ゆり
恋愛現代恋愛
2025年10月29日
公開日
5.6万字
連載中
私の夫は、記憶を失って、18歳の少年に戻りました。大好きだった私のことを、彼は「大嫌いな女」だと言います。
でも、それでいい。だって――私には、もう長い時間が残されていないから。
高橋涼太の妻として、私は覚悟を決めました。記憶が戻らなくても、彼から嫌われても、最期の日まで彼を守ると。彼の初恋の相手・綾子さんとの因縁も、父の死の真相も、すべて私が胸に閉まっておきます。優しくて、頼りになる夫を知っているから、18歳の彼の無邪気な傷つける言葉なんて、全然痛くない。本当は、すごく、すごく痛いのに。
でも、あの写真がすべてを壊した。夫が、私と主治医の森川さんを“不倫”だと疑っているのを知った時、私はある“嘘”を思いつきました。
「あなたは、記憶を失う前から、私を愛していなかった」
この嘘さえ信じれば、私がいなくなった後、彼はまた幸せになってくれる。そう願って、私は離婚届にサインしました。
…さようなら、涼太。私の愛した、18歳のあなたにも、18歳よりもっとあなたを愛した、優しい大人のあなたにも。
この嘘が、私からあなたへの、最期の贈り物です。