もふもふ
恋愛現代恋愛
2025年12月03日
公開日
7万字
完結済
桜井明里は、エレベーター前で倒れていた隣の住人を助けた。
相手の名前は清水優光。声を出せないが、聞こえるらしい。
彼女は特別支援教育の教師で、手話もできる。二人は手話で話すようになった。
彼は毎日彼女に弁当を作り、彼女は彼を家に連れて帰って正月を過ごさせた。
両親の温かさに触れ、幼い頃から冷遇されてきた彼は初めて「家」というものを知った。
――交通事故で声を失ってから、清水優光は両親から疎まれていた。
「声も出せない息子なんて恥だ」と。
大晦日の夜、彼は部屋の隅に追いやられた。
「そこに座っていろ。声を出すな。」
お年玉をもらったこともない。
抱きしめられたこともない。
「愛してる」と言われたこともない。
桜井明里に出会うまでは。
彼女は言った。
「これから毎年、私の家で一緒にお正月を過ごそう。」
彼女の両親も言った。
「あなたは私たちの息子よ。」
あのエリートで優しい男は、彼女の腕の中で声にならない涙をこぼした。