フランク・キャプラの映画に『或る夜の出来事』というものがあるが、これから語るのは四森が実際に経験した話である。
四森は二〇一〇年にデジタルハリウッド大学デジタルコミュニケーション学部デジタルコンテンツ学科に入学した。
当時、デジタルハリウッド大学(デジハリ大)には、海外実習というものがあり、入学した者は基本的に海外実習という名の海外旅行によって、新入生同士の結束を強めたものだ。
デジハリ大というくらいだから、海外旅行で向かう先は当然に、アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルスのハリウッドである。
ロスのホテルのフライドチキンが美味しかったのを記憶している。
まあ、四森。統合失調症というのは、さて置いても、マトモな人間ではない(当時から統合失調症の診断はされていた)。
例えば、映画スターの手形などが地面に刻まれている、ハリウッド・ウォーク・オブ・フェームにほど近い土産物売り場で、アメリカ人の店員に「買っていくか?」というようなことを英語で言われ、四森は、「あとで来る(I 'll be back)」という、映画『ターミネーター』の台詞で応えたのだが、アメリカ人の店員はさして面白くもなさそうだった。
これは、一緒のグループだったデジハリ大のメンバーには、まあまあ受けた。
ソニー・ピクチャーズだか、パラマウントだかの、スタジオ見学というものもあった。
そこは、さして面白くも無かったのだが、一番興奮したのは、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッド(USH)だった。
当時、四森はUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)にまだ行ったことがなかったので、初のユニバーサルスタジオ。大興奮だった。
当時『ハムナプトラ』という映画があり、そのライドに乗った。
その時、すべての荷物を預けなければならないのだが、四森がスタッフに「必ず預けなければならない?」と聞くと、「そうだ」と言われた。なんだか、暗証番号めいたものをコインロッカーに入力したのだが、もう既にその段階で四森の精神はきわめて
ハリウッドの特殊効果や音響を作るための、ライブショーなんかにも一人で行った。
いま、考えると、同じグループのデジハリ生がいたのに、なぜ一人だったのかは不明である。
それから、バックドラフト。現在、USJではクローズしてしまったアトラクションだが、火災現場を疑似体験できるバックドラフトに興奮した。
まあ、もう、この時から、既に、四森の頭はどうかしている。当時、スマホというものがあったかなかったかくらいの世代なので、当然に四森はスマホなど持っておらず、使い捨てカメラで撮影をした。
USHの入口にある、アルフレッド・ヒッチコックの胸像と自撮りでツーショット写真を撮った記憶がある。
もっとも、上記のことは、そんな記憶があるだけで、十五年以上前のことでもある。事実かどうかは定かでない。
・・・さて。とにかく、睡眠不足と、それからマトモに向精神薬も摂取出来ていなかったのだろう。
飛行機の中からして既に、四森の精神状態は混迷の中にあり、なんとか、成田空港までは到着したものの。
税関を通れなかった。
そして、四森は、成田空港のどこの場所かも分からない、トイレの中でワンワンと泣き、警備員に発見されて、税関だけ通され、成田空港の公衆電話から母親に電話をかけた。
そして、京成線に乗った。
京成線の途中で、四森は、電車を降り、もう、ここから精神状態は悪化の一途をたどる。
エスカレーターの一時停止ボタンを押し、登りのエスカレーターを下に降りた。
どこの駅かも、分からない。
京成の駅員に「なにをやっているんだ」とこっぴどく怒られた。
四森はとにかく疲れていたので、「疲れた。ホテル」などと言った。まあ、とにかく、すぐにでも保護されるべき状態だったわけだが、京成の駅員は「ホテルはない」と言った。
そこから、四森は、夜の東京を彷徨い歩いた。どちらに向かっているのかも分からない。
途中、映画監督のスタンリー・キューブリックに会った。『2001年宇宙の旅』や『シャイニング』で知られる映画監督だが、もちろん、二〇一〇年時点で故人である。
スペースシャトルが、遊園地のバイキングの逆のようにそこらへんで飛んでいた。
牛丼屋に入り、なんだか注文のようなことをし、牛丼が運ばれてきて食べないでいると、「食べないなら出ていけ」と追い返された・・・
四森は、池袋のドラッグストアの前で複数の警察官に台車に載せられた。そして、池袋警察まで運ばれる。
警察で、トイレに行きたいといったら、あいつらトイレまでついてきやがる。
四森にだけではなく平等な扱いだが、飲物も食物も与えてくれない。
そこから、両親が到着し、帰宅し、実家でまともに飲食も会話も出来ない状態になり、精神科病院へ入院という運びになった。
これまで、語ったことは、すべて四森にとっては事実である。
まあ・・・、■■■は、■■■■■で、■■■■■だから、■■■ていうことですよね。フフフフ?
そう。これが、四森のすべての始まり。
四森前夜については語った。本当の恐怖の始まりはこ、れ、か、ら、だ。
【別の話につづく】