「お母さん、同性間の恋愛ってどう思う? 女性同士なんだけど」
……ついに来た。来た。けど、あせっちゃだめよ、私。
「どう、も何も……。お互いがお互いをきちんと大切にできるなら良いと思うわ。もちろん、結婚している人が相手だとか、男女でもよろしくはない場合は別よ」
よし、うまく言えたわ。
「うんうん、さすがお母さん。じゃあ……、年齢差については?」
……やっぱり来たわね、この質問。
ついに。来た来たあ!
大丈夫よ、心配しないでね、愛する我が子、愛娘。
あなたの考えは、分かってますとも。
家庭教師さんとの恋愛を母親公認にしたいのよね?
気付いているのがバレないように、落ち着いたふり。あくまでも母娘の世間話の
「場合によるわ。例えば10歳以上離れていても、それが40歳と30歳なら問題ないと思うけど、20歳と10歳だと、どうかしら?」
「ええと……婚約して、30歳20歳または28歳18歳まで正式なお付き合いは待つ、とか?」
さすがは、我が愛しの娘!
でも、あなたと家庭教師さんとなら22歳と17歳だから問題ない気もするけどね?
しかも、お相手は一流企業の内定取得済の名門大学の四年生、ついでに言うと超絶美女さんで性格も良し、あなたも同じ大学にみごと指定校推薦を決めたうえに、我が子ながら優秀で、ふわふわな髪の毛とくりっとした大きな目が印象的な美少女で、可愛い可愛い名門高校に通う高校生女子なのよ?
あ、これは親の欲目じゃないのよ!
一緒に歩くと、道行く人が頻繁に愛娘を見てるし、「可愛い」、とか「保護者がいたら声かけられないなあ」って言われてるのもよく聞いてますからね!
あ、違うわ、保護者がいなくても私の娘に声かけをするな! だったわ。
あらいけない、本音が。
それはそれとして。
あ、もしかして。
いきなりの同性の交際宣言だと私が驚くから遠慮がちなのかしら?
そんなことはないのに!
むしろ、娘の大学への指定校推薦合格まで待ってくれていた家庭教師さんの忍耐力を褒めたい気分よ!
何しろとても可愛いですからね、私の娘は!
「……お母さん?」
「あ、ごめんなさい、そう、良い考え方ね! 10歳差でも、そういう形ならお母さんも賛成! 良いと思う! 忍耐力、大事よね!」
「……そう、なの? そうだよね! なら、22歳と37……もうすぐ38歳だと、どうかなあ?」
え。
何だか、お母さん的にリアルな数字ね。
でも、まあ、それなら……。
「それなら、お互いがきちんとしていたら良いと思う。例えばちゃんとしたお仕事をしているとか、お互いが独身、とかならね」
「じゃあ、どちらかに娘がいたら?」
え、娘さん?
「それは、娘さんに無理とか我慢とかをさせたらダメよ、絶対。娘さんにはとにかく理解をしてもらえるようにしないと!」
娘、大事。……当たり前よ!
「やっぱり、私のお母さんだ。大好き! じゃあ、その娘……さんが二人の恋愛のことを大賛成! むしろ、はやくくっつけ! って思ってたら?」
あら、ずいぶん近い関係の母娘さんなのね。
お母様の同性とのお付き合いに理解があるなんて出来た娘さんだわ……じゃなかった、例えば、の話よね。
あと、お母さんもあなたが大好きよ!
……って、答え答え、と。
「……それなら、問題ないんじゃない? あとはお互いの気持ちよね。でも、何で? これ、あなたと家庭教師さん、
「え、やっぱりバレてた? お母さん、すごい! そう、私と先生が相談してて……もしもし、聞こえてたよね、みさき先生……じゃなくてみさきさん! 忍耐力を褒めてくれたよお母さんが! だからすぐ来て! ちゃんと指輪は持った?」
『……了解! もちろん持っているよ! ありがとう、未来の娘よ!』
あ、これ、娘のスマホだわ。
ソファーの隙間に入っていたスマホは何故かスピーカーになっていた。
え。みさき先生、今の会話、聞いてたの?
それに、ゆ、指輪? さすがに、まだ早くないかしら?
でも、そうね、賛成であることには変わりはないのだけれど。
ただ、なんだかちょっと……私が考えていたのと違う気がするけど、気のせい……よね?
「あ、お母さん、私玄関の鍵、開けてくるね!」
「え、え、え」
愛娘に疑問をぶつける時間もなく。
「失礼します」
いつの間にか、娘が解錠していた我が家の玄関の扉は開かれ、そして、丁寧に閉められた。
「……こんにちは。今日もお美しいですね。お母様……いえ、しずるさん」
手には薔薇の花束、と石は小さめだけれど上品で、デザインも素敵な指輪が開かれた指輪ケースの中に。
お美しいって……。
そもそも、パンツスーツを着こなす黒髪黒目の超絶美女さん、貴女がとてもお美しいですから!
あと声、声もいいです!
「
離婚歴(円満離婚。相手とは現在も会食などいろいろをしている。愛娘も一緒に、のときも多数)あり。
某月某日、娘の家庭教師さん(超絶美女)に、まずは恋人から、と、プロポーズ(よね?)されました……。
「あの……なんで私? 娘に、じゃなかったの?」
そんな私の呟きは。
「おめでとう、ほんとうに良かったね、みさきさん! やっと、ついに、お母さんに告白できたね!」
愛娘の応援? 喜び? の可愛い声にかぶさって、そして、消えていったのでした……。