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女子高生ハンター、異世界勇者(レベル99)を拾いました
女子高生ハンター、異世界勇者(レベル99)を拾いました
グミ食べたい
現代ファンタジー現代ダンジョン
2025年08月16日
公開日
3.6万字
連載中
現代日本に突如現れた異空間――ダンジョン。 そこに挑むのは、命を懸けて戦う者たち――『ハンター』。 女子高生ハンターのサヤは、不運にも遭遇してしまった危険度Sのボスに窮地へと追い込まれていた。 だが、その場に突如現れたのは――異世界から転移してきたというレベル99の勇者ブレイド。 常識外れの力を持ちながら、現代の常識にはとことん疎い彼と、ツッコミ気質のサヤ。 相性最悪(?)の二人が出会ったとき、現代世界と異世界の運命は大きく動き始める――! 「勇者? 異世界? そんな設定、誰が信じるのよ!」 「安心しろ。俺はレベル99だ」 女子高生ハンター × 最強異世界勇者の凸凹バディアクション、ここに開幕!

第1話 女子高生ハンターと勇者

 突如、都市に何の前触れもなく現れるゲート。そして、その先に広がる異空間――通称「ダンジョン」。

 女子高生ハンターのサヤは、その日も単独でダンジョンに潜っていた。


「……やばい。これ、完全に詰んだかも」


 セーラー服の上にメタリックな装甲――バトルテクターを纏う彼女の前に現れたのは、闇を凝縮したような巨体だった。

 二メートルを超す人型。頭部から湾曲した角を伸ばし、闇一色の中で、二つの目だけが、赤く輝いている。

 サヤはすぐさまスマホ――スマート・ホログラムデバイスの略称で、ハンターの活動をサポートする専用端末――をかざし、目の前の怪物をスキャンした。


【名称:ミノタウロス 属性:ダンジョンボス 推定危険度:S】


 スキャン結果は最悪のものだった。


「なんでいきなりボス部屋なのよ! 落とし穴→自爆トラップ→床崩壊のコンボって、どんな悪意よ……!」


 逃げ道はなし。左右を見ても、頑強な壁に囲まれている。

 サヤはバトルテクターのリミッターを緊急解除し、右手に霊子を集中させた。


 シュイィン――白銀の粒子が集い、彼女の手に巨大なハンマーが形成される。

 それは霊子武器。ダンジョンモンスターに唯一有効な、人間の想像力から生まれるエネルギーの具現化だ。


「いくよ……!」


 ツインテールをなびかせ、サヤは一気に踏み込み、渾身の一撃を振り下ろす。

 だが――


「効いてない……!?」


 ミノタウロスは巨腕で容易く受け止め、逆に拳を叩き込んできた。

 サヤの身体が宙を舞い、背中から壁に激突。衝撃で視界が揺れる。


『ネガフィールド残耐久――47%』


 無機質な機械音声が告げる。

 バトルテクターが生み出すネガフィールドは、肉体へのダメージを肩代わりしてくれる――だが、それにも限界はある。


「まずい……これ以上は危険……」


 逃げ場もなければ援軍もない。あるのは自分の武器と――覚悟だけ。

 サヤがリミッターの解除率を50%に引き上げようとしたその時。

 突然、戦場の中心に光が満ちた。


「なっ……! 今度は何!?」


 床に浮かび上がる虹色の魔法陣。次の瞬間、空間が歪み、そこから一人の人影が現れる。

 銀の髪、漆黒の外套、銀の胸当て。異世界の戦士を思わせる装いに、腰には一振りの剣。


(誰……?)


 サヤは警戒しながら、スマホをかざす。

 スマホには、登録されているハンターの名前やランクを即座に判別する機能が備わっている。見知らぬハンターであっても、身元の確認は容易なはずだった。


『登録情報なし』


 スマホに表示された情報に、サヤは小首をかしげる。


(ハンターじゃない……ってことは市民!? こんな場所に?)


 わからないことだらけだが、彼女はすぐに頭を切り替える。

 ゲート出現の際に、近くにいた市民がダンジョン内に囚われてしまうことは決して珍しいことではない。そして、そういった市民の保護と救出も、ハンターの重要な使命の一つだった。


「そこの人! すぐにそこから離れて」


 サヤが叫ぶも、男は無反応。

 その瞬間、ミノタウロスが咆哮を上げ、男に突進した。


「まずい!」


 サヤの位置からでは、もう間に割って入って止めることはできない。

 せめて逃げて距離と時間を稼いでくれと願うが、足がすくんでいるのか男は逃げる様子を見せない。

 むしろ――片手を突き出し、その拳を受け止めた。


「……は?」


 サヤの思考が止まる。

 あの破壊力満点の拳が、ピタリと男の手のひらで止まっていた。


「危ないだろ、急に殴ってくるなんて」


 ミノタウロスに向かって軽く言い放つその姿に、サヤの理解が追いつかない。


「あなた……何者なの?」


 男は振り返り、静かに答えた。


「俺か? ――レベル99の勇者、ブレイドだ」

「勇者……?」


 言葉の意味は理解できる。なのに会話が成立している気がしない。

 勇者なんて時代錯誤な言葉をこんなところで聞くなんて想像もしていなかった。だが、ミノタウロスの突進を片手で止めるなんて、コスプレしただけのただの一般人にできるはずがない。


「なあ、この黒い影のような怪物――倒してしまってもいいのか?」


 そのうえこのセリフ。

 サヤはますます混乱する。

 だが、彼女の混乱をよそに、勇者を自称するブレイドは腰の剣を引き抜いた。

 ダンジョンモンスターに、一般の武器はほぼ効果がない。霊子武器でなければ、まともに戦うことすらできない。だというのに、男が抜いたのは、銀色の輝きを帯びたただの剣にしか見えなかった。


「モンスター相手に、通常武器が通用するわけないでしょ! 戦うのならせめて霊子武器を――」


 サヤの言葉が言い終わるよりも早く、男の剣が閃いた。


絶対勇者剣グラン・エクス・ヴァルディス


 まるで空間そのものを裂くかのような一閃。

 次の瞬間――

 ミノタウロスの巨体が、音もなく縦に真っ二つに割れた。

 一拍の遅れをもって、崩れ落ちる巨躯。無数の粒子となって四散し、ダンジョンの空気に溶けて消えていく。

 残されたのは、床に転がる一つの赤い魔石だけだった。

 呆然と立ち尽くすサヤの前で、男は笑う。


「だから言ったろ。俺はレベル99の勇者だって」


 レベル99勇者ブレイドと、女子高生ハンターのサヤ。

 これが二人の出会いだった。


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