元夫よ、もう追わないで!私は“死んだ女”として千億家産を継いだの!
九月紅
恋愛現代恋愛
2025年10月20日
公開日
6.3万字
連載中
妊娠中、手術台に押さえつけられ、無理やり「腎臓を提供」させられたとき——
小川さやかはようやく知った。
松本蓮斗が自分と結婚したのは、彼の最愛の女を救うためだったのだと。
手術のあと、さやかは子どもを失い、命も風前の灯となった。
それでも蓮斗は少しも気にかけず、
病室に押し入って、瀕死のさやかからもう一つの腎臓を奪おうとした。
さやかは、目の前の男を見つめながら思った。
——この人を、本当に知っていたことがあっただろうか。
絶望の果てに、さやかは自ら火の海へと身を投げ、
死を装って姿を消し、家族のもとへと戻った。
やがて、双子の妹「中島あやね」として、
名家の令嬢の顔で再び世に現れた。
滑稽なことに、かつて彼女を見下していた蓮斗は、
今では許しを請い、命を懸けてまで彼女を守ろうとする。
──そして、ある日。
蓮斗はさやかをかばって硫酸を浴び、
全身に重傷を負いながら、病室のベッドで初めて涙を流した。
「さやか……
 君が僕を憎んでもいい、どうでもいい。
 お願いだ、もう他人だなんて言わないでくれ……」
そのとき、さやかのそばで常に影のように付き添う男が一歩前に出て、
冷ややかな声で彼の手を振り払った。
「松本さん、うちのお嬢様がおっしゃいました。
 “ゴミは振り返らない”。って——」
「出ていてください。」