Fujihara Yūko
恋愛現代恋愛
2025年10月21日
公開日
6万字
連載中
「お前はただの契約の妻だ。彼女が戻ってきたら、お前は消えろ」
財閥御曹司・清堂律は、幼なじみの白羽遥が海外から戻るまでの繋ぎとして、没落した漆器工房の娘・藤沢椿と冷徹な契約結婚をした。律は椿を単なる“道具”としか見ておらず、その献身的な愛の言葉も、隠された才能も、一切気づかなかった。遥の前では椿を蔑ろにし、傷つけても「契約の範囲内」と断じた。
しかし、椿の心は少しずつ砕かれていった。律にすら気づかれない八年間の片思い。遥の執拗ないじめと律の無理解。遂に彼女の心は決定的なひびが入る。愛の記録を焼き、契約書を破り、彼女は静かに消えた——律の世界から、完全に。
律は椿の失踪後、初めてその愛の深さと自らの愚かさに気付く。彼女が残した金継ぎで修復された家伝の茶碗は、律への無言のメッセージだった。しかし、時既に遅し。椿はパリで国際的な芸術家として覚醒し、新たな伴侶と共に輝く人生を歩み始めていた。
遅すぎる後悔に苛まれる律は、パリの雨の中、土下座で許しを乞うが、椿の心は動かない。「あなたの謝罪も、後悔も、もう必要ありません」——冷たい断罪の言葉。彼女の幸せが、彼にとって永遠の罰となった。
これは、愛を“道具”として扱った男が、取り返しのつかない過ちに気付き、地獄の般的な“火葬場”を経験する、痛切な恋愛物語である。