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出産の夜、DNAが答えを出した
出産の夜、DNAが答えを出した
月城かなで
恋愛現代恋愛
2025年09月23日
公開日
7.6万字
完結済
救急車のサイレンが鳴り響き、妊娠38週の霞沢詩織は緊急手術室へ運び込まれる。無影灯の下に立つ麻酔科医は、八か月前に別れた初恋――篠宮蓮真だった。「この子、俺の子だろう?」彼は低く問いかける。 大学時代、ふたりはオンラインゲームをきっかけに恋に落ちた。だが名門・篠宮家と普通の看護学生という身分差、そして「業界再編」が引き出した両家の旧怨によって、関係は次第に軋み始める。名誉理事・橘川綾乃が差し出した分厚い封筒は、詩織の父の会社の失墜と篠宮側の影をほのめかしていた。家族を守るため、詩織は別れを選ぶ。妊娠を知ったのちは、母と姉に支えられ「ひとりで産む」決意を固めるが、診療所に出入りする若い医師・桐生翔悟の温かな気遣いが、孤独の中の心をそっと揺らしていく。 一方、蓮真は産科健診の折に赤子の爪の欠片を密かに採取し、DNA報告は父子関係を確定させる。彼は「科学は嘘をつかない」として一歩ずつ詩織に迫る。親権の争い、両家の思惑、過去の取引――法廷と世論に晒されるその前夜、詩織は「母として守るべきすべて」と「初恋の真実」のあいだで、ついに選択を迫られる。

第1話 産科室の再会

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