自分はずっと愛されて育ったお嬢様だと思っていた。――あの日、自分が障がい者になるまでは
Takenoka
恋愛現代恋愛
2025年11月04日
公開日
2.5万字
連載中
華道大会の前夜、千雪桜は誇りにしていた両手を不慮の事故で粉々にされた。
救出されたときには、彼女の手はすでに無残な肉塊と化していた。
最愛の兄は激怒し、「必ず真相を突き止める」と誓った。
最も彼女を大切にしていた婚約者も心を痛め、世界最高の医療チームを呼び寄せて治療にあたらせた。
しかし三日目、桜が車椅子を押して階段の曲がり角を通りかかったとき、思いがけず二人の会話を耳にしてしまう。
「正気か? 桜には大会を欠場させるだけのはずだっただろう。これじゃ一生、花を触れなくなる!」
――それは、彼女の婚約者の声だった。
桜が「大会を欠場させるだけ」とはどういう意味か理解する間もなく、次の瞬間、兄の煙草の煙に混じった声が聞こえた。
「結果的には都合がいいだろ? 今回は美雨が優勝するに決まってる。」
「桜は千雪家の本当の娘だ。たとえ障害が残っても家が面倒を見る。でも美雨は養女だ。彼女には“これ”が必要なんだよ……」