ行けよ」
「あー。その。さっきからオレが手放すみたいなカンジで来られてるけど、クロ。」米噛はぼさぼさの髪を掻く。「手放せる雰囲気じゃないんだよなー」
クロは手の甲を何度か舐めてから、
「まあ、ワガハイにも見せてくれよ。話が見えてこない」
と言った。
「ベッドがどうかしたか?」クロが尋ねる。「通学鞄の中に?」
「いや、そうじゃない」
「じゃ、なんだよ。どこにある」
クロは一度、ベッドからも米噛の横顔からも視線を外し、彼のパソコンに目をやった。検索エンジンは、黒々とした剣の画像をいくつも表示している。画面上の方、検索窓には「レーヴァテイン」という文字列が打ち込まれている。有名な、神話上の魔剣だ。検索窓よりもさらに上の方には、別のタブのタイトルが並んでいる。『剣 拾った』というものの隣に、『魔剣』『黒い剣』『グラム』『ダンスレイヴ』と物騒なタイトルが並ぶ。後ろ2つの固有名詞はやはり、魔剣の名前だった。
「魔剣ってオマエ……。そんな物騒なものを拾ったのか? というか、そんな、伝説上にしか存在しないものが落ちているわけがないだろう。フィクションと現実を混合するな。そも、普通の剣を拾ったとしても疑わしいな。どうせオマエが拾ったのは、工場から廃棄された鉄くずだろう。それを剣と勘違いしたんだ。この中二病め」
クロはきゃーきゃーと早口で言った。
米噛は、クロの頭に手をのせて毛をぐしゃぐしゃと乱してやる。
「見てないから、言えるんだよ。あれは普通の剣じゃない」
「だから、さっさと見せてみろって」
「……まあ、クロにならいいか」
米噛は椅子から立ち上がった。と思ったら、しゃがんだ。
「なにしてるんだ、オマエ」
クロは米噛から少し離れ、彼を見守っている。
米噛は、自身が部屋の床に落とした“影”に、手をあてた。
クロはいよいよ混乱してきた。
「ホントになにして……」
ずるり。
「ぐっ。おっ、おっ……おも……」
米噛が両手で一生懸命何かを握っている。それは棒のようなものだった。影から、黒い棒が生えていた。
「!?」
「うおおぉーっ!」
米噛は勢いよく、棒を引き抜いた。
それは
つまりそれは剣だった。
黒く、大きく、重い、鉄でできた剣だった。
「ぜえ、はあ。重い……」
「な、オマっ、これっ、剣っ」
「はあ、言ったろ、はあ。」米噛は息を荒くして、ベッドにどかっと座った。「ふう、はぁ。本物の剣だよ。それでいて、普通の剣じゃないんだよ」
「本当に驚いたぞ。影に収まる剣だとはな。それに刃渡りも恐ろしく長い、いかつい大剣だ。オマエ、これ本当に、あの海辺で拾ったのか?」
「うん」
「こんな重いものどうやってここまで運んで……あ、そうか。影か」
米噛は首肯した。手で額の汗を拭いながら、応える。
「今日は曇りだったから、そこまで暑くなかったから、海に行ったんだ。砂浜で、このでっかいかりんとうみたいな
クロは身体を少し離しながらも、首を伸ばしてその剣を見つめる。
その黒い剣は、米噛のベッドの上に横たわらせたのだ。ベッドに深く沈んでいる。
「これは確かに、普通の剣じゃあないな」
「でしょ?」
クロはそーっと手を伸ばしてみる。
「触る?」米噛が手で剣を指す。
「少し怖いな」
「触ったからって手が切れることはないと思う。刃物っていうより鈍器だから。刃の部分も、全然鋭利じゃないだろ? それに引き抜くときはめちゃくちゃ重いんだけど、こうやって影から出してしまえばそこまでデタラメに重いわけでもない。まあ、とても、振り回せそうにはないけれど」
「こんな危険なもの振り回そうとするなよ、オマエ」
「分かってるって。剣っていうから、たとえば、だよ」
クロの手が、剣に触れた。ひんやりと冷たい。クロは直感で、それが鉄の塊なのだと分かった。
「ひいっ」
「クロもビビることあるんだな」
「馬鹿、オマエ。オマエ、馬鹿。普通ビビるだろう。こんな大きな剣」
「それもそうなんだけど」
クロの手の隣に、米噛も手を置いた。
「そなたがクロ殿か。」
「ん? 米噛、オマエ、何か言ったか」
「いや。今のはオレの声じゃない。」米噛は表情を変えずに言う。「剣だよ」
「……」
「名乗り遅れた。
剣が喋った。
「ぎゃーーっ!!」
クロは背を曲げて、ベッドの上で高く跳びあがった。
──
「全く。本当の本当の本当に驚いたんだからな、オマエ。これじゃ
クロは頬を膨らませて怒った。
「ご、ごめん。クロが死ななくて良かった、うん」
米噛は、クロの腹をさすった。余った方の手で黒い剣の
鉄でできた黒い剣。
剣には、
そう、剣は喋ることができた。といっても僅か1デシベルさえ出していない。剣が喋るというのは、テレパシーによるものだった。この黒い剣に触れていると、互いにテレパシーで会話ができるようになるのだ。そうして、
「オマエ、
「よく言われる。
米噛は会話を続けるクロと
先程までの怯えようから一転し、クロははしゃいでいる。
「では、新たに名前を付けてやろうか。……いや、きっと、親?から付けてもらった大切な名前だよな。やっぱり。ええと、では、あだ名はどうだろう。ニックネームだよ」
「まあ。吾輩はなんでも構わない。」
「よし。
「コストコ――それが吾輩の新しい名前か。」
「そう。どうだろう、どう思う? 米噛?」
クロは、ちょいちょいと米噛の横腹をつついた。
「え? ああ。いいんじゃない。
かくして、深い黒色の剣は、コストコと呼ばれるようになった。
米噛は左手を顎にあてて考える。
「(うーん。)」そしてすぐに結論とした。「(まあ、普段はオレの影の中に収めとけばいいんだから。別に銃刀法違反がバレることもないか! あー、一件落着だ!)」
急に
「にしてもオマエ、本当にびっくりしたんだからな、米噛。喋る剣だなんてこと、真っ先に教えておいてくれるべきだろうが」
「いてっ、いてて。」米噛は腹を抑える。「本当にごめん。でも、本当に、別に伝えるほどのことじゃないと思ったんだよ。特に相手がクロだったから」
「オマエ、剣が喋るんだぞ。あり得ないことだろうが」
クロの手はほとんどパンチの域に達していた。
「うーん。剣が喋る、ねえ。そこまでのことに思えたんだよなあ。そんな驚くことかねえ。」米噛は、曖昧な目でクロを見た。「別に、猫だって喋るんだからなあ」
クロは、猫だ。喋る猫だ。
「オレも先にコストコに出会ってれば、まあびっくりしてたんだろうけど。でもそのびっくりはクロと出会ったときに使っちゃったからなあ」
「あっ、そう。」クロは手を引っ込めた。
「だって、野良猫が急に話しかけてきたんだぞ」
米噛は、部屋から、東の方角を見つめた。その方向にある廃れた民家の前で、クロと初めて出会ったのだ。
「“野良猫”とはなんとも不衛生な呼び方だな。“地域猫”と呼んでくれ。地域の中でも主にオマエの家に顔を出す頻度が高いだけだ」
こうして、ただの男子高校生・